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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
70/133

第12話:青春協奏曲~法王の正義~02

一時間くらいが経ち、三年生が戻ってきた。

誰一人しゃべっておらず、少し重たい空気を感じた。

一時間が長いのかどうかはわからないが、何事も無く終わったようには見えない。


最後の大会ともなれば、オーダーが慎重になるのは普通か。

僕はそういうことにして、ゲームへと戻っていった。




さらに三十分が経過して、小休憩に入った。

僕はゲームをしていた席から動かずに、背もたれに深く寄り掛かった。


部員に教える立場になってから二か月弱。全体のレベルが上がっているのを感じる。

特に、小林くんのように僕のアドバイスを家でしっかり練習してきてくれるような人が強くなっていて、負けはしないものの、もう本気で対戦していると言ってもいいくらいだった。

なので、一時間以上対戦が続くとさすがに疲れる。


「おつかれさま」


ボーと電源が切られた画面を見ていると、花尾間さんと関泉さんがやってきた。


「なんか疲れているようね」


「うん、みんな強くなかったから、ずっと集中しっぱなしだよ」


「現内コーチの成果で出ているってことだね」


「現内くんを筆頭に大会に出れば、優勝できるかもよ」


「はは、だといいね」


そんな感じで夏の大会について三人で雑談をしていると、前の方から渡辺さんがやってきた。


「現内、ちょっといいか」


まったく顔が笑っていないのはいつものことだが、今日はさらにピリついた雰囲気がある。


「なんですか?」


ちょっと怖気づいてしまう。


「ゲーム筺体の基盤交換を忘れていて今からやりにいくんだけど、手伝ってくれないか?」


ゲームは無数にあれど、学校にある筺体の数に限りはあるので、ゲーム関連の部活が持ち回りで基盤を交換している。

最近はダウンロードで交換できるようになってきているが、息の長いタイトルは基盤で動いている。

ちなみに、元の世界で言う体育館は、こっちの世界では競技館と呼ばれていた。


「わかりました」


僕はすぐに立ち上がると、すでに部室を出ようとしている渡辺さんの後を追った。


渡辺さんは僕がついてきたことを確認すると、それっきり見向きもせずにスタスタと歩いていく。

僕はその三歩後ろくらいをついていった。

まだ色んな部活が活動していて、掛け声なんかが聞こえてくる。

会話は無い分、音があるのが助かった。


競技館に入ると、いくつもの電子音が鳴り響く。

友達同士でゲームをやっているグループがいくつもあって楽しそうにしている。

これが日常風景なのだが、僕にとってはまだアミューズメント施設と変わらない。


競技館の端まで行き、マットや跳び箱などがしまってあるイメージの倉庫を開ける。

そこには、基盤が規則正しく並んでいて、わかりやすいようにタイトルと小さく印刷されたパッケージの表紙が添えてある。

ここは何度来てもわくわくする。

人気がなくてすぐに撤去されてしまったゲームもさり気なく存在していて、どうにか引っ張り出せないか考えている。


僕は一歩中に入り、ぐるっとまわりを眺めた後、渡辺さんに声をかけた。


「どれを出すんですか?」


渡辺さんの反応が無い。

聞こえなかったのかな?と思い、もう一度聞いてみる。

それでも反応がなかった。


僕が少し不穏な空気を感じると、ようやく渡辺さんと目が合った。

思わず身構えると、渡辺さんも一歩中へ入った。

そして、入口に背を向けたまま、扉をゆっくりと閉めた。


扉は静かに閉まり、聞こえてくる電子音が少しだけ小さくなった。

体育館倉庫の扉は重くて音を遮断するイメージがあるが、ここの扉は薄くて軽い。

しばらく渡辺さんは動かなかったが、首元を掻くと僕の方に向き直った。


「ど、どうしたんですか…?」


無表情な渡辺さん、少し蒸し暑い閉ざされた倉庫。

僕は恐怖を感じ始めていた。思い出してきたと言ってもいいかもしれない。

あの、馬鹿にされ続けていた日々を。


「お前さ」


低く大きめの声で、渡辺さんが話し始める。


「大会に出るつもり?」


そう言って、僕を睨みつける。


「えっ?いや、出るって、それは…先輩達で決めることじゃ…」


渡辺さんが何を聞きたいのか、僕には全然わからなかった。

ただわかっていることは、渡辺さんが僕に怒っているということだけ。

その不明確な怒りが、僕を震え上がらせる。


今まで楽しくできていたのに、楽しくやってこれていたのに。

そりゃ、至らない事も多かったけれど、以前に比べればかなりマシになったと思っている。

屋良さんや箕内さんみたいに、僕を気に入ってくれている人達だっている。

なのに、どうして渡辺さんは僕にこういう態度を取るのだろうか?

わからない。


「部内での実力を考えたら、現内コーチが出ないわけないと思わない?」


「ぼ、僕は…」


たしかに、出させてもらえるかもしれないと思っていた。自分が出た方がいいとさえ思っていた。

でも、だからと言って、出場が当たり前なんて考えていない。


「……そんなこと…」


頭の中がぐちゃぐちゃになってしまい、うまく否定ができない。


「はぁ…」


渡辺さんがため息をついた。


「わかった。お前にはストレートに言わないとダメだな」


渡辺さんの目が睨むような感じから、冷たい目に変わった。


「お前、大会の出場を辞退しろ」


その声は、重く大きく、電子音をかき消すように僕の耳に届いた。

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