第18話:いざ表舞台へ05
続く二戦目。
開幕は前回と同じ、シハラの牽制攻撃は空を切り、キリツメは後ろに下がっていく。
さらにそこからキリツメは遠距離攻撃を仕掛けてくる。
ここまで定石。十戦やったら八戦はこの流れになると思う。
ただ一つ違和感がある。
北森さんにしては、キリツメの攻撃に脅威が無くなっている。
一本目を制したことで僕のメンタルが向上したのか、または、読み切れずに負けた北森さんのメンタルが低下したのか。
それはわからないが、なぜかキリツメの位置に辿り着ける気がする。
前進するシハラの頭上を攻撃が飛び。
ジャンプするシハラの下を攻撃が通る。
ガードすることなく、シハラとキリツメの距離がどんどん縮まっていく。
あと一歩の所までやってきた。
ここまで来られると、キリツメは近距離攻撃で攻めを継続するか、ジャンプして裏に逃げるかの選択を迫られる。
が、ここで北森さんが取ったのは第三の選択。
シハラの着地に合わせて、発生が遅いガード不能技を出してきた。
ガムシャラにキリツメを捕まえに行っていたら、その攻撃を食らっていたかもしれない。
しかし、キリツメが逃げることも考えていた僕は、キリツメの動きがよく見えていた。
キリツメの初動を見て、僕は反射的に空中技を出して着地タイミングをずらす。
お互い技が届かなかったが、ガード不能技なだけあって向こうの硬直の方が長い。
シハラは牽制攻撃から突き飛ばす技を出して、キリツメを画面端へ追い込む。
キリツメの起き上がりに合わせて、低空ダッシュからの空中攻撃を重ね、キリツメを画面端に張り付ける。
こうなってしまっては、キリツメは反撃するのが難しい。
ジャンプで逃げられなくないが、下に回り込まれると一本目と同じ展開が待っているかもしれない。
ゲージがあれば仕切り直せるが、まだそこまで溜まっていない。
だから、シハラの攻撃を見切って無敵技を差し込むのが手っ取り早い。
故に、僕は罠を張った。
先ほどの空中攻撃をわざと高めに当てて、地上攻撃と連続ガードにならないようにした。
北森さんレベルなら、そこに反応して無敵技を差し込める。
それと、まだ序盤だから無理しない方がいいと、それまでは考えていたに違いない。
だけど、ここまでの悪い流れが頭のどこかに残っている。
すると、こう考え直すかもしれない。
"まだ序盤だから、リスクを取ってもいいかもしれない"と。
安定したプレイが売りの北森さんだが、こうも立て続けに攻められては安定もくそもない。
ペースを取り戻すなら、早い方がいい。
シハラが着地と同時に一番発生が遅い強攻撃のモーションに入ると、まるで何かに操られたのようにキリツメは無敵技をはずした。
一瞬遅れてシハラの攻撃が発生して、キリツメを切り裂く。
そこからまたダウンを奪い、今度は確実な起き攻めへと持ち込む。
そこから固めと見せかけて投げ。そして、空中コンボ。
ゲージは50%を超え、相手は画面端でダウン。
まさに理想的状況。
ここで何をするか?
僕はなんともう一度投げを選択した。
部活だったら、もしかしたら連続投げはマイナスポイントかもしれない。
でもここは違う。一番勝ちに繋がる行動を選択する場所。
連続投げはほとんどの人がやられたら嫌な気持ちになると思う。理由はうまく言えないけれど、なんかつまらなく感じる。
それはガチ勢も例外じゃないと思う。
しかも、プロを目指す者なら魅せるプレイも意識しなければならない。時には使用する事もあるだろうが乱発はできないので、選択肢の下の方にあるだろう。
僕は、自分がやられたら一番嫌な事で相手のガードを崩していく。
もちろん北森さんも警戒していただろう。
だが、キリツメの近距離攻撃は暴れるには発生が遅すぎる。投げと呼んであらかじめ出しておかないと間に合わない。
徹底的に、相手キャラの弱点をつく。
さすがにそのまま押し切れはしなかったが、ワンチャンスあれば倒しきれるだけのゲージを残せたので、思い切った攻めを続け、キリツメにダメージを負わせるのは難しいことではなかった。
「よしっ!」
ゲーム画面に大きく決着がついた事が表示されると、僕は小声で小さくガッツポーズを取った。
この総当たり戦で一回も勝てていなかった北森さんに、ようやく一勝できた。
わずかだが、ライジング出場への道が開けた気がする。
筐体の横から北森さんがやってきて、「今のはまいった」とだけ笑って言って去って行った。
まだ一勝。されど一勝。
今日は一日総当たり戦が続く。
ここで白星を増やして、チームのレギュラーを手に入れたい。
僕は、望みと可能性を胸に、対戦で溜まった熱を感じていた。