いきなりのハプニング
東に太陽がぼんやりと浮かぶ、いつもと変わらない、いたって普通な朝8時半頃、よもぎ保育園のエントランス。
「あっくん〜! おかあさんは今からおしごとに行ってくるから、保育園でいい子にして待ってるのよ〜!」
「おかあさんわかったよ〜! ぼくいい子にして待ってるね〜」
俺、佐藤篤樹は通っている保育園のエントランスにてお母さんと一時的な別れをしようとしている。
今、気がついたんだけど俺の本名を言うのここが初めてだったね。ごめんね。
父さんと母さんは共働きで、日中は俺の面倒を見ることができない。そのために俺は日中の間だけ、保育園へと預けられるのである。
俺はよもぎ保育園に通う6歳児。ライオン組所属だ。上からライオン、キリン、ぱんだ、ひよこという順番で歳わけがされている。
つまり俺はここ、よもぎ保育園の年長さんだ。
俺の精神年齢は実質26歳ということもあって、母さんとの一時的な別れでワンワン泣いたりしないのよ?
そんな俺とは対照的に母さんがワンワンと泣いている。
この人の精神年齢は幾つなんだ…………
「あっく〜〜〜ん! やっぱりお母さん、今日はお仕事に行くのをやめようかしら! あっくんもその方がいいってそう思うわよね!?」
「おかあさん、それはめなの! あっくんも保育園がんばるから、おかあさんもおしごとがんばってきて」
母さんダメに決まってるじゃん……ただでさえ、家庭が厳しいんだからさ! 頑張って働いてきなよ!
一時的な別れを今生の別れかのようにワンワンと泣いている母さんを宥めるために、俺はすっと、母さんの下まで歩み寄り、精一杯に背伸びをして、母さんの腰あたりをギュッと抱きしめた。
そして、俺は優しく母さんの背中をポンポンと叩いてやった。
「おかあさん、きょうもおしごとがんばってね」
「あっくん…………」
このおまじないのおかげで、母さんはあやされた赤ん坊のような顔して、泣き止むのをやめた。
どっちが保護者なのだろうか……
精神年齢的には俺の方が上なんだよな
母さんはまだ25歳だしね
そんな立場の逆転した光景に保育園の先生たちも苦笑い。
「もう……あっくんたら〜! 甘えん坊さんなんだから!」
「おかあさん、くすぐったいよ〜」
どっちがだよ……内心俺はそんなことを思う。
「じゃあお母さんはおしごとにいっちゃうけど、あっくんはいい子にしてられるわね?」
「うん! あっくん頑張るからね!」
あったりまえだろ? なんたって26歳だぞ? 親元を離れるなんて普通だろ?
「しょうがないわねー。お別れにチューしてあげるわ」
「ほんと? やった〜〜! 早くして〜」
ん!? 俺は何も望んでいないんだが……
まぁ、頂けるものは頂いておこうね。俺は若干貧乏者だからね。
そして保育園での別れ際、母さんは俺の唇にそっと口づけをした。
「おかあさん! ありがとう。あっくん元気出たよ!」
普通、ここはほっぺとかにするやつだろ? なんでよりによっても、口なんだよ? まぁ、いいか……母さん美人だしね。美人な人からのキスは素直に嬉しいよね! 母さんだからってダメなんてそんな考えは俺にはないよ。
「…………」
このことがあんな結果を生み出してしまうとは……




