第5話:これが勝負でした01
そして、交流戦が開催される土曜日がやってきた。
いつもなら遅寝遅起きになる土曜日に、平日よりも早起きして学校に行く。
こんな行事に参加したことがなかったから、何か忘れていないか?何か間違っていないか?という漠然とした不安がいつまでもついて回る。
学校で行う部活動なのだから制服で行くのが当然なのだが、休みの日という感覚がそれすらも惑わせる。
とはいえ、いつもより人が乗っていないバスに乗っているのは、なんだか新鮮な気持ちだった。
部室に着くと、ほとんどの部員が集まっていた。
鞄を下ろして上着を脱ぐと、すぐに準備へと駆り出される。
こういう時、新人はもう少し早く来るものだと学ぶ。
会場は、部室と体育館だった所の2ヵ所で、僕は筺体をいじれないので部室の方を担当することになった。
なので、部員のほとんどは体育館だった所へ向かって行った。
そういえば、こっちの世界でも体育館でいいのだろうか?
今度、聞いてみよう。ド忘れしたふりとかして。
部室に置いてある機材をまとめて見えなくしたり、テーブルやイスを並べたり、飲み物を用意する。
「こういうのって、教室に置かせてもらうことってできないんですか?」
「そうねぇ。機材は高い物が多いから、奥にしまってある雑誌や紙類を教室にどけようか」
みんなで分担して作業をしている中、栄樹さんがてきぱきと動いて、関泉さんが的確な指示を出しているのが印象的だった。
一方僕は、指示が無いと動けない状態。
男であることに誇りを持ったことなんて一度もなかったけれど、女子のフォロー無しに何もできない自分が情けなかった。
いっちょまえに、僕にもそういう感覚があったとは。
「これで一段落つきましたね」
ほとんどの準備が終わり、関泉さんと僕は窓際で一休みさせてもらう。
「そうだね。おつかれさま」
「現内くんもお疲れさま。見た目通り力が強くて大活躍でしたね」
「そんなことないって」
こっちの世界の僕が体を鍛えてくれていたおかげで、お褒めに預かれた。
「関泉さんもすごいね。去年のことを覚えていないと言っていたけど、あんな風に監督できるなんて」
「…?」
「…?」
「…あ、あれはー…」
体育館の方へ行っていた一年生の男子が部室にやってきた。
「すみません、他の格ゲー部も集まったので、準備が終わったら下りてこいとのことです」
「えー、もうちょっと休みたかったよ」
栄樹さんがぶーぶーと文句を言った。
「たしかにちょっと早いけど、待たせるのもあれだしね」
「では行きましょう」と関泉さんは、部室にいた全員をつれていった。
関泉さんは物静かな方で目立つタイプではないけれど、こういう時にリーダーシップを取れることは素直に尊敬できた。
もしかしたら、次期部長は彼女かもしれない。
体育館に着くと、人だかりが4つあった。
1つはうちの格ゲー部で、他はよその格ゲー部だろう。
うわー、これが部活か。
これから始まる未知の体験に、僕は少し興奮気味になった。
人数が多く、規律がしっかりしていそうな高校。
人数が少ないけれど、一人一人が強そうな印象を持っている高校。
まとまりが無いけれど、個性が強くて侮りがたい高校。
同じ格ゲー部でも、学校によって毛色が全然違うんだな。
それでもって、次にやっぱり気になるのは女子の人数なわけなのだが、やはりどの学校も少なめだった。
紅一点っていう学校もあり、その学校では部活自体が男子女子に分かれていて、あの子はマネージャーとか?などと想像した。
っていうか、格ゲー部のマネージャーって何をするんだ?
体育館の奥を見てみると、屋良さんと3人の男子生徒が話をしていた。
それぞれの制服が違うので、きっと全員部長なのだろう。
なんだろう、1つしか歳が違わないのに、大人っぽく感じる。
いつも気さくに話しかけてくれて、身近な存在に感じ始めてきていたけれど、やっぱり屋良さんは人の上に立っている人で、学校で人気者な、僕とは違う人間なんだなという現実を目にした気分になった。
しかし、今の僕はそこで終わらない。
僕はその屋良さんに目をかけてもらっているんだ。
この機会を逃してはいけない。
「ひょっとして、燃えているんですかー?」
入口付近で突っ立っていた僕に、栄樹さんが声をかけてきた。
「いや、そんなわけじゃ」
顔にでも出ていたのか、図星をつかれて恥ずかしくなる。
「いいじゃないですか。ここで活躍したら、この学校だけでなく、この辺りで現内の名が広まりますよ」
「うぅ、悪目立ちな気がするな」
「そんなことないですよ。強い人の所に強い人が集まるものなんですから、現内さん的にも良い話だと思いますけど?」
たしかに、部活以外にも交流が広がることはいいことかもしれない。
が、それはちょっと展開が早すぎるかな?
まだ一週間しか経っていないとはいえ、部活にもまだ不慣れな部分が否めない。
「あれ?現内さんって、もっと上を目指している人だと思っていたんですけど?」
僕の微妙な反応に、栄樹さんが少し困惑している。
「た、たしかにそれはあるけど」
「へへっ、そうだと思ってました」
彼女の読みが当っていたことがうれしかったのか、栄樹さんは笑った。
「それじゃー、えと、かっこいいところ期待しちゃいますよ」
栄樹さんはそう言い残して、みんなの所へ小走りで向かった。
僕は、その一連の流れがあまりにかわいくて、頭の中で数回リピートさせてから、みんなと合流した。