第18話:いざ表舞台へ04
僕は強下段攻撃を相手の起き上がりに重ねた。
キリツメはリバサはせずに、しっかりと下段ガードをする。
僕の判断は、"リバサを食らってもいい"というものだった。
少量のダメージで溜まったゲージを捨ててくれるなら、今後に繋がる可能性がある。
または、間違って攻撃を食らってくれれば儲けもの。
もしくは、無難にそのどちらでもなくても、シハラのターンがようやく舞い込んできただけのこと。
シハラの固めは多様で、それなりに使いこなされると逃げるのが難しくなる。
ただ、固めといっても連続ガードになっているわけではなく、デュレイのかかる攻撃や隙が少ない攻撃を組み合わせて、連続攻撃の終わりをわかりにくくさせているだけだったりする。
なので、無敵技を挟み込んでカウンターを取りやすい弱みを持っている。
本来なら、その割り込みが来そうなタイミングを感じ取って、相手の空振りを狙うのも必要な手なのだが、今回は愚直に攻め続ける。
そのあからさまな攻めに、キリツメはついに無敵技を出した。
念のためゲージを消費して隙を消し、シハラが攻撃を食らっているのを確認して、空中コンボをきめる。
シハラの体力は5割ちょっと、キリツメはまだ9割ほど残っている。
おまけに再び距離ができてしまった。
せっかくのチャンスを活かせないまま終わってしまう。
キャラ性能の差や相性はあるものの、結局はプレイヤーの実力がものをいうのが格闘ゲーム。
費やしてきたお金も時間も関係無い。
その時、強かった方が勝者である。
どんなに頑張っても強い人には勝てない。
そう思っていた時期が…僕にはあった。
つい昨日までは。
賭けに勝ちチャンスを掴んでも、ダメージを受けたのはシハラ。
いつもなら負けを意識し始めている頃だが、今日は違っていた。
たぶん、苦しんでいるのは"僕だけじゃない"。
パッと見の状況はキリツメ優勢で、実際もその通りだが、いつもの北森さんらしくない展開が続いている。
反応できていたのにはずした対空技。
滅多に見せないゲージ消費割り込み。
前回までの対戦のように、北森さんのペースがまだ作れていない。
それにもしかしたら、プレイヤー読みに揺らぎが生じているかもしれない。
しかもキリツメにはゲージがないから攻めにくい。
となれば、やれることは安定を重視したセオリー通りの牽制。
といきたいところだが、シハラは先ほど強化移動技での接近に成功している。
迂闊な牽制は同じ展開を招きかねない。
このチームのレベルで連続して同じ展開が成功することはまず無いので、そもそもやる人がいないが、ライジングのかかったこの勝負でそのリスクを無視できる人もいない。
そうなれば答えは一つ。
シハラが低空ダッシュをすると同時に、キリツメの下段弱牽制が飛んでくる。
シハラが下り際に空中攻撃を仕掛けるが、キリツメのガードが間に合う。
けれど、それで十分。そこからリスク承知で大きく前進して、シハラの間合いにキリツメを入れる。
一度無敵技で割り込まれているから連続ガードを狙ってくると、北森さんは思ったに違いない。
しかし、それでは格上の北森さんに届かない。
そして僕は、ここで高難易度の固めレシピを選択する。
この固めは主に画面端からジャンプで逃げたい相手に行うモノなのだが、例外が存在する。
それは、バックステップが弱いキャラ。
あまり差があるように見えないが、実はキャラによって性能が微妙に異なる。
通常攻撃が強めに設定されているキリツメは、バランスを取ってまさにディフェンス面が弱めになっている。
なので、こういう場面でちょっと心が弱い方に流れると…。
筺体のスピーカーから大きなヒット音がする。
バックステップの無敵時間が切れたタイミングで、シハラの強攻撃が当たったのだ。
しかも、バックステップはジャンプしているため、空中でのヒットになる。
強攻撃はヒットストップも長めなのでヒット確認がしやすい。
僕は考えるよりも早く、何百回と練習したコンボをキリツメに叩き込む。
このコンボで一気に体力の優劣は逆転した。
おまけにシハラはゲージを温存できて、空中を漂うキリツメを迎え撃つ形になっている。
当然、キリツメは体制を立て直そうと逃げるが、シハラがそれを許すわけがない。
キリツメの裏に回り込み、攻めを継続する。
ここで温存しておいたゲージを使って中段攻撃でガードを崩し、さらにダメージを与える。
シハラとキリツメの間に距離ができてしまったが、キリツメの体力は残り2割。
残り時間を考えると、キリツメは攻めることを余儀なくされている。
が、攻めて来るとわかっているキリツメの対処は難しくない。
僕は多少攻撃を許してしまったものの、掴んだ優位を活かして一本目を勝利した。




