【マチュアの章・その1】ファンタジーしてみました
これは、【異世界ライフの楽しみ方・原典】の改訂版です。
内容その他は概ね変更はありませんが、一部加筆修正を加えてありますので。
白亜の空間から解放されて。
静かに、世界が広がっていく。
そして脳裏に様々な声が聴こえる。
『善、そして真央よ。二人の意識と記憶から、貴公らに最適な転生を施した。我々神域に住む者たちは、世界法則を歪めるゆえ、これ以上の干渉を行うことはできない。だが、助言程度なら行えるかもしれぬ……私に何か問いたいときは、この世界にある八大神を祀る教会を訪れなさい……』
「はぁ、無理やり転生させておいて、その言い草って。それも、干渉すると世界法則が歪めると言っておいて、困ったら問えとは、また理不尽極まりないわ。本当に、神様って自由だよなぁ」
『それが、摂理ゆえ』
「いやっかましいわ……まあ、転生させてくれたことについては、お礼を言わせてもらいますけれどね」
そう呟きつつ、真央はゆっくりと体を起こす。
今いる場所は、どこか知らない草原。
青い空、白い雲。
そして静かに流れるそよ風が、真央の頬を優しく撫で上げる。
この外見で真央という事実にも違和感があるが、まあ、いいでしょうと自身で納得する。
そして改めてステータスを確認すると、やはり真央の外見はエルフの女性になっていた。
「ハイエルフのマチュアかぁ……はぁ。とりあえず、異世界転生は成されたってことだよなぁ。まあ、それなら、思う存分に楽しむしかないよなぁ」
──ゴソゴソ
そう自分に言い聞かせてから、マチュアは自分の身体だけでも調べてみる。
周囲を見渡し、人の気配がないのを確認してから、こっそりと。
「うむ。あるべきものがなくなって、なかったものがある……まあ、それだけで十分だ、そう思っておこう……」
真央は、マチュアの初期装備のまま、マチュアの外見で草原に放り出されてしまった。
ということで、これからの方針を考え始める真央、改めマチュア。
まずやらなくてはならないことは【魂の修練】について調べる事。
これは一体何をしたらいいのかさっぱり判らないので、あちこちで調べる必要がある。
次に、この世界で生き抜くための手段。
まずは人のいる場所に向かって、そこで色々と情報を得る必要がある。
「まずは手探りでいくしかないか。はぁ、フルダイブ式MMORPGって、きっとこんな感じなんだろうなぁ。でも、俺たちの世界でもまだ存在していないフルダイブを体験している感じとは、なんというか……意外と楽しいよなぁ」
そんな独り言を呟きながら、マチュアとなった真央は周囲を見渡すと、まずは人のいる場所を探すべく草原を歩みはじめた。
○ ○ ○ ○ ○
「理力の楯よっ!!」
そう叫びつつ右手に持つ魔導書に魔力を込める。
すると、マチュアの前方1mほどの空間に、3枚の透き通ったタワーシールドが展開した。
──ガイィィィィィン
その直後、マチュアに向かって突進してきたイノシシもどきの魔獣が、彼女の作り出した理力の楯と呼ぶ魔法の楯に向かって直撃した。
脳震盪でも起こしたのか、フラフラと足元がおぼつかないイノシシもどきに向かって、マチュアはさらに追い打ちを仕掛けるべく左手に構えた魔導書から、炎の矢の術式印を読み上げる。
「そーれっと。炎の矢よ!! わが魔力を糧とし顕現せよ……燃、え、お、ち、ろぉぉぉぉぉっ」
周囲に漂う【魔素】と呼ばれる世界の根幹物質。
それがマチュアの魔力と詠唱、そして術式印によって誘導され集まると、それは火の玉となり、やがて炎の矢に変化した。
──ドシュッッッッッ
そして実体化した魔法による炎の矢はイノシシの頭部に突き刺さり貫通し、一撃でイノシシを絶命に至らしめた。
「ふむふむ、魔法は周囲に漂う【魔素】と【触媒】と呼ぶ秘薬の消費、それに力を与える【詠唱】によって発動すると……」
手にした分厚い魔導書を読みつつ、魔法の原理を読み解き始める。
すると不思議なことに、スラスラと頭の中に魔術の原理が入っていくのが判った。
「おや?」
因みに、【魔素】と【詠唱】はあるが、マチュアの手元には【触媒】がない。
慌ててウィンドウを開いてスキルの説明部分を詳しく読んでみる、どうやら魔法の発動には幾つかの条件が必要だが、マチュアの場合は魔導書が存在しているため、【触媒】は必要ではなくなっている。
加えて術式詠唱についても この世界特有の長い韻を含んだものは必要なく、呪文名を唱える【簡易詠唱】でもオッケーという結論が出た。
「将来的には詠唱すらカットする無詠唱発動も修得可能だというのは凄いが……今は、確実に発動する方法からいってみようそうしよう」
近道ではなく地道。
それがマチュアのモットーでもある。
そんなこんなで、ある程度の魔法の勉強を終えると、いよいよこの世界の攻略を開始。
まずは生きるために、衣食住を得るところから始めようと考えると、今の自分に足りないものを調べることにしたのだが。
衣……バッグパックに入っているのでよし。
食……食べれるものを捕まえて食べる。そもそも調理師スキルはGMである。
住…人の住む街にいこう。拠点の街を作ろう。
どうやら、初期装備によって、住居以外はなんとかなっている。
そう簡単な結論を組み立てると、次にこの世界を知ろうという方向に頭の進路を切り直した。
そしてウインドウを開いて色々と調べているうちに、幾つか判った事がある。
………
……
…
【モードチェンジ】は、当初は現実世界の体とアバターを入れ替えるコマンドだったと認識しているのだが、こっちの世界に来た途端に別のものに変化していた。
現実世界の体は、どうやらあの白亜の空間に保存されているらしく。アバターであった【マチュア】の体が、今のこちらの世界での実体となってしまっていた。
本体があの空間に保存されているので、どうやら最悪の場合でも元の世界には帰れるのだろう。
そして現在のモードチェンジのコマンドは、真央のやっていたゲームの幾つかの【クラス】にチェンジすることができるというものに変わっていた。
外見はこのままで、装備一式とクラス専用スキルが変化する。
これは非常に便利である。
さらに装備についても、【チェスト】コマンドの一つである【換装】によって、そこに収まっている様々な装備と瞬時に交換が可能らしい。
【GPSコマンド】は、脳内に展開しているウインドウに地図や座標、その他様々なデータを映し出すためのものである。このコマンドを使えば、対象を鑑定したり、アイテムなどの詳しい説明を読み出したりすることも可能。実にありがたい。
だが、この異世界において、どうしてGPSなのか。
そう思い、スキル説明を確認すると、そこには【Goddess Positioning System(女神式測位システム)】と書かれている。
真央の知りたい事象について、ある程度【女神視点】からのサポートが受けられるということらしいのだが。残念なことに、このコマンドも万能ではない。
本来与えられるチート能力が善と真央で2つに分けられてしまったため、簡単なヘルプコマンドという感じになっているのだが、それでも十分ありがたいとマチュアは痛感した。
【ステータス】は現在の自分のデータ。
この世界の一般的な人間のステータスは、数値に換算しておおよそ60前後、魔力と心力はどちらかが高く反対側は普通は0。
強さの目安は、おおよそスキルのレベルと同じ。
つまりは、現状のマチュアのステータス値値はチートそのもの。
そのステータスのなかで、マチュアがよくわからなかったものが、『魔力』と『心力』であったが、この世界で色々と試しているうちに、それが何なのかおおよそ理解できた。
魔力は魔法クラスの威力やコントロールなどを司り、心力は近接クラスなどのスキル威力やコントロール率を司っているようである。
このステータスは、【モードチェンジ】によって変化したクラスによって上下するというのも判った。
気になるのは、名前の上にかかれている【リミット】という文字。
これが何かよくわからない。
とりあえずは現在の【魔術師モード】が基本データになっているらしい。
………
……
…
「ふむ。試しに魔法を使ってみたけれど、思ったよりも疲れないな……それに、魔法つえぇわ」
転がっているイノシシに近づいていって、GPSによる鑑定……以後略して【鑑定】を行う。
名前はブラウンボア、食用可能といった様々な説明が出る。
「さーてと。それじゃあこいつを持っていきますか」
とバックパックから大袋を引っ張り出すと、それにイノシシを放り込むのだが。
――スルッ
と、体長2mを超える巨大なイノシシが、すっぽりと大袋に入っていった。
これも神様からのプレゼント。
袋の中は巨大な空間になっていて、そこでは時間も止まっているらしい。
当然ながら【God's gift】の加護があるため、マチュアにしか取り出すことができない。
他人が手を突っ込んでも、ただの空袋である。
「はぁぁぁ、まるで四次元なんちゃらら~だなぁ」
バンバンと大袋を叩くが、中身を全く感じない。それをバッグパックに仕舞ってから背負いなおし、マチュアはのんびりと歩き始める。
向かう方角は南、ここから歩いて半日もすれば目指す【城塞都市・カナン】にたどり着く。
「さてと、街の方向はあっているかな?」
方角をしっかりと確認すると、マチュアはカナンへと歩き始めた。
………
……
…
カナンを目指して歩き始めてから、すでに三日。
野宿をしつつ、道中では狩りを行いスキルとウインドウを試していた結果、コマンドの発動には言葉は使う必要もないことに気が付いた。
この短期間で、思考だけでコマンドをある程度コントロールできるようになったのである。
そしてウィンドウを開いて地図を確認しようとすると、簡単な地図と都市の方角が記されていた。
詳細地図ではなかったため、試しに詳細地図を開こうとするのだが、画面には『地図をお買い求めの上、インストールしてください』という文字が浮かび上がった。
「ははぁ、地図を買わないと駄目かぁ〜。まあ、方角はオッケーということで。北にはダンジョンが二つ、何かの集落が三つってところか。うん、面倒くさいから無視だ、無視」
ファンタジーゲームなら、レベリングとかでダンジョンや集落に向かうのもありなのだろう。
だが、それはこの際、無視である。
そのまま街に向かう街道を地図で確認できたので、まずは街道へ向けて歩き出した。
○ ○ ○ ○ ○ ○
城塞都市カナン。
広大な森林に囲まれたファナ・スタシア王国の衛星都市の一つ。
古くからこの地を支配しているスタシア王家によって統治されているこの城塞都市は、周辺国家との交易の中継都市として大切な拠点の一つである。
人口は10万人程度、スタシア王国全体からすれば15%ほどの人口比率。
そして他の王国とは違い、このファナ・スタシア王国は異種族との交流も盛んであり、城塞都市カナンにも多くの異種族が訪れ、そして居を構えている。
その城塞都市カナンにつながる交易街道の端を、マチュアはゆっくりと歩いている。
時折、カナンに向かって走っていく隊商の馬車群や早馬がマチュアを追い抜いていくので、軽く手を振って横目に眺めつつ、この大自然をのんびりと謳歌していた。
謳歌していたはずであった。
そう考えてた時が、マチュアにもありましたとさ。
街道が森に差し掛かって数刻。
突然街道の両側、森の中から『むくつけき男たち』が姿を現した。
ファンタジー名物、盗賊の登場である。
「へっへっへっ。どこにいくんだいお嬢ちゃん」
ここまでお約束の展開だと、傍から見ると思わず笑ってしまいそうに思えるが。
襲われた当人としては、いざそれを目の当たりにすると、ちょっとビビる。
ちなみにマチュア、ゲームでは無双することはあってもリアルだとヘタレだったりする。
平和主義なんですよと、叫びたくなるぐらいである。
しかし、ここは勇気を振り絞って煽らせていただくとしようと勇気を奮い。
──ズバァァァァン
「ふぅ。『いいオンナだな。身ぐるみ置いていって貰おうか』と、貴様は言う!!」
怪しげなポーズを取って、マチュアは叫んだ。
だが、返って来た返事は彼女の求めているものではない。
「ん、あ、ああ。物分りのいいねーちゃんだな」
この盗賊ノリが悪い。うん、正直すまんかった。
「そこまで判っているのなら、とっとと置いていってもら……ん?」
盗賊の言葉はそこまで。
「かーらーのー、火炎弾っ!!」
──ボムッ!!
セリフ全部なんて言わせねーよと言わんばかりに、すかさず正面で粋がっていた盗賊を指差すと、素早く炎の矢の一つ上位である火炎弾を叩き込んだ!!
「ぬぁぁぁんだとぉぉぉぉっっっ……熱いじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁっ」
小さな火の玉が高速で直撃した瞬間、盗賊の全身が燃え上がった。
脅しのために消費魔力は最低限まで落としたつもりだが、それでも威力が高かったらしく盗賊は全身に広がる火を消そうと、火達磨のまま地面に転がり始めた。
ステータスの魔力が高すぎるので、最小に調整したつもりでもこの火力である。
「あっちゃー。さらに威力を絞らないと駄目かー」
と呟いている刹那、男たちは次々とダガーやショートソードを抜いて近寄ってくる。
また魔法が飛んできては叶わないと警戒しつつも、マチュアを囲むようにじわりじわりと間合いを詰めてきた。
「お、面白いことしやがって。身ぐるみだけじゃ許さないぜ」
「ああ、俺たちの慰みものにもなって貰おうか、そのあとで奴隷商に売り飛ばしてやる」
「エルフは高額で売れるからなーと、おい、見ろよあの耳を、エルフじゃない、ハイエルフだぜ!」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、これで数年は遊んで暮らせるぞ!!」
あー。
それ言われると、嫌でも今の自分が女性であることを思い知らされるわ。
そんなことを考えつつも、マチュアは次の一手をどうするか思案している。
「覚悟しな、ねーちゃんよっ!!」
だが、そんなマチュアの気持ちなど知ったかとかと、盗賊は奇声を発しつつ斬りかかっていく。
──ブゥンブゥン
そんな盗賊の攻撃を、ステータス頼みでギリギリ躱しつつ、周囲を見渡す。
(逃げ道はないか。まだ他のモードも調べていないし、この魔術師モードだと身体能力が低いから、いつか当たりそうだし……)
あのステータスを見る限りは、実際はこの盗賊程度の攻撃など当たるはずはない。
だが、相手は集団戦を生業としている盗賊たち。
それに対して此方は一人。
数の暴力で、さらに搦め手がくると、か~な~り危険。
「あ〜。これはやばいやばすぎる、何か対策はないものかぁぁ」
魔法を使えばなんとかなるけど、さっきの威力では、間違いなく盗賊たちは死ぬ。
正当防衛とはいえ、まだこの世界の法というものを知らないので、出来るなら人は殺したくない。
そんなことを考えているうちに、徐々に盗賊たちのナイフの切っ先が衣服を掠めていく。
(あ、あれ? 余裕で躱しているつもりがギリギリだぞ? ステータスに何かペナルティでもついたか?)
そう考えた、その時。
──ドシュッ‼︎
突然跳んできた矢が目の前の盗賊の頭を貫通し、その一撃で盗賊は絶命した。
それと同時に、街道の前方から3人の人影が走ってきた。
「お嬢さん、今助けます!!」
綺麗な彫金を施したプレートメールに身を包んだ白銀の騎士と、漆黒のローブを着て杖を構えている魔道士のような女性。
そして弓を手にした、レザーアーマー姿のシーフのような少年が走ってきた。
「義によって、貴方を助太刀しますわ」
「ということさっ!!」
少年が走りつつ弓を背にして素早くスローイングダガーを引き抜くと、それを素早く投げる。
右手で2本同時に引き抜かれたらしいダガーは光り輝きながら高速で飛んでいくと、逃げようとしていた二人の盗賊の背中と首筋にそれぞれ突き刺さった。
「風の精霊よ。契約に基づき義務を果たし、……汝の敵を切り刻みなさい。風の刃っ」
──ズパパパパバッ
女性魔道士の放つ風の精霊魔法が、盗賊の一体を切り刻む。
そして。
「我が名はサイノス!! ファナ・スタシア王国登録の自由騎士だ!! か弱き乙女に対しての無礼千万、騎士として許すわけにはいかない!!」
サイノスが手にしたロングソードが光り輝く。
そして頭上でぐるっと回すと、そのまま一気に盗賊に向かって振り下ろした!!
「必殺剣、一刀両断!!」
──ズバァッ
一撃で真っ二つになる盗賊。
こうなると形勢逆転、残った盗賊たちは散り散りになって逃げていった。
(ん~? 通りすがりの冒険者参上ですか。これは助かったわぁ)
マチュアはゆっくりと立ち上がると、まずは自分の怪我を確認する。
案の定、怪我はないものの膝が震えている。
まあ、普段から戦闘に身を落として生きてきたのではないので、実戦はぶっちゃけ怖い。
幸いなことにどこも怪我していないし、衣服も大きく破れてはいない。
仮にも神からの贈り物、あの程度のなまくらでは傷すらつかないようである。
ちょっとだけ裂けたような場所も自動的に修復されている。
「ふぅ、大丈夫ですか、危なかったですね」
サイノスと名乗った騎士が近づきながら剣を振って血糊を落とすと、それを鞘に納めてそう告げる。
「このあたりは『ナイトウォーカーズ』っていう盗賊の縄張りでもあるから、油断していると襲われちゃうよ」
「ええ。特に女性の独り歩きは危険ですわ。護衛でもつけないと大変なことになりますわよ」
そして、にこやかに話しかけてくる少年と女性。
「あ、ありがとうございます。私はマチュアと申します。北東の森林にある集落から来ました。村を出たのは初めてで、なにも判らなかったもので」
という設定にして、マチュアは話を進めることにした。
まだこの世界の風習その他を知らないため、まずは何も知らないお上りさんモードで色々と教えて貰おうと一計を立てたようである。
「そっかー。ねーちゃんも大変だね。おいらはフィリア。登録はシーフだよ。で、こっちの魔道士が」
「メレアと申します。登録クラスは精霊魔道士です」
童顔の少年と金髪の女性がそう告げる。
「そして俺はサイノス、登録クラスは騎士だ。街までエスコートしますよ、お嬢さん」
キラーンと歯を光らせつつ、爽やかな笑顔でそう告げるサイノス。
「はい。ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」
この3人に対して鑑定スキルを使用しようと思ったものの、まだ暫くは必要ないと感じた。
悪い人には見えないし、先入観抜きで色々と教えてもらうほうが楽しい。
「マチュアさんの登録クラスは?」
「へ? 私の登録クラスですか?」
何気なくメレアが問いかけてきたので、思わずメレアさんに問い返してしまう。
「ええ。これに記されていますよね?」
と手のひらを中空にかざすメレア。
するとそこに、銅色のプレートが浮かび上がった。
(ふぅん、それが【魂の護符】ってやつですか。当然、持っていませんとも)
そう、最初に色々と調べたものの、どうしてもマチュアは【魂の護符】を出すことができなかった。
「それって魂の護符ですよね?」
「いえ、これはギルドに登録したときに発行される護符。いわゆるギルドカードですよ」
「え、ええっとですね。私は、村では神の祝福を受けていなくて、この先の街で受けようと思ったのです。ですので、ギルドに登録された護符というものが判らないのですよ」
(く、苦しい。これは苦しい言い訳だったか?)
「そうでしたか。【神聖教会】の巡礼修道士は、あなたの村を訪れていなかったのですね。確かにそのようなこともあります。ですがご安心ください。ファナ王国の神聖教会は、いつでも迷えるものに手を差し伸べてくれます」
ニィッと笑いつつ、マチュアの手をそっと取るサイノス。
こいつは天然のたらしと見た。
「は、はい。ありがとう御座います。それと幾つかお尋ねしてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
メレアの優しい返事に、マチュアはいくつかの質問をすることにした。
「登録された魂の護符というのは、なんでしょうか?」
「神の祝福を受けたもの全てに、魂の護符は与えられます。それを自身か所属するギルドに持っていき、【認定儀】によって魂の資質を測ってもらうことで、このように色鮮やかな護符が発行されるのですよ」
つまり、誰でも持っている|魂の護符は、透き通ったクリスタルで構成されている。
それをギルドで登録することによって、色を持つ【ギルドカード】となるらしい。
冒険者ギルドの場合、SからA、B、C、D、Eと冒険者のランクというものが存在し、それぞれゴールド、エレクトラム、シルバー、カパー、ブロンズ、アイアンという6色に染められているそうだ。
ちなみにこのランク、マチュアの脳内にはアルファベットで説明されているのだが、実際にはスヴェート、アリオン、ブルータス、クロトワ、ディーヴィ、エネリオという英雄名で表されているらしく。その頭の一文字を略しているという事実まで理解できた。
恐るべしは、GPSコマンドである。
「まずは、一度街に行きましょう。そこで色々と教えてあげますよ。ついでに教会によって祝福も受けるといいですよ」
とサイノスに勧められて、マチュアは彼ら三人と共に、城塞都市カナンへと向かうことになった。
(ふう……神様、やることが多すぎます)
この短時間で、盗賊の襲撃から旅の冒険者との遭遇。
そして彼女の知らない知識と、短時間で色々と頭に詰め込まれる羽目になった。
そりゃあ、弱音も吐きたくなるってものです。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。











