第5話:これが勝負でした04
続く2本目、相手は僕をただの格下とは思わなくなったのだろう。
1本目よりも積極的にダメージを取りに来ている。
格上以上を相手に劣勢になった場合、よりアグレッシブになるのは、僕は有効だと思っている。
勝ちパターンを持っている上級者でもない限り、守りに徹するのは慎重ではなく躊躇であり、なんの解決にもなっていないことを僕はネット対戦で学んだ。
さらに言うのであれば、この早いゲームスピードの中で、すべてが見えている人はほとんどいないと考えている。なので、攻めてさえいればダメージを取れる機会があるはずなのだ。
ゲージ効率もリスク管理も薄い攻めが続き、ついにその攻撃が僕のシハラに被弾してしまう。
しかし、反射的に出した技だったのか、せっかくカウンターヒットを取れたのに、相手は追撃できずに僕を取り逃がしてしまう。
流れを取り戻そうと一直線に向かってくるが、それはあまりにも単調な動き。
あらかじめ予想していた僕は、ハイリスクハイリターンの反撃を用意していた。
大振りの大ダメージ攻撃を「置く」。
あえて発生の遅い攻撃を選択することで、思わず動いてしまった相手に刺さる戦法。
失敗すればダメージ必至だが、成功すれば相手の体力も精神も削ることができる。
そう、また大振りが来るかもと思ってしまい、動きがにぶくなるのだ。
案の定、あの一発で攻めも通じないと思ってしまったようで、その後はあっけない結末を迎えた。
少し危なかったが、勝利することが出来た僕は、勝ち画面を確認して席を立ち、みんなの所へ戻る。
「ふー!現内くんさっすが!」
興奮気味な箕内さんがガッツポーズで出迎えてくれた。
「やったね」
「はい、ありがとうございます」
僕は冷静にプレイできた事を実感していた。
いざ対戦が始まっていまえば、周りが気にならなくなる。
我ながら、なかなかの集中力だなと思った。
それから、2回ほど対戦して、すべて勝利した僕は、いい流れでトーナメントに臨める形となった。
小休憩に入り、みんなそれぞれ休みを取る。
僕も椅子に座ろうとした時、屋良さんに声をかけられた。
「現内くん、悪いけど部室に賞品とか入っているトーナメントグッズを持ってきてくれないか?」
「わかりました。どこらへんにありますか?」
「ん?あれ?どこだっけか?」
頼んだはいいが、屋良さんは場所がわからないようだった。
そこにちょうど花尾間さんが通りかかり、屋良さんが引き止める。
「花尾間さん、トーナメントグッズの場所ってわかる?」
「は、はい、たぶん部室の奥の棚だと思いますが…」
「おっ、ナイス。じゃあ悪いけど、現内くんと一緒に取りに行ってくれないかな?」
「えっ!?わ、わかりました…」
少し大きめのリアクションの後に、トーンダウンしていく返事をもらった。
わかるよ。2人きりってしんどいよね。
ちょっと傷ついたけど…。
「えと、じゃあ、花尾間さん。お願いします」
「…うん」
僕らは並んで体育館を出て、部室を目指した。
騒がしい体育館が遠のいていくについて、沈黙が大きくなっていく。
な、何か話をしないと。
「花尾間さんは…、さっきの対戦会はどうだった?」
タイムリーで無難な話題。僕にしてはよくできた方だ。
「私?あー…、あはは、全部だめだった」
花尾間さんはわざとらしく笑って、頑張って明るく話してくれた。
「そっか、残念だったね」
「うん」
………。
あの、この後ってどうするの?
これはさすがに掘り下げられないでしょ?
などと悩んでいると、花尾間さんの方から話を振ってくれた。
「現内くんは全勝だったね。おめでとう…ございます」
すごく遠慮がちに言われたが、思わず付けてしまったと思われる「…ございます」がかわいかったので少しテンションが上がる。
「う、うん、ありがとう…ございます」
僕も同じく照れてしまって、思わず語尾に「…ございます」を付けてしまう。
「みんな強かったから、あぶなかったけど…」
謙遜という名の引き伸ばしで、なんとか場を繋ぐ。
「そう、だったんだ」
お互い手探りでなんとか会話を続けながら、部室からグッズを持ち出し、体育館の前まで戻って来る。
すると、体育館から他校の女子が2人出てきて、お互い目が合った。
「あっ、君、あの強かったシハラ使い」
一人が僕を指差して近づいてきた。
「君やるねー。見てて愉快だったよ」
「あいつにはいい薬だった」
2人は笑いながら言った。
少し時間がかかったが、1回戦目で見かけた女子だった。
突然のことに反応できない僕を、二人はまじまじと見てくる。
「あれ?よく見ればけっこうイケメンかな?」
そう言った女子が「うふ」といった感じの仕草をとる。
「ほー、たしかに」
もう一人が腕を組んで頷いた。
「でも、ちょっと身長が高すぎるかな」
「そだね。まっ、私達のことは気にせず、頑張ってね」
そして、二人はきゃっきゃ言いながら去って行った。
「な…なんだったんだろうね?」
「う、うん」
僕と花尾間さんは少し呆気に取られてしまった。
その時、僕は少し前に気になった事を思い出した。
女子に聞くのはかなり勇気が必要だったが、思い切って質問してみた。
「あ、あのさ」
「ん?」
「僕って、そ…そんなに背が高い?」
「えっ、えーと」
あー、思っていた通り困らせてしまった。
「そんなこと、ないと思うけど…」
とは言ってくれているが、これはあきらかにフォローだった。
花尾間さんの視線は僕から遥か右に寄っている。
「女子的には、その、どのくらいが理想なの…かな?」
僕にしてはかなりいい聞き方ができた。
「えぇ、どうだろう?165センチくらいとか、雑誌で見たことあるけど」
「そうなんだ、理由とか書いてあった?」
「たしか、ひ弱過ぎないコスパのいい大きさ?とかだったかな?」
それを聞いて、僕は曇り空が晴れるような、すっきりした気持ちになった。
なるほど。
食糧難の過去があったから、男も女もちょうどいいサイズが美徳となったというわけか。
外国人の背格好に対するコンプレックスを誤魔化す意味もあるかもしれない。
それなのに、こっちの世界の僕ときたら、わざわざ体を大きくしようとしていたとは…。
せっかく背が高くなれたのに、ここではまったく意味がなかった。
世の中が変わっても、世の中の厳しさは変わらないということなのでしょう。
僕らは身長話に花を咲かせながら、体育館へと入っていった。




