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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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00 残響。

 空は薄暗く少し肌寒さが残る早朝。

 肩にかかる程の少し長い黒髪を靡かせながら、身なりの良い男が丘へ続くレンガ調の舗装が剥がれかけた道を進んでいた。

 男が向かっているのは領地を一望できる美しい場所だ。そして、男の想い人が愛した場所であり、その人が眠っている場所でもある。

 辿り着いた頂上には枯れかけた木が一本のみポツリと立っていた。

 男は跪くと腰に携えたソードから栞紐とロケットペンダントを外し、枯れかけた木の傍にひっそりと設けられた墓碑の前に置いた。栞紐は男が想い人へ贈った最後のプレゼント、ペンダントは最後に言葉を交した日にその人から御守りとして受け取ったものだ。


「お久しぶりです」


 応えるかのように風が頬を撫でる。

 優しい風を受け、男は周りを少し見渡した。

 この丘から見下ろすのは、かつて活気に満ち栄えていた領地だ。緑で溢れていた広大な土地は今やただの更地へと還っている。

 この丘もそうだ。

 想い人が愛した場所は随分と変わり果ててしまった。可憐な小花が咲く草原と煉瓦の道がまだ鮮明に思い出せる。

 そして、この枯れかけた木も少なくとも五年前までは青々とした葉をつける立派な大木だった。

 春になると成る薄桃色の花を背にした彼女はとても綺麗だった。


 少し逡巡してから、気を取り直したように墓碑に目を向け口を開く。


「全て終わらせてきました。――貴女を死に追いやったアイツを…………すぐにでも貴女に報告致したかったのですが、血に(まみ)れた見苦しい姿を見せる訳には行きませんから身体を清めて此方に馳せ参じた次第です」


 キリリとした表情で胸を張る様子はまるで褒めてもらえるのを待つ忠犬のようだった。だが、その表情も大事なことを思い出したかのようにすぐに陰ってしまう。


「ここまで長かった。とうとう、終わった。……でも、でも、終わってみたら虚しいだけでした。だって貴女は、戻らない。成し遂げても、貴女は帰ってこないッ」


 復讐を終えてしまえばそれは、男の中で愛しい人の死を完全に受け入れなければならない事を指す。

 言いようのない苦しみに握り締めた拳を地面に叩きつけ、両膝を付き項垂れ、顔は涙でぐちゃぐちゃだ。男が泣いたのはこれが初めてだった。

 想い人が見たら、綺麗な顔が台無しだ、と笑いながらあやすのだろう。


 彼女が腕の中で息を引き取った時も涙は出なかった。長い間、男は愛する人の死から目を背けていたのだ。

 決着をつけた今、彼女がもういないという真実を受け入れる他なかった。


 花が綻んだような笑顔がみたい。

 鈴を転がしたような声が聞きたい。

 宝石のような瞳に自分を映して欲しい。

 自分の髪を梳き解す柔らかな手の温もりを感じたい。


「貴女を喪って世界から色が消えてしまった」


 復讐に心を燃やした男は、自分が知り得る中で最も残忍な殺し方で憎き相手を討ち取った。


「なにか変わるかと思った」


 しかし、男にとって何の意味も持つことは無かった。それどころか虚しさに苛まれるだけだった。


「逢いたい――逢いたいよ」


 男は心からそう願った。

 他に望むものは何も無いと。


 目を伏せ、強く、強く願った。


 どれほどそうしていただろうか、領地と領地を隔てる山の向こう側から太陽が顔を出し始めていた。

 眩しさに目を細め、男は屋敷に戻るべく最後の挨拶をと美しいソードを腰から外し墓碑の前に降ろす。


 今は亡き彼女を想い、目を閉じる。


 愛してる。昔も、今も、この先も――。


(僕には貴女だけだよ)


 ゆっくり目を開け、そして、広がる光景に焦る。

 栞紐が何故か燃えあがり、ペンダントは乾いた音を立てて割れてしまったのだ。


「だ、ダメだっ」


 手を伸ばした次の瞬間、男の視界を光が覆い、そして全てを飲み込んだ。

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