68話 星良の変化
新キャラ登場です。
正式に源五郎さんから星良との交際を許されて以降、俺に対する星良の距離感は更にバグっていた。
これまで以上に俺に引っ付き、人目などお構いなしに俺に愛を振りまいてくるのだ。
それは学校の教室内ですらも変わらなかった。
「はい誠也君。あーんして♡」
クラスメイトの視線などお構いなしに、箸でつかんだプチトマトを口元まで運んでくる。
「あ、あのな星良……もうちょっと周囲の目をだな……」
「あ~ん♡」
四方八方から突き刺さる視線に耐え切れず、俺はやんわり人目を気にしてもらうよう促すが、星良はお構いなしに俺にベタベタのまま。
やばい、源五郎さんから認められてからドンドン歯止めが利かなくなりつつあるぞ……。
これまで昼食時は屋上で二人きりだった。だからこそ校内でも食べさせ合いっこをしたり、お互いに抱きしめあったりもした。そして星良もまた、教室やクラスメイトの前では適切な距離感を維持し続けていたが、今となっては校内だろうが校外だろうが遠慮がなかった。
もちろん嬉しいと言えば嬉しいが、クラス中から向けられるこの視線は痛すぎるのだ。
「お、おい星良。流石に教室では節度を……」
「私に食べさせてもらうのは嫌?」
ぐっ、またそんな捨てられた子犬みたいな目を……!?
これもまた、星良に起きた新たな変化だった。
今までの様にいたずらっ子の様な笑みを向けてからかうだけでなく、ここ最近ではこうして悲しみの籠った目で見つめる事も増える。
そして演技と分かりつつも、こんな悲し気な表情を見せられると抗う気力など根こそぎ削がれてしまうわけで……。
「あ、あーん……」
こうして結局は俺が折れる事となってしまうのだ。
「いやーお二人さん。今日もお熱いですな~」
軽やかに1人の女子生徒が俺たちに声を掛けてきた。
「もうすっかりクラス公認のカップルだね~」
「あまりからかうなって滝川」
俺が渋面を浮かべると、彼女は『満更でもないじゃん』とさらに笑う。
気さくに声を掛けてきたこの女子は滝川百地と言う名の女子。
彼女はこのクラスの中ではいわゆるムード―メーカー的存在で、誰にでも分け隔てなく接するコミュ力の高さらか男子だけで無く、女子からの人気も高かった。
星良と交際前の俺にも、彼女は気軽に挨拶をして話しかけてくれた。
「それにしても星良のお弁当、日に日にレベルが上がってるよね。やっぱり誠也君の為に頑張ってるのかい?」
「もちろん。毎日誠也君を想って日々進歩してるからね」
からかい半分の百地に対し、星良は笑顔でサムズアップ。
「見せつけちゃってぇ。あっ、結婚式には私もぜひ招待してね」
「流石に話が飛びすぎだろ……」
俺がジト目でそう言っても、彼女はニマニマ笑って『そうかなぁ~』っと揶揄される。
ちなみに星良の心中は『け、結婚。子供は何人ぐらい誠也君は欲しいのかな?』なんて考えていた。
溜息を吐く俺と、顔を赤らめて妄想に浸る星良。そんな俺たちカップルを面白そうに観察する百地はいささかうっとおしいが、俺や星良も彼女に対しては好印象を抱いている。
俺と星良の交際がクラス内で発覚したあの日、クラスメイトの大半は不釣り合いなカップルだと言い、挙句には双葉の虚言に踊らされ俺を敵視していた。だが彼女は俺に対して悪印象など持たず、むしろ俺と星良の為に裏で動いてくれていた。
それに律儀にも俺と星良へ個人的に頭まで下げに来たぐらいだ。
――『二人とも、あの時はごめん。クラス中がヒートアップしちゃって、怖くて見て見ぬふりしちゃってさ。今後もクラスで二人の関係に何か言う人が居たら私にも相談して! 今度こそは力になってみせるから!』
今にして思えば、俺がクラスメイト達から嫉妬の視線を向けられなくなったのも気になっていた。もしかしたら彼女が裏でクラスメイトを説得していたのかもしれない。
それから昼食を取り終わると、百地を交えて俺たち3人は談笑して時間を過ごす。
星良もこの百地に対してはひときわ仲が良く、俺と二人の時間に割って入ってこられても嫌な顔をしない。ちなみの他のクラスメイトが俺と星良の時間を邪魔した際は、表情にこそ出さないが明らかに星良の空気が変化を見せる。こう……恋人同士の時間を邪魔して、空気読めないの? みたいな……。
ただ星良と恋人同士の時間も大切だが、クラスメイトとこうして過ごす時間も俺は好きだった。
「あっそうだ。実はちょっと二人に相談があるんだけど……」
そう言いながら百地は俺たちにこんな相談を持ち掛けてきた。
「あのさ、二人って幼馴染から恋人になったんだよね。そのぉ、やっぱり幼馴染ってポジションは恋愛で有利に働いたりするの?」
「んん? どうしてそんな質問すんだよ?」
交際前の相手に訊くならばまだしも、既に交際済みの俺たちにそんな質問をする意図が分からない。
いまいち百地が何を言いたいのか分からず、俺たちは揃って小首を傾げる。
「いや~……実はさ、私もちょっと気になる男の子が居るっていうか~」
そう口にする百地は、これまでと違い恥じらいを隠し切れない乙女な表情をしていた。




