権助提灯2
さて、いつもは本宅か妾宅のどちらにいるかてんで分かりやしないさとですが、今日のところは本宅で六助とともにおり、仕事も終えて夜も更けてきたところに、夫婦二人で仲良く床に就いておりました。その矢先に、二人を激しい揺れが襲いました。自分の妻が愛人のところにいくら通っていてもまったくもって無関心な六助ですが、決して妻を愛していないわけではありません。いの一番にさとのことを心配します。
「うわっ、揺れているよ、こいつは地震だ。さと、大丈夫かい」
「大丈夫だよ、お前さん。あんたのほうこそ怪我はないかい」
「問題ないよ、さと。おっと、揺れも収まってきたようだね。まあ大したことはなくてよかったよ」
「ほんとうだよ、六助。それにしても店のほうは大丈夫かしら。ちょっと見に行かないといけないね」
「いやいや、さと、店なんてどうでもいいじゃあないか。そんな店よりほかに行くべきところがあるだろう。ほら、お前の愛人のところだよ。ええと、名をしょう太と言ったね」
「でもこんな時に愛人のところに行くなんて。やっぱり店のことが心配だよ」
「何を言っているんだい、さとや。こんな時だからこそ妾宅に行かなければならないんじゃあないか。店なんてしょせん生きていくための手段に過ぎないものじゃあないか。人生で大切なものって言ったらなんだと思う、さと。それは愛だろう。僕のほうは大丈夫だから。実際地震が起きて怖かったけれども、さとの顔を見たらすっかり安心したよ。でもしょう太君は大層不安でたまらないはずだ。そんな男を一人にしておくなんて僕にはできないよ。なんてったって同じ女性を愛している男の子なんだからね。だから、さと、早くしょう太君のところに行っておやりなさい」
「ああ、六助、あたし、あんたが夫で本当によかったよ。普段はあたしの言うことに何一つ逆らわずに、自分の意見を全然言わない男だったのに。いや、あたしはそれでよかったんだよ。あたしはこの通り、他人の意見に耳を貸さずに自分の道を突き進む性格だから、夫にするならあんたみたいなのがうってつけだと思っていたんだよ。でもこんなもしもの時にあんたがここまで頼りになるなんてねえ」
「そんなことはどうでもいいから、早くお行きなさい、さと」
「ああ、わかったよ」