温泉旅行③
「じゃあ、女将さん行ってきますね!」
「はい! 行ってらっしゃい! 夜ご飯もしっかりついてるからあんまり食べ過ぎちゃダメよ!」
「わかってますよ! じゃあ、あつこちゃん行こっか!」
私は泊まる旅館の部屋に荷物を置いて、その部屋を探検したあと、約束通り氷堂先輩たら一緒に温泉街に出る。
来た時と同じで、もくもくと湯気が立ち上っている。
その湯気を切り裂いていくように道を進んでいく。
湯を覚ますためなのか大きな装置が街の中央にあって、温泉のお湯によって滝が作られている。
街はその水の音に支配されているような感じがして、いつもの大きさの声を出しても、すぐにかき消されてしまう。
それなら話さなくてもいいという変わった安心感も私に与えてくれる。
2人でそんな道を歩いていると、
「おぉー! べっぴんさんだねぇ〜!」
おじいちゃんらしき人がこちらに寄って話しかけてきた。
氷堂先輩はその爺さんのことをギロリと睨むと思ったのだが、そんなことなく……
「ありがとうございます! ここはおまんじゅうのお店ですか?」
「そうじゃよ〜〜! こんなべっぴんさんならただでおまんじゅうあげるよ! ほれ! 食ってみ!」
爺さんが気前よく、氷堂先輩におまんじゅうを渡す。
あれ!? 俺は? いや、私は?
「あの〜」
「あ! すまんすまん! あまりにもこっちの子がべっぴんさんだったから、君のことが見えとらんかったよ……」
「あ、それは別に……」
な、ここに来てこの俺がこの爺さんに心を抉られることになるとは……
俺はいま師匠を使って、女の子に敦子に変身している。
それも敦子は結構可愛いと思ってるのだが……
それをこんな爺さんに否定されて、少し腹が立つ……
「ほれ! お前さんにも上げるよ!」
「あ、ありがとうございます!」
こんなもんなんて一口で食ってやるよ……
俺は思いっきり口に突っ込む。
「あっ! それは……辛子入っとるよ」
ペヘェェェ!
「は、早く言ってくださいよ!」
「それに、お主に渡したのはまんじゅうじゃなくて、肉まんじゃよ?」
あら、不思議……完全にまんじゅうだと思ってたら、ホカホカの肉まんだった……
くっそぉ! 爺さんにしてやられたな……
「敦子ちゃん! 大丈夫? 肉まんを一口で食べるくらいお腹空いてたの?」
俺がむせているところを見て、俺の背中をさすりながら、俺の口元をハンカチで拭いてくれる優しい氷堂先輩。
結局氷堂先輩が爺さんを睨むのではなく、俺が爺さんを睨む形で、その場をさっていった。
「ねぇ。敦子ちゃん! 温泉にきたらやっぱり、温泉たまごじゃない?」
「はい! そうですね! 食べてみたいです!」
「じゃあ、行きましょうか!」
私と氷堂先輩は温泉たまごと書かれた出店らしいところに向かう。
「はい! いらっしゃい! 君たちすっごく可愛いねぇ!」
出店で声をかけてくれたのは女の人なのか男の人なのかわからない……オネェみたいな人だった。
氷堂先輩はこういう中途半端な人のことをどう受け取るのだろうか……
「あの〜温泉たまごを二つください!」
うん! 大丈夫なようだ! オネェはセーフらしい! つまり、今の俺はセーフだ!
ハッハッハ!
私と氷堂先輩は温泉たまご二つと、それを入れる容器と特製のタレをもらって、出店で用意されている席に座った。
そうすると、氷堂先輩が優しく温泉たまごについて話してくれる。
「あのね。敦子ちゃん! 温泉たまごっていうのはね、温泉で作られれば温泉たまごって呼ばれるんだけど、私が認識している温泉卵っていうのは白身が半熟で、黄身がトロんとしたもののことを言うの!」
「は、はい!」
「それでね、私流の温泉卵の食べ方はね……」
「は、はい!」
「まず、こうやって殻を割ってたまごを出して、その中に特製のタレを入れるの」
「は、はい」
「そして、ここでスプーンを使わずに……
容器を持って飲む!」
トゥルン。
ゴクン。
俺はそんな氷堂先輩を見て口をアングリと開けている。
ん? その卵の食べ方はレディがしちゃダメだよ? それをするのはディズ◯ーのタ◯ザンか筋肉芸人だけだよ?
しかも味わってないよね!
そのまま胃に直行だったよね?
「わかった!? 敦子ちゃん!」
「あ、はい!」
まぁ、やるしかないよね……
せっかくだやってやろう……
俺は言われるまま、やってみると、
「おぉ! これはいいですね!」
なんていうの……卵を飲むって感覚が新しくてなんだか、クセになる感じ!
味も普通に美味しいし!
「ふふ、喜んでくれて嬉しいわ! じゃあ次は足湯にでも行きましょうか!」
「はい! 行きましょう!」
俺たちは公用の足湯エリアへと向かっていった。
人はあんまりいなくて、ほぼ貸し切りの状態で使うことができた。
「ふぁぁ! なんだか眠たくなってきちゃいますね!」
「そうだね! 敦子ちゃんはあんまり温泉来ないの?」
「あ、はい! あんまり来れないですね……」
「そうなんだね。わたしは小さい頃からおばあちゃんによく連れられてたからね」
「先輩は温泉が好きなんですね!」
「えぇ。読書と同じくらい好きよ!」
「へぇ〜。そうなんですね〜」
まぁ、そんなことは知っていますけどね。
でも、こんなに楽しそうにしてるのに、なんでまだ親愛度が上がってないんだ?
友情だとあまり上がらないのかな?
そうだとすると、少しプランの変更をしないといけないな……
私たちが足湯をしている間、変な画面の男が動いて近づいてくるなんてことはなく、ゆったりと足湯を堪能してから旅館へと戻った。
旅館に着いたら、次は……ペロリ。合法混浴。




