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忘却

 6月6日土曜日。朝なのか昼なのかわからない11時。

 今日俺にはモデルの仕事も俳優の仕事も何もない。

 だから一日中ゆっくりできるはずだ……と思って布団で寝ていたのだが……


「にいさまー! 大変ですー!」


「……ん〜〜なんだよぉぉー! 今日は土曜日なんだよぉぉ……俺は休みなんだよぉぉぉぉぉ!」


 俺の寝起きはものすごく悪い……

 てかもはや俺は寝過ぎなのだが……


「でもにいさま! 大変なんです! 敵が! ここまできています!」


「…………うぅぅもぉぉ、希もにいちゃんと遊びたいからってそんな嘘で起こそうとするなよぉ!」


「にいさま! 本当なんです! 敵兵の数その2! しかし1人は一騎当千のつわものです!」


「なんだよぉ〜めちゃくちゃ数が少ないじゃないか……嘘ならもっと上手く言えよな」


「いいからにいさまは早く外の状況を自分の目で確認してください!」


「……わかったよ! 希があまりにも叫ぶから目が覚めちまったよ……」


「そんな呑気なこと言ってないで、にいさまは早く外を!」


 まぁ、希がそんなに言うなら嘘でも一回くらいは見てやろうっと、どれどれ?


「えぇぇぇぇぇぇ!!」 



 俺の絶叫が家中に鳴り響く。


「にいさま! これでもまだ希の言うことは嘘だって言うんですか?」


「いや……希ありがとう……兄ちゃんはお前のおかげで命拾いしたよ……」


 俺が目にしたものとは、怒った顔で家の前に待ち構える1人の少女だった。

 その後ろにも一匹誰かがいる。


 俺の叫び声に気づいてそこにいる少女が俺の方を睨んだ……


 ヤベェ……完全に忘れてた……

 今日って、ナツ達と遊びに行く約束をしてたんだった……


 ナツの顔から察するに、かなりプリプリしている……いや、プリプリで表現できたら可愛いくらいに怒っている。


 どうしよう……ここから篭城戦に持ち込んだ方がいいのか……

 それとも九死をしてでも、立ち向かうべきなのか……


 そんなことを考えているときに、



「アツキィィィ! 早く出てきなさぁぁい! 出てこないと殺すわよぉぉ!」


 外から響いてきた声はナツのものだ……

 俺に選択権なんてなくなった……


 まぁ、約束を忘れていた俺が悪いんだが……


「今、行きますぅぅう!」


 俺は1分で外出の準備を済ませて外へと飛び出た。


 俺は外へと出た途端に、俺は空中を一回転。

 そう。俺はナツに投げ飛ばされたのだ。

 せっかく着替えた服は泥がついてしまって、


「ねぇ………私の言いたいことわかるわよね?」


「はい……」


「悪い子には何が必要なんだっけ?」


 彼女あっちのやつだ……

 完全にお怒りモードのやつだ……


「…………つです……」


「えぇ! 聞こえない! 大きい声で言いなさい!」


「悪い子には罰が必要です!」


「おぉ……言えたじゃない! 偉いわねー! それじゃあご要望通りに」



 ボコ! バコ! ガン! ドッカーン!


「ギャァァァァァ!」


 俺はナツにボコボコにされた。


「あら! あつきくんとっても汚いわ! そんなんで一緒に出かけられると困るわ! その汚らしい服を着替えてきてくれる? 今すぐに!」


 理不尽だ……確かに約束を忘れた俺が悪いんだけど……

 

 そしてやっぱり、こいつを怒らせたらダメだ……

 俺はこいつを本気で怒らせたら死んでしまうんだろうな……


「はい! 今すぐに!」



 俺がナツにボコボコにされている間アキはというと……


「にゃぁぁぁぉ!!」

「みゃぁぁぁぁ!!」


 なぜだがユキと睨みをきかせあって威嚇しあっている……

 ペット同士思うところがあるんだろう……


 俺はすぐさま着替えを済ませ、玄関を出た、そしてそこにいたのは……


「アツキ! じゃあ行こっか!」

「アツキ! 私もお供します!」


 なんということでしょう……

 あのさっきまで鬼のような形相を見せ、容赦なく俺をボコボコにしたあの少女が、なんと不思議、扉を開けた先にはとても可愛らしく優しそうな女の子に大変身!


 こいつの変わりようは本当に不思議だ……

 二重人格なのだろうか……


 俺は彼女の変容ぶりに驚きながらも、驚くのを諦めて、今日本来待ち合わせをしていた場所に向かった。


 今日の待ち合わせは9時半によもぎショッピングモールの玄関口だったのだが……

 俺が約束をすっぽかした……

 こんなことあっていいのか?

 果たして、今まで女の子とのデートの約束を守らない主人公がいたのだろうか……いやいない……

 俺が初めてだ……全然自慢できないのだが……

 俺は過去の失敗にくよくよしないやつだ!

 俺はあっさりしているのだ!

 だから、このことは水に流そうじゃないか……

 はい! 聞こえましたよ! お前やっぱりクズだな! って声が……

 しょうがないじゃないか……忘れてしまうことだって人は一度や二度はあるものだよ……

 ほら、みんなも経験あるでしょ?

 そういうことだよ!

 だから気を取り直してさぁ、ショッピングを楽しもー!


 そんな回想をしているうちに、俺たちはショッピングモールについた。


「うわぁ! やっぱりここのショッピングモールは大きいわね!」


「ほんとだね〜!」


「今日はたくさん買うわよ! きっとなんだってアツキが買ってくれるわ!」


「やった〜! じゃあ私はぬいぐるみが欲しいー!」


 おいおい……勝手に決めるなよ……

 稼いでいるとはいえ……そんなに買ってしまうと流石に良くない……でも……何か買ってあげないと……約束をすっぽかしたことは許されないな……もので許されるなんて思ってないんだけどね……


「じゃあ、一個だけだからな! あんまり高いのはやめてくれよ……」


「そんなことはわかってるわよ!」


「やったー! 私あれが欲しい!」


 アキは一瞬で決まったらしい……

 アキが選んだのは160センチくらいの白熊のぬいぐるみ……

 彼女がパッと選んだものはとても可愛らしく、子供らしいのだが……

 これだけの大きさのぬいぐるみだ……

 高い……いきなり高いよ……

 無邪気って罪だよ……


 俺はやむなくそれを購入した。

 まぁ、全く痛手にはならないんだが……


「はい! 買ってきたぞ! これどうやって待つんだ?」


「これはねぇ〜! こうやって持って帰るー」


 指示語が多すぎて、ジェスチャーじゃないと伝わらない。

 アキが言いたいことはおんぶして白熊のぬいぐるみを持って帰る、ということだ。


 アキのお買い物は済んだ、あとはナツのお買い物なのだが……


 男子ども……女子のお買い物にはついていくな!

 これは男子のためだ……

 女子のお買い物は長い……長すぎる……


「えぇ〜と、これにしようかなぁ〜、あぁぁでもこれもいいなぁ〜! 迷うなぁ〜」


 どっちでもいいと思うよ……

 君ならどっちでも似合うよ……

 可愛いんだから……


「ねぇ〜アツキ! これとこれどっちがいいと思う?」


 はいでました……

 高難易度の問題……

 この問題が難しいのは……

 聞かれているのは単なる二択であるのだが、実際問われているのはそんなことではない……

 この問題の本質は女の子をどのように褒めるか、にある。

 俺はこの難問に果敢にも挑戦する。

 ナツが手元に持っているのは腰あたりにリボンのついた赤色ワンピースとそれと色違いの黒色だ。

 よし解答の時間だ!

「うーんとねぇ。赤い方はナツの瞳とおんなじ綺麗な色をしているからナツの綺麗さを確実に上げてくれるとおもうよ。で黒い方はナツの黒髪みたいに落ち着いていて、ナツの大人っぽさをアップさせてくれると思うよ!」


 どうだ? 反応はいかに…………



「えへへ。それじゃあ、どっちがいいかわかんないよぉー!」


 大正解だったようだ! 今の聞いた?

 ナツのえへへ。って声が……

 男子どもわかったか?

 この二択は二択であって二択ではないんだ……

 だが、このせいで……


「じゃあ、両方買う! いい?」


「うん! いいよ!」


 こうして、ナツには結局2点の服を買うことになった。

 これで引き起こすことは何か……


「わー! なっちゃんだけ2個もずるーい!」


 ナツのお買い物に付き合うのが疲れて、外ぬいぐるみと遊んで待っていたアキがこの時だけ、こっちに来ていて、駄々を捏ね出した。



 俺はこうして、アキにももう一つ小さなぬいぐるみを買うのだった。


 アキはまた大きなのを買おうとしていたのだが……流石に止めた……高すぎる……



 俺は2人の買い物、ほぼナツに付き添った後、ショッピングモールを後にし家へと帰った。


 俺は帰ってすぐさまお風呂に入った。


「はぁ……せっかくの休みなのに……疲れたなぁ……」


 ざぶーーーん。



「あったまるぅぅぅ。今日他になんかあったっけ? まぁ、いっか!」


 こうして俺の6月6日は終わりを告げた。

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