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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
124/133

第22話:これが僕の08

トンフーはゲージもクラマのスタミナも使い果たした。

けれど、僕のシハラは瀕死だがまだ生きている。


やられなければ安い。

とあるゲームで、一発逆転率が高すぎるキャラに贈られた皮肉。


今はその通りだと思う。

まだ勝てる可能性がある。

たとえ勝てなかったとしても、最終戦に繋げられる何かがあるはず。

観ておきたいモノがかならずある。


あと一押しでやられてしまう体力しかない。

カウンターは絶対にくらえないので、僕はリスクを最小限にして攻める。

相手の攻撃が届かない位置。

投げには行かない。

ガードされて困る技は振らない。


当然、簡単にトンフーに距離をとられ、クラマを前に出す。

僕はシハラをちょっとだけ下げる。クラマが届かないギリギリ。

離れすぎると時間切れを狙われてしまう。

近すぎると攻められてしまう。

相手に、リスクが伴う一歩を踏み出させる位置。


ふいに、トンフーがちょいダッシュから一瞬しゃがむモーションが見えた。

考えるより先に、僕の左手が動く。


クラマの突進攻撃に合わせて、シハラがバックステップをする。

それに乗じてトンフーが飛び込んでくるが、着地した所にはクラマしかいない。


この人、ガード入力がクセになっている。


トンフーのようなタイプのキャラは、シハラとは別の理由で遠距離キャラが苦手である。

それは、遠くからクラマを行動不能にさせられるからというのもあるが、クラマを動かすとどうしてもガードが疎かになってしまい、攻撃をくらってしまうからである。

トッププレイヤーの対戦を見ても、攻撃をくらう時はくらってしまっている。


そこらへんは割り切っていかないといけないのだが、対戦相手はシハラ相手でもかなり慎重であった。

いや、慎重というよりも、相手ペースになることを恐れている。

たぶん、それが原因で一回戦と二回戦は僕にチャンスがやってきたのだ。


もしかしたら、相手は大会向けのキャラを変更して間もないのかもしれない。

もしくは、僕と同じ大会初心者。


こんなものは単なる僕の推測に過ぎないが、勝ちへのイメージを上げるのには十分だった。

負けそうなのは変わらない。でも、実力差はそこまでないはずだ。


相手の飛び込みを躱した僕は、再び攻めに転じる。

丁寧に、相手にプレッシャーを与えていく。


一転して攻める機会を失ったトンフー。

相手の体力は残りわずかだと言うのに、体力を減らすどころかまともに攻撃もできていない。


それがじわじわと相手のプレッシャーとなっていく。

逃げようとしたところに下段攻撃が当たる。

投げられまいと暴れたところに牽制攻撃が刺さる。


ちょっとずつ、目立ったコンボは一つもないが、少しずつトンフーの体力が無くなっていく。


しかし、ここでトンフーのゲージが50%を超える。

体力が2割を切っているキャラを倒すには十分な量だ。


トンフーは、ゲージ消費技の多段ヒット攻撃でシハラをロックする。

そしてさらに、残ったゲージを使ってクラマに連続攻撃を指示する。

この連携も凶悪。完全二択ではないが、三連続でガードを揺さぶれるので実質生存率は1/8。


シハラもゲージが50%あるので、1回目の攻撃を凌げればガーキャンで比較的安全に逃げることができる。

けれど僕は、ゲージ温存を選択した。


一回目の攻撃は下段。

ファジーガードするにしても下段出発なのでここはなんなくガード。


二回目の攻撃は中段。

たぶん投げではぎりぎり倒し切れない。

そう考えた僕は中段にのみ注意していた。そのおかげか、いち早く反応してガードすることに成功。


三回目の攻撃も中段。

この攻撃もガード。シハラはトンフーの連続攻撃を耐え凌ぐ。

これは完全にただの勘だった。強いて言うなら、自分だったらどうするかで考えた結果だった。


再び、ゲージもクラマも失ったトンフー。

だが今回は下がらない。この流れでそのまま押し切りたい。


そうだろうと思っていた。

僕は、1テンポ遅らせて超必殺技を放つ。

それは見事にカウンターヒットとなり、トンフーに大ダメージを与える。


気がつけば、トンフーの体力も残りわずか。


シハラの起き攻め。

一発でもくらったら終わってしまう大ぶりの連打。

ガードを固めるしかないトンフーに中段が入り、もう一度起き攻め。


逃げるようにジャンプした相手を空中で投げる。


そして、弱攻撃連打の追い討ち攻撃。


このまま…終わってくれ。

いけー!


「KO!!」


決着が着いたボイスが入り、BGMが止まり、シハラの動きが止まる。

トンフーは、起き上がってこない。


なんとシハラが、4本目も落とすと覚悟していたシハラが勝った。

僕が…僕が勝ったんだ。


心臓が強く打っていること以外は、すごく自然な状態だった。

公式大会初出場で初勝利。

僕なんかがやってしまっていいのかわからないくらいの偉業。

それでも僕は多少の疲れを感じつつも、不思議と冷静だった。


司会者に、勝者が僕であることを告げてもらうと、対戦相手と握手を交わして、僕はステージを降りる。


扉を抜けると、驚くほど静かだった。


僕は勝った。僕は勝ったんだ。勝てたんだ。

何度も何度も頭でそう叫ぶ。

劇的な内容だったわけじゃない。ドラマチックな逆転劇でもない。

どこにでも転がっている。プロ未満の平凡な一勝。


でも、この一勝は絶対に一生の思い出になる。


僕だって、やればできる。

体中にエネルギーが充満しているような気分だ。

今僕は満たされている。


もっといける。もっとやれる。


これが僕の…いや、僕の実力は、まだまだこんなものじゃない。


落ち着いてた心が今頃になって騒ぎ出す。


新しい世界への扉が開いたような、ワクワクした気分だった。


第22話 -完-

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