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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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◇51 過去の未来 その七。

『――レティシア』


 部屋に戻ろうとした時、聞き捨てならぬ名前が聞こえた。気がつけば、足は反射的にエストレラの寝室へ向ってしまっている。


「え、おい!」


 ノーランがすかさず扉とルキウスの間に滑り込む。


「ルーク、お前は入ったらダメだかんな!?

「邪魔、どいて」

「いーや! なに平然と入ろうとしてんの?」

「ルキウス、お前疲れてんだよ」

「オーリの言う通りだ、ルキウス。早く休め。どうせまだ帰ってから一睡もしてないんだろ?」


 お節介三兄弟をどう退かすか。


「…………あ――」

「「「えっ?」」」


 何気なく窓を見る。

 小さく声を上げて驚いたような表情を作れば、単細胞な彼らは簡単に釣れるのだ。

 案の定、揃ってそちらに顔を向けた三人の間を縫って抜ける。

 間抜けめ。


「あ、おい!」


 するりと部屋へ入った後、扉を後ろ手に閉める。


「みえるの! み、みたのッ! あの子が、わたしの子が、ち……ちだらけで」


 ベッドの上には青い顔で悶えるエストレラの姿があった。

 ベールの下に隠された顔を見たのは随分と久しぶりだった。


「……レティシア……レティ、シア……」

「母上、大丈夫だから」

「!?!?!? いやぁあああああああ」


 取り乱す母親を宥めようとアシェルが肩に手を置いて目線を合わせたところ(エストレラは見えないだろうが)、落ち着くどころか様子は更に悪化してしまったようだった。

 一体、彼女に何が起こっているというのか。

 ルキウスは注意深く観察した。


(バカっ)


 耳に届いたのは声を最小限に抑えたノーランの声。


(さっさと出ろ!)


 お前はダメだ、と首根っこを掴まれグイッと後ろへ引っ張られる。

 ノーランのようにエストレラの護衛でもなければ、ロージーのように使用人でもない自分がここにいてはいけないことは重々承知だ。


(あっ! おい!)


 ――だが。


「れてぃ……わたしのいとしいこ……」


 弱った声でレティシアを呼ぶ人に近づく。


「お前……何しに来た」


 こちらに気がついたアシェルが尖った声を出すが、そんなことは関係ない。

 親子なだけあり、愛しい人に良く似た容姿からほろりと流れる涙につきりと心が痛む。


「ルキウス。出ていけ」

「アシェル様、申し訳ございません。すぐに連れて出ます。――ほら、行くぞ!」


 ノーランに腕を掴まれるも、ルキウスの視線は一点に集中していた。


「おい、ルキウス??」


 ルキウスは見逃さなかった。

 焦点の合わないエストレラの目が淡く輝きを放っていることを。


「エストレラ様」

「その声……ルキウス、ね?」

「貴女に断りもなく入室してしまったこと、誠に申し訳ございません。しかしながら、聞き流すことの出来ない名前を耳にしてしまい、無礼を承知で馳せ参じました」

「いいえ……いいえ、良いのよ……」


 力なく微笑むエストレラに愛しいあの人が重なって見える。


「貴女は目が見えない」

「おい」


 すぐさま静止に入るアシェルを無視して言葉を続ける。

 ことが終わり用済みになれば即刻プリマヴェール追放処分でも下りそうな無礼を働いている気がする。

 だが、確かめなければならない。

 エストレラの様子から、ルキウスには一つ重大な可能性に気がついた。

 もしこの考えが当たっているのならば、自分の掲げる目的に大きく近づくことになるのだ。


「しかし貴女はレティシアを()()


 ルキウスの言葉に答えるようにポツリと零す。


「……みたの。みえたのよ」

「母上?」

「ルキウス……貴方にかかえられたレティシアよ。あの子の喉と、お腹から……服は真っ赤に染っていて……とっても、ぐったりしていたわ……」

「――まさか」


 アシェルは気がついたようだ。


追憶の識(レコレクタ)を発現しましたね?」


 ルキウスは確証を持ってエストレラに訊いた。

 レコレクタとは、プリマヴェールの祝福《先見の識》から派生した祝福。

 直系には発現しないが、他家からプリマヴェールに嫁いできた者に稀に見られる祝福だ。

 過去、この祝福を得た者たちは姓がロザートに変わったタイミングで発現した。

 元々ヴァルディアの貴族でなく、他国から嫁いできたエストレラは祝福無しと審判を受けた上で、今まで過ごしてきたわけだ。

 アシェルが気が付かないのも無理はない。

 今更、発現するだなんて、だれも思ってもいないことだった。


「後出しにも程があるぞ……何故今更」


 疲れきった表情でため息を吐いたアシェルの横で、不安そうに声を辿りこちらへ顔を向けるエストレラとはやはり視線が交わることは無い。


「……これがそうなの?」

「確かめてみますか?」


 焦る気持ちを何とか押さえ込みながらエストレラに問う。

 祈りの間に行けない今、確かめる方法はひとつ。

 実践のみだ。

 幸い、レコレクタの発動条件は知っている。

 前侯爵アルフレドが存命だった頃、様々な分野の専門的な蔵書が何から何まで揃った本の宝庫である執務室によく忍び込んでいたレティシアに便乗して読み漁っていた甲斐があった。


「おい、今日はもういいだろう。後日にしろ。母上、休みましょう」

「――どうするの?」

「母上!」

「視たい情景や物事を思い浮かべて下さい。その状態で人や物に触れます。そうすれば、貴女が触れた人や物が記憶している情景がビジョンとなって脳裏に再生されるはずです」


 エストレラがそっと手を伸ばした。

 触れた先にいたのはアシェルだった。


「母上……」


 プリマヴェールの者らが祝福を発動する時に現れるサインのようなものとして、瞳が光を帯びる。

 エストレラの目はやはり光は無いが、渦巻くような模様が淡く輝いていた。


「あぁ……。レティシアはあの日、そんなドレスを纏っていたのね……さっきみたものは真っ赤に、なって、いたのよ……」


 様々な感情が織り交ざった声にその場にいた皆が顔を歪めた。


「とっても可愛かったのね、妖精さんのようだわ」

「うん、レティシアはとても美しかったよ。――さぁ母上。お願いだ、もう休もう」


 アシェルに促されベッドへゆっくりと体を沈めたエストレラから、間もなくして規則的な呼吸が聞こえてきた。

 初めての祝福発動は相当負荷がかかったことだろう。


「アシェル様」

「…………」

「処罰は甘んじて受け入れる所存です」

「――当たり前だ」


 アシェルはルキウスに目を向けることなく応える。視線は母親へ注がれており、何を思っているのか、その心情を掴むことはできなかった。

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