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TOBE  作者: 清泪(せいな)
レッツゴー

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15/18

第15話

 数ヶ月ぶりに訪れた《2Bee》は、いつもと変わらない様子だった。

 夜の開店時間を待って到着した勇樹は、迎えてくれたマスターの声に安堵する。

 開店時間だというのに相変わらず店内は閑散としていて、客と言えばカウンターに座る一人――風美の姿だけだった。

 その風美は、入店してきた勇樹の姿を一瞥すると、すぐさまマスターの方へ向き直した。

 漂う緊張感に勇樹は笑みを零した。

 店に入るまで緊張していた勇樹だったが、風美の様子を見て肩の力が抜けた。


 マスターに軽く会釈して、勇樹は真っ直ぐ風美の側へと近づいていく。

 近づく足音に決心したのか、風美も勇樹に対して身体を向ける。


「ただいま」


「お、おかえり」


 微笑みを浮かべ言う勇樹と、少し照れを浮かべて答える風美。

 続く言葉が無く、少し間があく。

 勇樹の表情からして何かを待っているようで、風美は少し考えた後、それが何か思い至った。


「あ……ただいま」


「おかえり」


 怪我の治療に入院していた勇樹に風美が見舞いをしなかったのは、来なかったのではなく、来れなかったのであった。

 ヒーローの評判の為に世間から隠された形となっていた勇樹に対して、風美もメンテナンスの調整休暇という実質の謹慎処分を経た後、更に修行パートという回を重ねられてヒーロー活動から外されていた。

 少年を殴ろうとしたことに対して自責の念を感じていた風美は、そういったヒーロー広報の為のイメージ作りを甘んじて受けていた。

 その修行パートの最中に、後輩となるヒーローとの交代劇を考えられていることも理解していた。

 御無沙汰となったテレビ放映で、妙に感動的に盛られた交代劇を演じさせられることになった。

 その日初めて会う後輩ヒーローの大学生に、まったく抱いてもいない感情をぶつけて、風美はヒーローとしての引退を迎えた。


 『ただいま』は、ヒーローではなく紫滝風美として戻ってきたという意味だった。

 太輝から事情をそれなりに聞いていた勇樹は、互いの区切りにと、おかえりと返すのを待っていた。


「勇くん、ご注文は?」


 互いの挨拶に緊張が解れた後、少しの恥ずかしさが漂い、更に次の言葉を探り合う二人を見て、マスターは助け舟と声をかける。

 勇樹は少し悩んだあと、マスターの背後に飾られたメニューボードに書かれた文字を見つけた。


「とりあえず、体力作りってことで、そのスタミナ定食っていうの、お願い出来る?」


「これ、昼用メニューなんだけど。まぁ、いいわ。退院祝いに特別に作ってあげる。飲み物はビール?」


「うん、よろしく」


 勇樹はマスターにそう返事して、風美の横に座った。


「退院早々、ビールなんて身体に大丈夫?」


「早々、って程でも無いし、怪我治ってから実は結構経ってるからね。病院食で整った身体に、ビールは染みるんだ」


 オススメはしないけどね、と勇樹が付け加えて、何それ、と風美は笑って返した。


「ねぇ、勇樹」


「ん?」


「お見舞い行けなくて、ゴメンね」


「そんな、謝ることじゃないよ。風美だって大変だったって太輝から聞いてるから知ってるよ。そばにいてやれなくて、こっちこそゴメン」


「何それ、すっごい彼氏面」


「元彼氏、なんだから良いだろ、そのくらい?」


 真面目な、そしてほんの少しの格好つけを茶化されて、わかりやすく不貞腐れる勇樹に笑いを堪えきれなくなる風美。


「何だよ、そこまで笑うことないだろ? こっちは大真面目なんだぞ」


「普通、元カレがそんなこと言ったら、ちょっと怖がられるかもよ? そばにいてやれなくてゴメン」


 勇樹の口調を茶化すように真似する風美。

 聞いてるマスターも風美の誇張する真似に思わず吹き出してしまう。


「いや、マスターまで! ちょっとぐらい格好つけたって良いだろう」


「ゴメン、ゴメン。あまりに勇くんっぽくて、つい」


「は?」


 マスターの言葉に戸惑う勇樹。

 その横で風美は笑いながら大きく頷いていた。


「そうそう、勇樹っぽいの。ほんと、そう。自分がお腹刺されて大変だったってのにさ。言うと思ってたんだよね、勇樹なら」


 そう言いながら風美は笑いが止まらなくなり、カウンターテーブルを手で叩き始めた。

 バンバン、と音が鳴る中、勇樹だけが何を言われてるのかわからなくて困惑したままだった。


「ゴメンね、本当にゴメン。なんか安心しちゃって。お腹刺されてさ、あの時も勇樹は自分のことよりあの少年のこととか私のこと考えて、私を止めようとしてくれたじゃない? そういうのがさ、あまりにスゴいことじゃない? なんかスゴすぎて笑っちゃうというか、和んじゃうというか」


「それって、一応褒められてる部類なんだよね?」


 未だに言われてることの本質を理解できないままの勇樹は、恐る恐るそう質問を挟む。

 風美は涙を浮かべながら、笑顔で何度もうなずいた。

 それだけで、十分すぎるほどの答えだった。

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