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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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14 一難去ってまた一難。

「レティシア様の差し入れを見てぽわぽわ周りにお花が!」

「そうそう! いつもは崩れない表情がふにゃっとなって、周りにお花が飛び散るのなんの!」

「レティシア様に関わることにだけ表情が変化するの、やっぱり推せる~」

「今日の事だって、目撃したメイド達の中で鼻血を吹いて倒れた者がいるぐらいだしね!」

「え、それ大丈夫だったの?」


 鼻息荒く捲し立てる二人はレティシアの問いに気が付かない。


「立ち塞がる魔王に屈しず、果敢にも前へ進む姿は騎士の中の騎士!」

「そして、最後にはお姫様と幸せのゴールイン!!」

「まさに!」

「そう!」

「「恋愛小説の体言化!!!」」

「わ、わぁ……」


 それで行くと、魔王は父かな?


「ふたりとも、しょうせつのよみすぎよ……」

「巷では、今こういうお話が流行りですよ!」

「そ、そうなの」


 ルキウスとの衝撃の再会からはやニ週間。

 彼との接近禁止命令を出されてしまったレティシアは、午前中に設けられた絵画の時間にミアとリアからルキウスの活動報告を受けるのが日課になっていた。

 加え、屋敷ですれ違うメイドから騎士から頼まなくとも話が入る。


「ステキ過ぎますよ! だって、日刊紙に載っていたレティシア様に一目惚れして、侯爵様に直談判したとか」

「そして身分もない浮浪児で本当なら一蹴りされる所を、執事に必要な教養も護衛として必須な強さまでも兼ね備えちゃってたとか!」


 物語みたい! と、きゃっきゃっうふふを繰り広げる侍女二人の会話に当事者であるレティシアは押され気味だ。

 彼女たちが話している内容は、父の判断で箝口令が敷かれたために、あの日偶然にも発行されていた新聞記事を利用する形で意図して広められた話だ。

 新聞に載っていたレティシアの姿絵を見たルキウスが父に突撃訪問したことに筋書きが替えられた。

 腹を空かせた()()()孤児の侵入を天下の騎士団が許したなど、いかんせん外聞が悪いのが本音。


「ねぇ、トーリ。あの子の身辺調査ではやっぱり何も分からなかったの?」

「あー……うん。一切出てこないね」

「間があったわね、ミア」

「間があったわ、リア」

「「怪しい」」

「ちょ、そんな目で見るなよ! 孤児院の子供の記録なら兎も角、浮浪児の情報は集めるのが大変なんだぞ?」

「でも、あの作法のレベルの高さはおかしいでしょ! 私たち専属侍女よりも完璧よ!?」

「しかも、あなたより強いしね?」

「いや、手合わせしてないからわかんねーぞ」

「でもしたら負けるでしょ?」

「でしょうね」

「リアもミアも、なんでそんな俺に当たり強いんだよ……」


 レティシアの護衛騎士を任される程なので、トーリが騎士団でも有数の実力者なのは確かだ。しかし、侍女二人の言う通り今のルキウスがトーリより強いのもまた確かだと思う。

 あの日の屍の数と団長のアーロン自らが対応しているのを見てしまった身として否定ができない。


「レティシア様、アイツ凄いですよ! 体術とか剣術とかどこで習ったのか強すぎて、相手出来るの団長か親父しかいねぇもん」

「やっぱりルキウスくんの方が強いじゃない」

「ほんとにね」

「ちがっ、まだ分かんねーぞ!!」

「「()()」」

「だぁぁぁぁあ!」


 今世のルキウスは出会って早々から豪傑な訳だが、回帰前ではそうでなかった。その事に、どうしても引っ掛かりを覚える。

 前世の彼の強さが騎士団に揉まれる中、必死の努力の末に身についたものだとレティシアは知っている。

 だから、アーロンと互角の強さと言われている今世のルキウスには違和感を拭えない。


「……人生二週目?」


 なのだろうか。


(でもなぁ)


 ルキウスはレティシアに「初めまして」と言った。

 だが、彼自身が “レティシアに一周目の記憶が無い” と思っていたら……。

 どうだろうか。

 話は変わって来る。

 直球で「貴方は人生二回目?」と聞くか。


(いや、無理……)


 下手すれば、レティシアは頭がおかしい幼女に昇格だ。


「――それはちょっとかなりいやかも……」


 好きな人に引かれるなんて、冗談抜きに胸が張り裂けてしまう。


「はぁ……」


 答えが出ない問題に一人頭を捻っている間に、侍女二人と護衛とでルキウスの話の盛り上がりは最骨頂に達している。


「そういやさ。あいつに関して、俺の警戒心が働かねーんだよな」

「あ、分かる。なんでかしらね?」

「私は分かるわよ。一番の理由はやっぱりあれでしょ!」


 ルキウスが明らかに尋常ではない訳アリさを抱えているにも関わらず、使用人一同歓迎ムード全開な理由は実に単純だった。


「あっ、そうね!」

「えぇ! 何より!」

「「可愛い!!!!」」


 それだけ? と思うだろう。

 そう、それだけなのだ。

 だがこれが、なかなか有効なのだ。

 容姿が良いって何かと得なことが多い。


「あ~。まぁ確かに」


 あの日泥まみれだったルキウスは処遇が決まるや否やメイド達により身綺麗にされることとなったのだが――。


「同じ男か、俺疑ったもん」


 伸び放題だった髪を整えて、見習騎士の制服に身を包んだ姿が発狂するほどの可愛さだった。

 ――とは、屋敷で働くメイドたちの言葉。

 その後に身元を引き渡された騎士寮でも、どよめきが起きたとか。

 侯爵家の跡継ぎであるアシェルの顔を見慣れている彼等が言うのだから相当だ。

 レティシアは泥だらけのルキウスしか見ていないから、彼らの報告で想像するしかない。

 回帰前、十五歳手前のルキウスは子供と大人の狭間を彷徨っているような容姿をしていた。

 十二歳の今回は、まさに子供! な顔立ちだろう。

 十代の二年は大きい。


(――私も見たい)


 あの日から一週間を過ぎた辺りから、 ()()()の可愛い少年に対して頑なな父に使用人一同よりブーイングが出始めているらしい。

 このままではボイコットでも起こらんとする勢いだ。


「レティシア様、失礼致します。ルイーズ様がお越しになられました」

「うそ、もうそんなじかんなの?」


 止まらない話に終止符が打たれたのは、それから数時間後。

 時刻はすっかり午後を回り、授業が始まる十分前だった。

 屋敷が広いから十分あっても教室まではギリギリだ。


「たいへん!」


 スケッチブックから一枚引っペがし彼らに渡す。


「はい、これ。あなたたちにあげるわ」

「「「!」」」

「「私の!」」

「俺も欲しい!」


 三人別で描いた方が良かったかもしれないが、後の祭りだ。


「なかよくねー」


 絵の争奪戦を始めた三人の横を抜け、待機していたノーランと共に呼びに来た侍女長に着いていく。


「ねぇ、お嬢。オレのは?」


 上半身を折り曲げて横からお伺いをかけるノーランに微笑ましくなる。


「またこんどね」

「やった」


 主人の約束にノーランは小さくガッツポーズした。


「では、わたくし共は此方で。今日もご無理はなさらないよう」

「頑張れよ~」


 侍女長はガヴァネスが待つ部屋の前で行儀よく一礼した。彼らは、ルイーズの要望で指導中この部屋には入れないのだ。

 レティシアはノーランが開けてくれた扉を潜り、深呼吸をしてから窓の外を見る女性にカーテシーをした。


「ルイーズ先生。本日もよろ――」

「遅かったですわね」

「もうしわけございません」


 深深と頭を下げて、五秒待つ。


「リマヴェーラ公爵家の令嬢としての教養やマナーはもちろん、語学、絵画、音楽――一秒たりとも無駄には出来ないのです。なのに遅刻とは、心構えがなってないのではなくて? 先生は非常に心配ですわ」


 時計の針が指すのは午後二時零分。授業開始時刻ピッタリ。

 本来なら五分前に着席が理想だが、今回だって遅刻はしていない。と思わなくもないが、当のガヴァネスは不機嫌なので無駄な反論は控えて謝るに限る。


「そこにお座りになって」


 レティシアの家庭教師ルイーズ・ファルメリア。

 リアパウンド伯爵家ご令嬢で両親同様王立アカデミー出身。母とは同級生である。

 紺色の直毛と猫のような鋭さがある同色の目、首元までしっかりボタンが閉じられたドレスでは隠しきれない豊満な身体。

 どうしたら、あそこまで胸が大きくなるのだろう。ちょっと羨ましい。

 回帰前の自分は残念ながら、青年期を迎えても見下ろせば自分の臍が見えるほどストンとしていた。

 どこがとは言わない。

 今回の人生は牛乳を沢山飲もうか。


(いや……牛乳の効果は背丈に出るのだったかしら?)


 実に羨ましいボディラインをした家庭教師はレティシアのその視線には気づいていない。


「そういえば、先日は祝福の儀式でしたね? 結果はいかがでした?」


 ルイーズの経歴は凄い。

 アカデミー卒業後、王宮女官で下級から上級まで最低十年はかかる所をものの三年で登り詰めたという偉業を持つ。

 両親と時を同じくしてアカデミーに通っていたという事もあり、今は縁あってレティシアのガヴァネスを務めている。

 しかしながら、いかんせんレティシアの前では態度が悪い。

 両親の前ではまさに淑女のお手本のような彼女だが、回帰前には幼い少女の将来を翻弄する言葉を放った女性だ。


「ごじつもうけられる、げっけいかんじゅりょうしきてんで、はっぴょうがありますので、おまち――」

「まぁ勿論? サイメシアかとは、思いますけど。あら、どうされました? 淑女たるもの、そんな表情はよろしくなくてよ? あっ、もしやエストレア様同様……ねぇ?」

「何がおっしゃりたいのですか。先生」

「んふふ。いえいえ、お気になさらないで。幼い貴女が気にすることではありませんわ」


 今だからこそ気付くルイーズの棘。祝福を持たない母への不遜な言葉に思わず眉間にシワが寄った。

 人の話を遮るとは、そっちこそ淑女としてどうなんだ案件である。


「先生は寛大ですから見逃して差し上げますが、その傲岸な態度は社交界では隠すことをお勧めしますわ。これからは、侯爵家()いてはアル様に恥をかかせぬような淑女のマナーを身につけていきましょうね」

「――ごしどうのほど、よろしくおねがいいまします」

「良いでしょう。さて、前回からかなり経っていますから、復習から始めましょうか」

「はい。先生」


 回帰前から少しずつ蓄積されている釈然としないモヤモヤが晴れるのは、まだ少し先の話。

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