18話 反省0の元幼馴染
午前の授業も終わり学生たちにとって待ちわびた昼休みが訪れる。
いつものように昼休み開始と同時に学食に向かう者達や、仲の良い友人同士が机をくっつけて弁当箱を囲む。
そして俺の昼と言えば基本は一人寂しく学食だったのだが、この日は違った。
「誠也君、一緒にお昼にしよう」
満面の笑みと共に星良が俺に駆け寄って来た。
その手には可愛らしい風呂敷に包まれた、二つの弁当箱が片手ずつ握られていた。
「え、星良って意外と大食漢だったの? 1人で二人分も食べるなんて知らなかった」
「そんなわけないでしょバカ! これは誠也君の分に決まってるじゃない」
大食い呼ばわれされた星良は頬を膨らませながら、右手に持っている弁当箱を俺の頬に押し付けてきた。
「え、俺の分なのこれ?」
「そうだよ。誠也君っていつも学食だったから作って来たんだ。お小遣いの節約にもなるでしょ」
「あ、ありがとう」
彼女の言う通り俺は基本学食で、教室で弁当を広げる事なんて滅多になかった。
どうやらそのことを見越し、彼女は俺に手作り弁当を持参して来たらしい。
俺の為に早起きして作ってくれたのか。やばっ、すげぇ嬉しい……。
生まれて初めて母親以外からの手作り弁当に俺は感激し、思わず弁当箱を持ったままじーんと胸を熱くさせて固まる。
「ほら、一緒に食べよう」
気の利いた反応も取れず固まる俺の手を引き、星良は教室を出ようとする。
クラスの皆は雑談を止めて俺たちを見ていたが、もう気にもならなかった。
「え、教室で食べないの?」
「うん、ちょっと居心地悪いからね」
確かに学園のアイドルと二人で手作り弁当を食べる、そんなイベントはクラス内に残っている多くの男子から反感されかねない。
だがどうやら星良が気にしたのはそちらではなかったようだ。
「ああ、そういうことか」
教室を出る直前に星良の意図を読み取ることができた。
俺と星良のことを双葉が凄い形相で睨んでいる。
あんな今にも飛び掛からんばかりの人間がいる前では、のんびり昼食を取ることは確かに困難だろう。まだ嫉妬に満ちた男子達の目の方が百倍マシだ。
もう俺にとってあいつは〝ただのクラスメイト〟でしかない。ましてや見当違いな敵意を向ける人間に俺と星良の時間を邪魔されたくもなかった。
「それじゃあ屋上で食べよっか。それとも誠也君は他に何か案がある?」
廊下を出てすぐに星良からそう提案された。
恐らくは誰もいないであろう屋上で好きな人と二人でお弁当、その幸福極まりない時間に異論などなく俺は頷いた。
「えへへ、誰もいないといいね。私も誠也君と二人で過ごしたいから」
まるでこちらの心を読んだかの様な発言に、照れくさそうに笑うしかできなかった。
◇◇◇
誠也たちが教室を出た後、静かだった教室がざわつき出す。
「見たか、北條さん手作り弁当まで作ってたぞ」
「もう完全にカップルじゃん」
朝の誠也の交際宣言、そして今の二人のやり取りで教室内は完全に二人がカップルだと確信を持っていた。
「でもまさかあの情けない男の大道と付き合うなんて。北條さんって意外と見る目なくね?」
男子の1人がふざけ半分でそう言って茶化すが、近くに居た女子の1人が反論した。
「やめなって。誰が誰を好きになるかは自由じゃん」
その女子の1人をきっかけに、他の女子達も申し訳なさそうな顔で続けた。
「うん、恋愛は自由だし……」
「それにさ、大道君だって別に情けなくないと思うな」
「な、なんだよお前ら。急に大道の肩なんて持って」
まさか自分が非難されると思わなかった男子が狼狽の声を上げる。
だが抗議の意を唱えたのは女子だけでなく、男子からもちらほらと出始めていた。
「俺たちも大人げなかったんじゃねぇか。そのよ、一方的にあいつを悪く言い散らしたりして……」
「うん、今にして思えば恥ずかしい事してたと思う」
その言葉にからかい出した男子だけでなく、クラスの全員が朝の出来事を振り返っていた。
1人の男子生徒を集団で責め立て、疑惑の目に晒す。それを悪意なく行った。あの時の自分たちに良心の呵責などなく、誰もが今にして思えば恥ずかしかった。
そしてその逆、そんな悪意なき自分に真っ向から立ち向かった誠也の立派な姿勢に負い目も覚えていた。
反省空気が漂うクラスの中、ただ1人の女子だけは納得できず義憤に駆られていた。
「ぐぐ……んぐぐぅ……」
それは誠也に真っ向から言い負かされた双葉だった。
どうしてよ、どいつもこいつも誠也の味方しておかしいじゃない……。
二人仲良く弁当片手に教室を出る誠也たちを、私は歯ぎしりしながら見送る事しかできなかった。
それに引き換え今の私は仲の良かった女子連中からもハブられ、自分の席でポツンと孤独に弁当をつついている。いつもは一緒に机をくっつけるグループも、朝の遺恨が残っているのか露骨に敵意を滲ませた目でさっきから私を睨んでいた。
それだけではない。クラスの皆の目も明らかに温度が低くなっており、誠也を孤立させるどころか私が孤立に近い立場に追い込まれてしまっていた。
このままじゃすまさないわよ北條星良。そして……誠也、この私から逃れられると思わないことね。
クラスに反省の空気が漂う中、ここまで来ても彼女だけは罪悪感など皆無だった。
弁当箱のプチトマトを箸でグサッと刺しながら、彼女の瞳は憎悪の炎がより強く燃え盛っていた。




