アルフレッドとウル
昼食を食べた後、アルフレッドはウルの家に来ていた。ウルに招かれたのだ。ウルはカップを2つ用意して「コーヒーか紅茶、どっちが良い?」とアルフレッドに問いかける。アルフレッドは「コーヒーをください」と答えると、ウルは、コーヒーを2つのカップに注いだ。
小綺麗な木製のテーブルにコトリと心地よい音が響く。アルフレッドは礼を言うとコーヒーを1口飲んだ。温かいコーヒーを飲み、アルフレッドは小さく笑みを浮かべた。
「今日は君に聞きたい事があったんだよ」
ウルはアルフレッドの対面に座り、コーヒーを飲み、言う。
「君の後ろを今も飛んでる、ピンク髪の女性について聞きたかったんだよ」
ピンクの髪の女性__オーファンは「わ、私?」と困惑の顔をして自身を指差す。ウルは声こそ聞こえなかったが、何を言いたいのかは分かった為、頷いた。
「私は、君にすごく興味がある。何故宙を浮いているのか、何故私とアル君だけが見えているのか、そもそも、君は何者なのか、気になる事ばかりだ」
ウルは、指折りで数えながら言った。
アルフレッドはオーファンをちらりと見る。どうしたものかと考えていた。オーファンはその感情を受け取り、アルフレッドに言った。
「今から私の言った事を復唱して下さい」
オーファンはアルフレッドの後ろに舞い降りる。アルフレッドは頷いた。
「ウルさんは、彼女の声は聞こえないかと思いますので、俺が代わりに伝えます」
「おぉ、ついに彼女と話が出来るのかい!?是非お願いするよ」
ウルは多少興奮気味に答える。アルフレッドはオーファンに目配せすると、オーファンは頷き、喋り始めた。
「私は神界から舞い降りた女神。名前はオーファン。この世界の神です」
オーファンが言った事をそのままアルフレッドは真似をする。ウルは、目をこれ以上無いぐらいに見開く。まさか、この女性が神だとは思わなかったからだ。
「まさか、こんな可憐な女性がオーファン様だったとは。しかし、貴方は何故ここにいるのでしょう。何か普通とは、違う事が起こった?まさか、ここ最近の異常気象が関係あるのでしょうか」
「その通りです。その異常気象が別世界の影響を受けている為、起こっている可能性が高いのです」
アルフレッドを通して、オーファンとウルは話し合う。ウルが何故、ここまでオーファンを信用するのかが、アルフレッドには分からなかった。ウルは、そんなアルフレッドの顔を見て言った。
「ふむ、アル君は、何故私がオーファン様の言う事を信用しているのかわからないという顔をしているね」
アルフレッドは内心ドキリとした。見事なまでに心を見透かされたからだ。
「まぁ、そう思うのも分かる。急に他人には見えない人物が見えたかと思えば、私は神です。この世界の危機なのですとか言われても、その人にとっては困惑でしか無いだろう。もちろん私も彼女を完全に信用した訳では無い。が、今までの感じから察するに悪い人では無い事はなんとなく分かる。ただ、他人の考えている事なんて本人にか分からないからね。完全に信用は無理なんだよ。でも、信用しないで突っぱねるだけならそこには何も生まれない。私はきちんと相手の言っている事を聞いた上で自分で理解して信用するかどうかを決めたいだけなんだよ」
ウルははっきりとした口調で言う。アルフレッドはその勢いに黙ってしまった。周りが静かになったと同時に、またオーファンが話し始める。
「私はあなたに絶対に信じてとは言いません。ただ、あなたの知らない事に対する探究心を賞賛して、私も話すと決めたのです」アルフレッドは少し遅れて話しだした。
ウルは少しの沈黙の後、「ありがとうございます」とお礼を言って頭を下げた。
「しかし、何故、私もあなたが見えるのでしょうね」
不意にウルが言った一言にアルフレッドが一瞬たじろぐ。慌てて、表情を元に戻すが、その僅かな変化を見抜いたのか、ウルは悲しそうな顔でため息を1つ吐いた。
「いや、聞くのはやはりやめておこう。あまり、良い知らせではなさそうだから」
ウルはそう言い、ぬるくなったコーヒーを飲む。アルフレッドはやってしまったと後悔した。その後に飲んだコーヒーは、あまり味がしなかった。
アルフレッドはオーファンが棚に置いてある写真立てを見ながら浮いている事に気づいた。彼は椅子から立ち上がり、ゆっくりとその写真に向かう。その写真には少しだけ若いウルとアリス、その横に女性の姿が写っていた。幸せそうな家族だった。
「幸せそうな家庭なんですね」
アルフレッドが言う。ウルは静かに首を横に振った。
「確かに、幸せだったな。彼女の名前はエマリーといってね、私の妻なんだ」
ウルは懐かしそうに遠くを見つめ、語る。見つめた先には窓があり、澄み渡る青空と丘が見えた。
「今は、あの丘で私とアリスを見守っているよ」
アルフレッドは「すいません」と謝る。ウルは手を振って気にしていないそぶりを見せた。
「今はこんな感じだけど、妻を亡くしてしまった当時は、かなりやつれてしまってね。アリスの事を気にかける余裕すらなかったんだ」
ウルは視線をスッと落とし、コーヒーの入っていたカップを見つめた。
「そんな時に、私を助けてくれたのが、ロウさんだったんだ。アリスの事を蔑ろにしていた事を叱ってくれたんだよ。『エマリーさんに愛と子どもを貰って、アリスからも愛と似顔絵を貰って、お前は何を自分の子どもにあげるつもりなんだ!』ってね。私は自分が情けなくなった。貰ってばかりの自分に嫌気が差した。だから決めたんだよ。アリスに愛をあげよう。エマリーがあげる筈だった分まで私があげようってね」
「……そう、だったんですか」
ウルが手をパンと叩く。
「ああ!そろそろアリスが帰ってくる時間だ!アル君もそんな暗い雰囲気出してたらアリスに心配されるよ?まぁ、話し出した私も大概だけどね」
それを言い終わったとほぼ同時に玄関の扉が勢い良く開けられる。
「おかえり」
ウルは帰ってきた少女__アリスに言った。「ただいま」と返事が返ってくる。この短いやり取りは、ウルを幸せな気分にさせた。
「アル君、なんでここにいるの?」
アリスがアルフレッドに向かって笑顔で言った。
「お父さんとお話ししてたんだよ」
アルフレッドは苦笑いを浮かべて答えると共にアリスはきっと、思った事や考えた事を思わず言ってしまうタイプなんだなと感じた。
「あ、ちょっと待って」
アリスはそう言うと窓の方に歩いていく。丁度、先程ウルが見ていた窓だ。アリスは窓を思い切り開ける。
「ただいまー!!」
アリスが叫ぶ。かなりの声量で出た『ただいま』は、窓の向こうに見える丘まで響きそうな声だった。
「よし、と」
アリスは振り向くと、机まで歩いて行き、椅子に座る。すると、台所からウルがカップを1つ持ってくる。アリスの前にコトリと置かれたカップにはホットミルクが入っていた。アリスはそれに息を吹きかけ、冷ましながらコクコクと飲んだ。
「ふー、たいへんおいしゅーございました!」
たどたどしく言ったアリスの感想にアルフレッドとウルは思わず笑う。アリスは一度ムスッと顔をしかめたが、すぐに一緒になって笑い出した。
「どこでその言い方を習ったんだい?」
ウルがアリスに言う。
「学校!今日習ったんだよ!なんか丁寧な言葉なんだって!」
アリスが胸を張って言う。それを見て、また2人は笑った。
その後もアリスは止まらずに喋り出した。アルフレッドとウルはその様子を眺め、時には、一緒になって喋りながら時間を過ごして行った。




