第5話:これが勝負でした02
しばらくして、ついに交流戦が始まった。
「今日は、自分達の実力を試す良い機会であり…」
と、まずは真面目な挨拶をしたのが亀里高校の部長。
「全国大会を目指している私達は…」
と、強さを追い求めています感のある挨拶をしたのが鳥塚高校の部長。
「こうして大人数が集まったので楽しく…」
と、二次会もあるでしょ?という雰囲気を出した挨拶だったのが竜川高校の部長。
「今日この日に、みんなで一つ強くなりましょう」
そして、最後にさわやかな挨拶をしたのが、我ら虎森高校の部長である屋良さん。
そのまま、箕内さんから本日の全体の流れが説明され、午前中の詳細な内容が説明された。
午前中は、強い順にA、B、C、Dグループに分かれての対戦会。
僕は、部室で行われるDグループの記録係を任された。
部室に揃った顔ぶれを見ると、なんとなくだけど一年生しかいないように思えた。
あれ?一年生って雑用じゃ…と思ったけれど、他校の一年生を駆り出すほど、人手が足りないわけでもなかった。
今年はうちで開催というのが、運が悪かったのかもしれない。
などと考えていると、一人の他校の生徒が全員にあることを呼びかけた。
「みなさん聞いてください。Dグループはほぼ一年生なので、例年通り記録係は交代制にして、みんなで対戦できるようにしたいと思います」
「はい」
部室にいる何人かが、その案に返事をする。
「ルールとしては、対戦に負けた人が記録係と交代するという単純なものですが、よろしいでしょうか」
そのルールが採用されたことを、全員の拍手でもって証明される。
「他のグループに行ってしまった人は交代が無いので、虎森高校の人は適度に交代してあげてください」
虎森高校の一年生が「ありがとうございます」とお礼を言って、対戦会はスタートされた。
ゲームの部活とはいえ、部活動である以上、僕はもっと堅苦しい様子を思い描いていた。
実際、開催校の一年生は雑用を命じられているわけなのだが、それを他の高校の一年生がフォローして、みんなで対戦できるようにしている。
ならばいっそ、みんなで全部やればいいじゃないかと思うが、そんなことで物事がきれいに回る程単純でないことも、さすがの僕でもわかる。
大勢で何かをやるためには、きびしくても単純なルールが必要だ。
でも、それだと絶対に損をする人がでてしまう。
だから、その損を少しでもなくそうとできたのが、この暗黙のルールなのだろう。
無作為に集められた学校のクラスではなく、格ゲーマーという同志で集まっているからこそ、こういった助け合いが自然と生まれたのかもしれない。
すっかり恒例と化した事なのかもしれないけど、この温かいやりとりに僕は少し感動してしまった。
感動してしまったのだが、おそらく唯一人の二年生である僕は、少し場違いな気持ちにもなっていた。
一回だけ対戦したら、他の一年生と変わってあげよう。
僕はそう考えると、記録を取る準備をした。
…。
……。
時計の針が12時に回り、お昼の時間となった。
僕は結局、最初に一回対戦をしただけで、その後は色んなグループの人と交代を繰り返して、対戦をしなかった。
一年生の中に混じるというのも原因だが、Dグループだと、その、実力差がありすぎて、やりにくい。
屋良さんは、このことまで見越して、対戦できるのは3回くらいと言っていたのかもしれない。
さてと昼飯ということで、部室にある鞄から弁当箱を取り出すと、食堂へ向かった。
そこでは、学校関係なく人が入り乱れて、各々楽しそうに昼食を取っている。
屋良さんと箕内さんは他学校の部長達と一緒に。
女子だけで構成された集まりもあり、格ゲー女子の貴重な交流の場となっていた。
同じ二年生達もいくつかのグループになっている。
あ、これ、僕はどこへ行けばいいやつだろう?
部活でよく対戦した二年生男子がいるところへ行けばいいのだろうけど…。
何度も頑張って行こうとしたけれど、それを誰かに気付かれるのが怖くなって、僕は一人外へ向かった。
腰かけられる所を見つけて、弁当箱を広げ、おにぎりを口にする。
今日は天気のいい日で、鶏小屋と畑の匂いがする。
元の世界では、食糧難がよく叫ばれているけど、いざとなればこうなれるのかね?
ここは普通の高校なのに、農業の実習とかあったし。
最近、一人で考えることが少なくなったせいか、改めてここが異世界であることを感じる。
すると、先ほどの出来事と相まって、急に寂しさが湧いてきた。
「なんだかんだやってきたけど、こればっかりは受け入れるのに時間がかかるかもな」
両親も、学校も、街も、国も、ちょっと変わっただけだ。
でも、まったくの別物なんだ。
こっちの僕もあっちの僕も、誰とも関わってこなかったから、すんなり再スタートできただけだ。
………僕は、本当に…。
「そんなに焦るなよ少年」
突然、声をかけられて、危うく米を拭きだすところだった。
現れたのは箕内さんで、何やら「わかるぞ」とでも言っているような雰囲気だった。
「一週間そこいらじゃ、誰だってうまくいかないさ」
恥ずかしいことに僕のつぶやきを聞かれてしまったようだが、食堂の事だと思っているようだった。
まぁ、異世界に悩んでいたなんて考えられないだろうけど。
「現内くんは、人付き合いが苦手かい?」
「そうですね。恥ずかしながら」
「そっか」
箕内さんはそう言うと、「はい」と手に持っていたお菓子を差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
もらったはいいが、昼飯中なのでどうしたらいいか迷う。
「でも君は、それでも格ゲー部に来たんだ。きっとそのうち、なんとかなるよ」
箕内さんはそう慰めてくれて、僕の返事を待たずに行ってしまった。
正直、それが一番ありがたかったかもしれない。
強く引っ張るでもなく、深く入ってくるでもなく、ちょっと様子を見に来てやったぞといった気遣いが、次は頑張るぞとやる気をくれた。




