【始まりの章】異世界にやって……引きずり込まれてきました
これは、【異世界ライフの楽しみ方・原典】の改訂版です。
内容その他は概ね変更はありませんが、一部加筆修正を加えてありますので。
「……一体、どうしてこうなったんだ?」
静かに周囲を見渡しながら、真央は自分自身に問いかける。
周囲に広がるのは、純白の世界。
空も大地も、何もかもが白く染まった空間。
そこに、真央は立ち止まっている。
そしてふと、自分の横に人の気配を感じ、そちらをちらっと見る。
真央の傍らでは、旧友である三三七善が胡座をかいて頭を捻っていた。
「ふぅ。まったく、神様の悪戯だとすると、あんまりだとしか言いようがないが」
「全くだよ。どこのラノベの世界かって、突っ込みたくなってくるわ……」
どうにも現状に納得がいっていないのか、善は、不平不満が爆発しそうな勢いで呟いている。
「……どうにもこうにも、どうしてこんな事になったのか、一度状況を確認するしかないか。真央店長、俺は確か、あんたの店で飯を食っていたんだよな?」
「ああ。ちょうどランチタイムもそろそろ終わりで、善は食後のコーヒーを飲んでいて……」
一つ一つ、ここに来るまでの状況を思い出そうとする二人。
やがて、脳裏にはここに至るまでの記憶がしっかりと蘇って来た。
………
……
…
いつもの日常。
札幌市豊平区で【居酒屋・冒険者キルド】を経営する水無瀬真央は、近所の大学生や社会手人でこった返す昼のランチタイムに精を出していた。
もともとファンタジー小説や漫画が好きすぎて作ったこの居酒屋も、開店してすでに5年。
今日も近所で接骨院を開業した友人三三矢善が連れてきてくれる患者さんや、近所の顔なじみのお客さんなどで賑わっている。
いつものようにテレビでは『海外お宝鑑定団・リアルスポーンズ☆』という番組が流れていて、それを爆笑しつつ見ながらのランチタイムであった。
そう、その瞬間までは。
――キィィィィィィィン
突然、二人の脳裏に鳴り響く金属音。
ジェット機が通過する時のような高音が、頭のてっぺんからつま先まで走り抜ける。
その音がどこから来たのか、慌てて真央は周囲を確認するが、どうやらこの音は真央と善以外には聞こえていない。
ランチを食べ終わったお客さん達は、テレビやおしゃべりに夢中。そんな中、真央と善の二人だけが頭を押さえていた。
「いててててててて。いったいこの音は何なんだ? 店長にも聞こえているか?」
「ああ、しっかりと聞こえているよ。しっかし判らんなー。何処から聞こえてくるんだ、近所に戦闘機でも墜落したか?」
「そんなはずあるか。それならもっと爆発音がしているだろうし、他のお客さんだって反応しているわ」
善のツッコミに、真央は店内を見渡す。
だが、やはり先程の金属音が聞こえているのは真央と善のみ、他のお客さんはのんびりと食後の団欒を楽しんでいる。
「はぁ……なんだかよく分からんわ」
そう、真央が呟いた瞬間。
――バツッ……
二人の目の前が一瞬暗くなり、そして再び明るくなる。
そして眼前に広がった光景は、つい先程までいた店内ではなかった。
何もない白い空間。
そう、本当に何にもない空間であった。
ただ純白の世界が広がっている。
足元も、空も、右も左も。
空間を把握するのが困難なぐらい、とにかく白い。
そこに、真央と善の二人だけが存在していた。
「おいおいおい、ここは一体どこなんだ? どう見ても店長の店じゃないようだが」
「全くだよ……と、善、嫌な予感しかしないんだが。あの状況から察するに」
「ああ。俺達はどうやら」
「「異世界に落ちたのか?」」
信じたくはないがという思いを抱きしめつつ、、二人同時に叫んだ。
すると。
『YESYESYES……』
脳天気な声が、二人の脳裏に響き渡った。
それは男性とも女性ともつかない声。そして真央と善は、周囲を見渡して声の主を探そうとした。
だが、何処にも人影らしきものは見当たらない。
やむを得ず慎重な足取りでゆっくりと前に向かって歩きながら、先程の声の正体がどこかにいると判断し、その人物を探し始めた。
『ふたりとも聞こえているか。私は、君たちの世界で言う『神』であーる』
だが、歩き始めてすぐ、再び頭の中に声が響く。
「ああっ、神様……キタぁぁぁぁぁぁぁ」
「まったく、悪い冗談だよなぁ。一体、どこの神様なんだか」
やれやれと面倒臭そうな表情をしつつ頭を抱えてつぶやく善の横で、真央は周囲をさらにキョロキョロと見渡している。
まだ、今この瞬間も夢か何かであろうと真央は考えて周囲を見渡しているのだが、少しずつ時間が過ぎるにつれて、じんわりと現実味を帯びはじめているのに気がついた。
いくら周囲を見渡しても、なにも変わらない。
試しに善の頬を抓ってみるが、やはり痛みがはっきり分かる。
「痛っっっっったいから!! それは自分の頬でやれ!!」
「いや、痛いのはあまり好きじゃなくてさ……」
「そんなこと知るか!! それよりも、今の痛みは現実っぽい。ということは、ここは本当に異世界か」
『うむ』
真央と善の漫才のようなやり取りが一段落したのを確認したのか、神様が再び話しかけてきた。
「教えてくれ、なぜ俺たちがここにいるんだ、どうして俺たちなんだ?」
「トラックが店に飛び込んで来たわけじゃないし、不治の病もない……って、痛風って不治の病か?」
「真央の痛風は、ただの不摂生だな」
「そ、そっか……それじゃあ………えぇっと……ちょっと待ってくれ」
何やら考え始めた真央を見て、善はハァ、とため息一つ。
このまま真央が何か思いつくのを待っていては埒が開かないと判断し、善が神様に問いかけようかと考えた。
事実、真央自身は趣味でラノベをよく読んでいる。
その為、このような状況が出て来るファンタジー小説はかなり読破していた。
だが、野郎二人同時に異世界転生というのは、彼の記憶にもあまり覚えていない。
幾つかの事例を思い出そうと、真央も必死に記憶を探り始めたとき。
神様は、静かに呟いた。
『では、改めて説明させてもらう。我々、神々は、ある一定の期間ごとに人間の進化と可能性というものを試している。それは我、【創造神】の配下である【管理神】が、自身の担当する世界に選ばれた人間を派遣し、その環境にどこまで適応するかということを見定めることで可能性の有無を確認している。我々は、それを【魂の修練】とも呼んでいるがな』
また、とんでもないことを言い出すものだと、真央も善も半ば呆れ顔である。
この声の主が本当に神様だと仮定して、話の内容から察するならば、真央と善の二人が【魂の修練】に選ばれたということであろう。
しかし、選ばれる基準が、二人にはさっぱり判らない。
『……まあ、魂の修練を受けてもらうために、召喚したのは事実なのじゃが。ちょっと問題が生じてしまってな。確率でいうならば、殆ど奇跡の領域なんじゃが』
はぁ?
なにかモゴモゴと歯切れの良くない声で呟き始めた神。
「えーっと、神様。その問題点というのは?」
「何かあったのですか? よろしければ教えて頂きたいのですが」
このままでは埒があかないため、二人は見えない神に問いかけてみた。
『本来ならば、選ばれたものは一人ずつ、対象の異世界召喚されて、【魂の修練】を行う筈なのだ。つまり、君たちは別々の神によって選ばれ、別々の世界に向かって、修練を受けて貰うはずだったのだが』
ふむふむ
この時点で二人は嫌な予感しかしていない。
『何故か、二人同時に、私の管轄する世界にやってきてしまったのじゃよ』
ああ、やっぱりですかと、真央と善は諦めの表情になってしまう。
なるほど理解しました、神様のミスなのですね、そうなのですねと言わんばかりに。
つまり【魂の修練】とは、この世界にはいくつもの神様がいて、それぞれが自分の管理している異世界に、【選ばれし人間を一人ずつ】送り、その順応性を見定めるということ。
それがなにかの手違いで、真央と善の二人はこの神様の管理下に、偶然、二人同時に来てしまったらしい。
そんな手違いが起きてしまったからこそ、神様もモゴモゴと話すわけであった。
しかし、奇跡を起こすのを得意とする神様がミスにより引き起こした『奇跡的な奇跡』とは、二人にとってもこれいかにという感じであろう。
「さてと、大体の話は判った。それじゃあ単刀直入に聞かせて貰うが、俺たちが元の世界に帰れる保証はあるのか?」
善が真面目な顔でそう問いかける。
そしてこの問いかけは重要ですよといわんがばかりに、善は、見えないはずの神様を凝視している。
古今東西、真央の知る限りのラノベでは、異世界落ちした主人公は、かなりの確率で、元の世界には帰れない。
中には無事に役割を終えて帰っていったという作品もあるのだが、それは本当に極僅か。
つまり、この例ならば、二人はかなりの高確率で地球に戻れない。
『それについては大丈夫だ。【魂の修練】が無事に終われば、君たちは召喚された時間に帰ることになるだろう。これから向かう世界でどれだけの時間を過ごしても、君たちの世界では時間は一切進んでいない事になる』
これは、二人にとっては予想外の回答であった。
そして神様の説明に納得したのか、ほほう、と善は首を縦に振る。
つまり、今回の二人同時の異世界落ちについては、どこかの女神様の言葉を借りれば、【れっつ、えんじょい冒険】という感じなのだろうと理解した。
「あの~、それでは神様、ちょっと二人で会議していいですか?」
『うむ。転生開始までの時間はまだある。二人でじっくりと話し合いをするがよい』
そして真央は善と二人で、何もない白亜の空間の端っこに移動した。
といっても本当に何もない空間なので、感覚的にその場を離れているだけであるが。
「どうする? 受け入れる?」
すでに半ば諦めつつ、真央がそう問いかけたが。
善はそれほど難しく考えている素振りはなく。
「う~ん、そうだなぁ。受け入れるのが妥当だろうなぁ。最近のネットゲームでも面白いものはないし、こういう体験もありといえばありかと俺は思うが」
あっけらからんと告げる善。
ここ一番で、善は肝が据わっている。
以前聞いたことのある、彼の『武勇伝』を思い出せばそうなのだろうが、それはまた別の機会にて。
そして覚悟を決めた二人は、立ち上がって空を見上げると。
「ということで、話は決まった。俺達をその世界とやらに転生してくれ」
「できるだけチート設定盛りだくさんで、よろしく哀愁」
善に続いて、真央もそう申請する。
ここまで話が進むと、あとは交渉するだけだと真央は善を促した。
「チート設定……そうだな。神様、その新しい世界に転生したとして、俺達はどういう状態からスタートするんだ? 今の生身のまま、なにも持たずにその世界にいくのか?」
「せめて、最低限の装備は用意して貰いたいのですが。スキルというか、能力というか、つまりはそんな感じのものを」
ダメ元で、二人で神様に懇願してみる。
『まあ、ある程度のことは保証してみよう。それで具体的には? 何か望みはあるのか?』
望みを言うだけならタダ。
そう思った二人は、自分たちの知りうる限りの話を始める。
「俺たちの世界には、異世界系ラノベというものがあってな。今の俺達みたいに、何らかの理由によって主人公が異世界に行ってしまったという小説が、大量にあるんだ」
「その小説の中では、主人公はその世界には存在しないとてつもないパワーをもっているんです。それこそチートキャラみたいに」
二人でそう告げる。
どうやら神様もウンウンと頷いて聞いてくれているようだ。
『まあ、なんとはなく理解した。が、本来は一人にしか与えない【神の祝福】を2つに分けるのだ、性能が劣化するのは我慢してほしい』
ま、まあ多少の劣化なら。
こればかりは仕方がないと、二人の納得するしかない。
「それで、具体的には?」
善の問に、神様もしばし沈黙。
『私から与えられる祝福は、本来は一人のみに与えられるものだ。しかし、今回のような状況では、公平を期するために二人に加護を与えなくてはならない。まあ、死なない設定が死ぬようになるだけだ。チートとかいうのについては大きく考慮してみよう。といっても神は万能だが、全てに対して融通が利くのではない。先に説明したとおり、魂の修練が大前提なのだから……』
──プッツーーン
と、ここで善が切れる。
「あんた神様なんだろ? 死ぬって、せめて蘇生できる方法とか、それらしいアイテムとかはないのかよ」
『ふむ。その程度のことか。ならば……それも加味しておこう』
と神様がつぶやく。
──フゥゥゥゥン
その刹那、二人の体が白く光り輝いた。
【 God bless you 】
優しそうな女性の声で、誰かが二人にそう語りかけた。
そして光は静かに消えていく。
『さて、今、二人には私からの加護を渡した。今から君たちの世界で言う一時間後に、二人は転生を開始する。ただし、同じ世界で、まったく別の場所でな』
「なに? 二人一緒じゃなかったのか?」
善が問いかける。
『うむ。それぞれが別々に修練を行わなくてはならない。なぁに同じ世界だ、いつか何処かで出会うこともあるだろう。転生後の二人には、その世界の管理神が祝福を与えてくれるように手はずは整えた。それでは二人の健闘を祈る……』
神の声が遠くへと消えていく。
そして、気配らしきものも完全に消滅したので、真央と善は今後のことについて、相談を始めることにした。
○ ○ ○ ○ ○
さて。
二人に残された時間はあと1時間。
その間に、自分たちに何ができるのか色々と調べないとならない。
「よし、とりあえずは、俺たちの現在の状況を確認するか」
「オッケー。それじゃあ始めるとしますか」
二人はまず最初に、現在の自分達の状態から調べはじめる。
そして持ち物を調べてみたところ、最悪なことにスマホがない。
もっとも、もし所持していたとしても、家電製品などないであろう異世界ではまったく使い物にならないから、これはこれでよしとすることにした。
そしてほかにも色々と調べてみた結果、お互い大した荷物は持っておらず、タオルやハンカチ、手帳やボールペンなどといった、来るときに身につけていた簡単なものしか持ち合わせていなかった。
「元の世界のものは、たいして持ち込めていないようだな」
「そうだねぇ。頭に巻いてたタオルとか作務衣とか、本当に仕事着のままだなぁ」
真央がそう呟きながら立ち上がり、さらに周囲を見渡す。
すると、二人のすぐ近くに大きめの木箱が二つ置いてあるのに気が付いた。
これはさっきまではなかったから、あの声が聞こえてきたときに発生したものであろうと二人は納得した。
「これは多分、これから向かう世界用の初期装備ってところか」
「神様のプレゼント? これで頑張れっていう感じだよな? きっと」
と呟きつつ、二人同時に箱の蓋を開けてみる。
〇 〇 〇 〇 〇
バックパック
ラージザック(大袋)
スモールザック(小袋)
着替え×3着
肌着 ×6着
松明 ×2本(一本につき8時間)
火口箱×1個
保存食(ビーフジャーキーのような干し肉、カンパンのような硬いパン)×21食分
革の水筒
麻の小袋(小銭入れ。転生先の通貨が少々)
〇 〇 〇 〇 〇
以上、これの荷物が、箱の中に綺麗に収まっている。
これが二人の初期装備であると理解すると、それぞれが荷物を纏め始める。
そして一つ一つのアイテムを手にとって調べてみると、箱の中の物品全てに【GOD's GIFT】と表示されているように感じた。
目には見えていない。けれど、これらの物品にはすべて神の加護があるらしい。
具体的な効果は【破壊不可】と【オーナー限定】。
絶対に壊れず、二人にしか使えないものという感じだろう。
「……ま、まあ、そこそこチートなのか」
「ああ。それでどうするんだ? 善はこっち方面の専門家だろう?」
「知識だけな、まるで俺が何度も異世界に入っているような言い方するなよ……この手のパターンとしては、スキルとかレベルとか、ステータスの方がチートの可能性もあるよなぁ」
善はそう告げて、静かに瞑想する。
精神集中。
趣味がボティビルとネットゲームである彼にとっては、瞑想はボディビルの為のルーティンワークのようなものなの。
そして真央はというと、オンラインゲームとアニメ・特撮をこよなく愛する男。
二人とも似たり寄ったりな趣味である、ということは、やることは一つ。
――ババッバッ!!
真央はどこかの特戦隊のようなポーズを取ると、『ステータスウィンドゥ、オープン』と叫ぶ。
そして、目の前の空間にあるであろう『何か』を探しているが、当然、そんなものはない。
その程度では何も出るはずはない。神の加護は、そんなに甘くはない。
「うわぁ、か~み~さ~ま~。せめてチートスキルか何かつけてくださいよぉ。現代世界からアイテムが買えるネットスーパーとか、魔王クラスのステータスと潜在能力を秘めたスライムボディとかぁぁぁぁ」
そう絶叫してみるものの、特に何も変化はない。
「スマホでも手持ちにあれば、異世界でも通用する万能スマホっていうのを頼むという手もあったけれどな。確かそんなラノベもあったよな、もしくは……駄女神でも貰っていくか?」
善の冷静なツッコミ。
流石であるとだけ告げておこう。
「さて、冗談はこれぐらいとして。なんとなく判ったんだが、さっき真央の話していたネットスーパーとか魔王さまとかは、俺達の神様の管轄じゃないみたいだな」
「駄女神も万能携帯も?」
「そうだな。今の時点で所持していないから、そのへんのチートは無しということになるか。どうやら、神様の管轄が違うみたいだからなぁ」
善がそう告げながら、目の前のなにもない空間で何かに触れている。
当然ながら、真央にはそれが何であるのかは見ることができない。
「んんん……なにか判った?」
「ん~、転生後の俺は、ストームになるということ。それと、真央は多分だけれど、転生後はマチュアになるんだろうということは、だいたい理解した」
「あー、済まないが君の話している意味が判らん」
ちなみに、この【ストーム】と【マチュア】。
ストームは善がよく使うネットゲームキャラクター。
マチュアは真央が使っているゲームキャラクターである。
そして、善の言葉の真意が、今ひとつ汲み取れない真央。
「真央に簡単に説明するとだな、神様の話していたあの言葉の真意が、俺は理解できたということだ」
そう告げると、突然善の外見が切り替わる。
銀色の全身鎧に銀のカイトシールド、腰には綺麗な装飾の入れられたミスリルのロングソードを携えている。
善の外見が、ストームのキャラクタークラスの一つ、聖騎士に変化した。
加えて善本人の外見まで、ショートカットの渋いお兄さん系に変化している。
しかし、筋肉量が凄い。
流石は現実世界で『哲学する獅子』の異名を持つ、筋肉系接骨医なだけのことはある。
「すっげー。それどーやるの?」
そして変身した善を見て、真央もワクワクしてきた。
「うーんと、頭のなかでステータスウィンドウを開くイメージで。そうしたら目の前にウィンドウが開くはず。そこにコマンドが並んでいるから、そこにある【モードチェンジ】をクリックすると、こうなる」
簡単にそう告げるけど、いきなりは無理です。
そんなことばかりは言っていられないので、真央も意識をステータスウィンドゥに集中する。
【endless end for nextrun】
すると、魔王の脳裏に先程の優しい女性の声が語り掛けて来る。
(んーと。こうかな? ステータスウインドウオープン?)
その刹那、脳内から目の前、およそ30cmほどの中空にステータスウインドウが現れる。
形状は、真央がよく使っていたスマホ13+の画面。
そしていくつものアイコンが並んでいる、おなじみの光景である。
「あー、これ、俺のスマホの画面ですわ」
「奇遇だな、俺のも同機種だ」
「あれ? 前は別機種だったよね? 機種替えたのか?」
「一週間前にな……と、その話はまた今度だ」
どうやら神様は、二人の脳内からいろいろなデータを読み込んだ挙句、このように使い勝手の良いチートインターフェースを構築した模様。
そして二人は、とりあえず画面をじっくりと見てみる。
そこならんでいるアイコンは二人がよく知っているものではない。幾つかの見たこともない不可解なアイコンが並んでいるだけ。
そのアイコンの下にあるタイトル部分には、それぞれ【モードチェンジ】【GPSコマンド】【ステータス】【空間収納】と書いてある。
これが神様の言っていた『ある程度の保証』なのかなぁと思いつつ、真央はステータスと書かれているアイコンに触れる。すると新しい画面が隣に展開し、そこによく見るオンラインゲームのアバターと、そのステータスが表示された。
〇 〇 〇 〇 〇
【モードチェンジ・マチュア】
名前 :マチュア
外見年齢:18歳(設定実年齢:1200歳)
性別 :女性
種族 :ハイエルフ
体力 :470
瞬発力 :480
感覚力 :490
魔力 :780
心力 :440
スペシャルアビリティ:調理、雑学、ジョブコントロール、コンバット、ギャザラー、クラフト
アビリティリンク :未設定
〇 〇 〇 〇 〇
画面を見た真央は、その場に胡坐をかいて腕を組んだまま、頭を傾げる。
「う~ん、このステータス画面、俺自身じゃなく、どうしてゲームのアバターなのかがよく判らないわ。善はどんな感じ?」
「同じだな。キャラクターのLevel表示もないよなぁ」
「うんうん、それにスキルも表示されていないよね。ああ、良く見たらHPもMPも表示されていないわ、一体どういうことなんだろうか……と、ひょっとして、これかな?」
そう呟きつつ、真央はスペシャルアビリティの欄にある【ジョブコントロール】の部分に触れてみる。
【ジョブコントロール・スタート】
すると、脳裏に声が響く。
そして脳内に、【スキル】と呼ばれるものが次々と流れてくる。
「あー、これがスキルか。Levelはキャラクターじゃなくスキル依存なのかぁ」
さらにヘルプのようなボタンもあったので、二人は詳しい説明を確認する。
………
……
…
スキルとは、これから向かう世界の法則性の一つ。
その世界では、スキルというものをどんな人間でも得ることができる。
誰でも成人すると【神聖教会】と呼ばれる場所で【神の祝福】を受ける。
その祝福の際に教会から発行される【魂の護符】と呼ばれている身分証に、その人物に与えられたスキルが表示される。
このスキルのレベルや数は、その者が成長することで増えたりもする。
【NL】1~99 一般知識。大半の人間はここにあてはまる。
【Sk】100~199 スキルド、冒険者や専門職の大多数
【EX】200~299 エキスパート、ベテラン冒険者や特出した専門家の技術や知識
【MS】300~399 マスター、達人クラス、世界にはほんの一握りのレベル
【GM】400~500 グランドマスター 超人分野、殆ど存在しない筈
………
……
…
このヘルプボタンにより、ステータスウィンドゥに書かれていた【スペシャルアビリティ】という部分が二人に与えられたチートスキルであるということが判った。
つまり、スペシャルアビリティに記されたスキルはすべて【GM】という最高位レベルであり、それ以外の雑多なスキルはだいたいが【EX】か【MS】として扱われているらしい。
それら一通りの説明を確認すると、二人はお互いにモードチェンジした。
善は先程も見た、ショートカットの騎士のストーム。
彼の知る、ゲームの中でよく見ていた渋い男性に外見が変化した。
ただし、全体的に筋肉のボリュームが増えているのは、恐らくは元々の人間の趣味も加味されての事だろう。
「さてと……まあ、よく知っているストームの姿だよなぁ」
真央は目の前に立っている【渋い兄さん】にそう問いかける。
外見はというと歳にして25~30程度、綺麗なショートカットのブラウンヘアー。
うむ、よく見ていたストームであると真央も頷いている。
「ああ、モードチェンジのコマンドで、俺はストームになれるみたいだな。今のクラスはパラディンか。確かあのゲームでは『君主』だった筈だが、その辺りは世界に合わせて変化したという感じか。それでそっちはマチュアなんだよな」
ストームは目の前に立つ、見知ったハイエルフの女性に話しかける。
「あ~なるほどねっと、ってお~い!!」
いきなりマチュア呼びされて、真央は慌てて服装を確認する。
草色のワンピースにバックパック。
腰には本を下げるためのアタッチメントのついたベルト、そこには巨大な魔導書が一冊。
ちなみにマチュアとは、真央が好んで使っていたネットゲームのアバター名である。
彼はどのネットゲームでも魔法使いや素手格闘家を主体に扱っていたので、このチートスキルでも知力と魔力の高い女性エルフのアバターが選択されていた。
つまり、今の真央は、ハイエルフの女性エルフである。
彼の名誉のために説明するならば、彼はネカマではない。
ネットゲームの本来の意味合いの一つである『役割を演じる《ロールプレイ》』を忠実にやっていただけである。
大切なことだから二度言わせてもらう、決してネカマではない、そこんとこヨロシク。
「さて、それじゃあ、せっかくなので俺は真央店長を『マッチュ』と呼ぶとするか」
「マジですか?」
普段のネットゲームのときの真央のキャラクター名が【マチュア】。それを愛称として善は【マッチュ】と呼んでいたのだから、これは仕方がないだろう。
「そ、それなら善は【ストーム】ということで。これで暫くはなんとかしよう。とりあえず自分たちがどれ位チートなのか、今一度調べてみるか」
──ゴォォォンゴォォォォンゴォォォン
そして、突然鳴り響く鐘の音。
二人の転生の時間が訪れたことを告げている。
「ふぅ、もう時間かよ。まだ調べ終わっていないのだが」
「まあ、詳しいことは転生先で調べてみようぜ」
そして二人の体は白く輝き、静かに消え始めた。
「それじゃあ、あっちの世界でまたな」
「おう、ストームも元気で。何処かで会おう」
その言葉と同時に、真央と善、二人の転生処理は始まった。
こうして、真央と善の果てしない物語は始まったのである。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。











