第11話:登竜門05
状況が変化したのはタイムが残り30秒くらいになったあたり。
お互い決定打が無いまま、ゲージを大量に抱えた状態。
今まで通り慎重にケイトを追いかけていると、飛び越えたつもりの罠に足がかかってしまう。
ケイトはそれに反応して空中ダッシュで追撃を試みた。
しかし、距離が微妙にあいていたので、寸前でシハラは復帰することができてダメージを回避する。
さらに、シハラの方が先に着地した形で、初めてケイトに接近できた。
ただの相手の判断ミスだが、このチャンスは逃せない。
僕はゲージをフルで使用するつもりで攻撃を仕掛けた。
が、相手はゲージ消費を厭わずガーキャンで僕を突き放す。
状況はふりだしに戻ってしまったが、相手は一旦下がらずにその場で罠を張り始めた。
僕はそれを見て、相手は僕が焦って飛び込んでくることを想定していると考えた。
なので、起き上がるとすぐに大ジャンプをして、相手を大きく飛び越える。
僕の読みは当たり、ケイトが放った低空ダッシュ対策の飛び道具はシハラの下を通り過ぎる。
その飛び道具に接触してしまうと五分だが、避けられると相手はかなり硬直した状態が続く。
僕は下り際に攻撃を重ねる。
さすがにガードが間に合うが、ケイトはさっきゲージを使ってしまったのでもう緊急回避ができない。
その状況を利用して、シハラが畳み掛けるようなラッシュでケイトを攻める。
しかも、投げを匂わせるような小攻撃の連打。いつ来るかわからない当て投げ。
相手はプロを目指している人、安易に暴れたりジャンプしようとはしない。
ようは我慢比べである。
投げを見切られてケイトを逃がすか、固めに耐えられずシハラに攻撃を許すか。
シハラの攻撃が5回ほど繰り返された時、ついにケイトのガードが崩れた。
たまたまではあるが、一瞬判断に迷った間が相手に動揺を与えたようだ。
ゲージは少なくなったが、体力を逆転するには問題ない。
安定してダメージを与えて、起き攻めに移行する。
KOするのが主な目的だが、無敵技の無いケイト相手なら攻めている間が一番安全でもある。
そして、残り時間を考えてケイトも最後の博打に出たが、シハラの猛攻の前に敗れた。
こうしたギリギリの対戦が続き、2本目は取り返されたしまったが、3本目はうまく投げが機能して勝ち、僕は1日目の勝負を辛くも勝利することができた。
シハラの勝利画面を確認して、僕はようやく緊張を解く。
よほど集中していたのか、顔が火照っていて背中が少し汗ばんでいる。心なしか息もあがっている。
大事な対戦に勝利したのに、まだ実感がない。
「はい、現内くんの勝ちと。やるね」
後ろで見ていた鈴木さんが、スマホで記録を取っている。
席を立ち、後ろに下がろうとすると、対戦していた人がやってきた。
「強いね。こうやって勝負する前に対戦しておきたかったよ」
まだ一敗とはいえ、ライジングの出場が一歩遠ざかったのに、こうやって僕を讃えてくれた。
「あ、えと、そうですね…手の内を知られていたら、勝てなかったかもしれないです」
「それはお互い様だろ、はは」
そして、自然とさきほどの対戦を振り返った。
練習中のように反省点をだすのではなく、お互いによかった点を挙げていく。
僕はただ、話の流れに合わせていただけだが、褒め合う事で気分がのってくる。
今はライバル関係にあるが、こんな風にみんなで気持ちを高め合えるのがチームの良いところなんだろう。
それは部活も例外ではないのだが、チームで初めてそういうものを感じたのは、きっと仲間というだけでなくライバル同士でもあるからに違いない。
昔読んだスポ根漫画みたいだなと思うと、また少し笑えた。
僕には関係ないと思っていた事が、短い期間に何度も訪れる。
何の因果でこうなったのかは永久にわからないのだろうけど、僕はこの世界に感謝した。
対戦が終わると、あとは後ろで観戦するだけだった。
けれど、どの対戦もハイレベルで観ていて楽しいし、勉強になる。
いずれ対戦することも考えると、どれも見逃せない。
「あ、あああ…」
同じシハラ使いもいる。僕とは違った立ち回りをしているので参考にしたい。
「あの、げ…現内さん」
声が小さくて聞き取りづらかったが、名前を呼ばれた気がした。
振り返ると、いつもより少し離れた位置に栄樹さんがいた。
「あ、おつかれさま。部活が終わって真っ直ぐ来たの?」
なぜか栄樹さんは少しオドッとしている。
「はい…、現内さん今日が初日だから…その」
「あぁ、それで見に来たか。…と思ったけど、どうせもともと毎週来てたんでしょ?」
「えっ、あ、あはは、バレちゃいましたか」
どうもぎこちない。
まぁ、一昨日の事を引きずっているのだと思うけれど、そんな気にすることでもないと思うが?
なんて考えていると、頭が格ゲーから日常に切り替わって行く。
すると、自販機の前で鈴木さんが言っていたことを思い出した。
栄樹さんは僕に懐いているかもしれない。
鈴木さんの気のせいかもしれないけど、そんなことを言われてしまったら意識してしまう。
「なんか、みんなの様子がいつもと違いますね」
「あぁ、実はね…」
僕はライジングの招待状が来たことを話した。
「うそ!すごい、やったじゃないですか!」
ずっとチームのことを応援していたのだろう。栄樹さんは我が事のように喜んだ。
「それは、お兄さんに言ってあげてよ。僕はまだ何もしていないし」
そんな話をしていると、今日の総当たり戦が終わり、お兄さんが集合をかけた。
「それじゃ、集まりますか」
そう言って僕が進もうとすると、栄樹さんに服を掴まれた。
「ん?」
「あの…現内さん…」
「どうしたの?」
「えっと、その…」
「ん?」
「この後、ちょっとだけ時間ありませんか?」




