第2話
勇樹は風美との今日の一連の話を太輝に話した。
今日観た映画の内容もあらすじ程度のことだけ話す。
本当は、あそこが良かったとか、ここがダメだったとか、細かく語りたかったのだが、太輝はデジタル配信待ち派なので内容について語り合うのは半年後ぐらいの事だ。
同じファンなのだから映画館での鑑賞に誘っても、いい大人が映画館で観るには恥ずかしい、と断られる。
「訊かなきゃわからないだろうけど……訊いて答える風美ちゃんじゃないわな」
太輝も同じ考えのようだ。
太輝の言葉にため息をつくと、勇樹は手に持つジョッキを高く掲げ目の前のマスターに、おかわり、と告げる。
マスターは一旦太輝に目をやり、太輝がそれに気づき頷くと、はいよ、と勇樹からジョッキを受け取りサーバーからビールを注いだ。
勇樹は酔いが顔に出にくく、止め時がわかりづらい。
だからマスターは、勇樹が荒れそうな時は太輝に任せるようにしている。
勇樹が酔いつぶれる前に止めることができるのは太輝だけで、酔いが酷くなれば、台風のように周囲を荒らし回るからだ。
「……しかしまぁ、確かにお前はヒーローっぽくは無いよな」
「はぁ? お前まで何だよ?」
勇樹は少し酔っぱらい始めたのか語気が少し強くなった。
酔いを理由にせずとも、気に障るだろう言葉なのは太輝にもわかっていた。
「三十を前にしてさ、まだフリーターなんかやってて、ヒーローなんて言えないだろ」
「はっ、ヒーローにだって職業がない奴もいるよ。年中世界中旅してる奴だっているし」
「そりゃ冒険家みたいなもんだから、フリーターよりよっぽどヒーローらしいじゃないか」
ヒーローと一口に言っても、その意味は多種多様だ。
二人の間で交わされるヒーローという言葉は特撮ヒーローに限定されているが、風美が言ったそれも同じであろう事はわざわざ確認するまでもない。
しかし、特撮ヒーローと限定したところでそれもまた多種多様にいる。
無職で住所不定のヒーローだっている。
そういう人物は、たいてい人柄で信頼を得ている。
迷子を助けた自分が、その人柄を否定されたとは思えない。
かといって、太輝が言うような職業への指摘だとしても今さらでしかもタイミングとしては変だ。
「確かにお前みたいに刑事だったら、ヒーローって感じだけどさ……」
太輝は少年係の刑事だ。
父親も今も現役定年間近の刑事で、太輝はそんな父親に憧れて幼い頃から刑事を夢見て育った。
大人になって長年の夢を叶えた太輝は勇樹にしてみればヒーローの様に思える。
風美が太輝の事を賞賛していたのも思い出される。
「だけど、何だよ?」
「あの場面でそういう話は、やっぱしない気がする」
迷子を助けた場面で職業云々の話はしないだろうし、もっと違う何かについて風美は言っている気がする。
何かが足りないというより、何かが違うという感じ。
ふと、勇樹は太輝の事をまじまじと見つめた。
太輝はそんな勇樹に、何だよ、と問うが勇樹は返事をせずただ見つめてくるだけだ。
太輝は、二枚目だ。
癖っ毛ある髪型をナチュラルにセットし、細長い眉毛は少しつり上がっているがそれでいて瞳は優しさを感じさせる。
顔のラインはシャープで、無精髭は一切無い。
服装はいつだって清潔感溢れる背広だ。
長身で、刑事になるために幼少から鍛えていた為に体つきもいい。
男女共に好かれる様な男で、見た目に欠点を探すのが難儀なぐらいだ。
一方の勇樹も「自然体」といえば自然体なのだが、言葉に甘えたボサボサの頭。
少し太めの眉毛は垂れ下がっていて、細目の目も同じく下がっている為に真顔でいても泣き顔に見える。
顔のラインはシャープだが、無精髭がだらしない。
服装はいつだって近くの服屋の安物だ。
今日の服装もフェイクパーカーの黒のブレザーとイギリス国旗がデザインされてる白いトレーナー。
右足に白い炎のデザインの入ったジーンズに、履き崩した茶色のスニーカー。
中肉中背の体型は、どれも長続きしなかった運動の成果という、中途半端な結果だ。
今さら見た目について風美が言うとは思えないが、確かにヒーローっぽさは勇樹の見た目には無い気がした。
最近のヒーロー達はイケメンばかりだし、昔懐かしのヒーロー達の様な渋さや険しさもない。
ヒーローっぽさという話なら、見た目も職業も勇樹より太輝の方があるだろう。




