第22話:これが僕の08
トンフーはゲージもクラマのスタミナも使い果たした。
けれど、僕のシハラは瀕死だがまだ生きている。
やられなければ安い。
とあるゲームで、一発逆転率が高すぎるキャラに贈られた皮肉。
今はその通りだと思う。
まだ勝てる可能性がある。
たとえ勝てなかったとしても、最終戦に繋げられる何かがあるはず。
観ておきたいモノがかならずある。
あと一押しでやられてしまう体力しかない。
カウンターは絶対にくらえないので、僕はリスクを最小限にして攻める。
相手の攻撃が届かない位置。
投げには行かない。
ガードされて困る技は振らない。
当然、簡単にトンフーに距離をとられ、クラマを前に出す。
僕はシハラをちょっとだけ下げる。クラマが届かないギリギリ。
離れすぎると時間切れを狙われてしまう。
近すぎると攻められてしまう。
相手に、リスクが伴う一歩を踏み出させる位置。
ふいに、トンフーがちょいダッシュから一瞬しゃがむモーションが見えた。
考えるより先に、僕の左手が動く。
クラマの突進攻撃に合わせて、シハラがバックステップをする。
それに乗じてトンフーが飛び込んでくるが、着地した所にはクラマしかいない。
この人、ガード入力がクセになっている。
トンフーのようなタイプのキャラは、シハラとは別の理由で遠距離キャラが苦手である。
それは、遠くからクラマを行動不能にさせられるからというのもあるが、クラマを動かすとどうしてもガードが疎かになってしまい、攻撃をくらってしまうからである。
トッププレイヤーの対戦を見ても、攻撃をくらう時はくらってしまっている。
そこらへんは割り切っていかないといけないのだが、対戦相手はシハラ相手でもかなり慎重であった。
いや、慎重というよりも、相手ペースになることを恐れている。
たぶん、それが原因で一回戦と二回戦は僕にチャンスがやってきたのだ。
もしかしたら、相手は大会向けのキャラを変更して間もないのかもしれない。
もしくは、僕と同じ大会初心者。
こんなものは単なる僕の推測に過ぎないが、勝ちへのイメージを上げるのには十分だった。
負けそうなのは変わらない。でも、実力差はそこまでないはずだ。
相手の飛び込みを躱した僕は、再び攻めに転じる。
丁寧に、相手にプレッシャーを与えていく。
一転して攻める機会を失ったトンフー。
相手の体力は残りわずかだと言うのに、体力を減らすどころかまともに攻撃もできていない。
それがじわじわと相手のプレッシャーとなっていく。
逃げようとしたところに下段攻撃が当たる。
投げられまいと暴れたところに牽制攻撃が刺さる。
ちょっとずつ、目立ったコンボは一つもないが、少しずつトンフーの体力が無くなっていく。
しかし、ここでトンフーのゲージが50%を超える。
体力が2割を切っているキャラを倒すには十分な量だ。
トンフーは、ゲージ消費技の多段ヒット攻撃でシハラをロックする。
そしてさらに、残ったゲージを使ってクラマに連続攻撃を指示する。
この連携も凶悪。完全二択ではないが、三連続でガードを揺さぶれるので実質生存率は1/8。
シハラもゲージが50%あるので、1回目の攻撃を凌げればガーキャンで比較的安全に逃げることができる。
けれど僕は、ゲージ温存を選択した。
一回目の攻撃は下段。
ファジーガードするにしても下段出発なのでここはなんなくガード。
二回目の攻撃は中段。
たぶん投げではぎりぎり倒し切れない。
そう考えた僕は中段にのみ注意していた。そのおかげか、いち早く反応してガードすることに成功。
三回目の攻撃も中段。
この攻撃もガード。シハラはトンフーの連続攻撃を耐え凌ぐ。
これは完全にただの勘だった。強いて言うなら、自分だったらどうするかで考えた結果だった。
再び、ゲージもクラマも失ったトンフー。
だが今回は下がらない。この流れでそのまま押し切りたい。
そうだろうと思っていた。
僕は、1テンポ遅らせて超必殺技を放つ。
それは見事にカウンターヒットとなり、トンフーに大ダメージを与える。
気がつけば、トンフーの体力も残りわずか。
シハラの起き攻め。
一発でもくらったら終わってしまう大ぶりの連打。
ガードを固めるしかないトンフーに中段が入り、もう一度起き攻め。
逃げるようにジャンプした相手を空中で投げる。
そして、弱攻撃連打の追い討ち攻撃。
このまま…終わってくれ。
いけー!
「KO!!」
決着が着いたボイスが入り、BGMが止まり、シハラの動きが止まる。
トンフーは、起き上がってこない。
なんとシハラが、4本目も落とすと覚悟していたシハラが勝った。
僕が…僕が勝ったんだ。
心臓が強く打っていること以外は、すごく自然な状態だった。
公式大会初出場で初勝利。
僕なんかがやってしまっていいのかわからないくらいの偉業。
それでも僕は多少の疲れを感じつつも、不思議と冷静だった。
司会者に、勝者が僕であることを告げてもらうと、対戦相手と握手を交わして、僕はステージを降りる。
扉を抜けると、驚くほど静かだった。
僕は勝った。僕は勝ったんだ。勝てたんだ。
何度も何度も頭でそう叫ぶ。
劇的な内容だったわけじゃない。ドラマチックな逆転劇でもない。
どこにでも転がっている。プロ未満の平凡な一勝。
でも、この一勝は絶対に一生の思い出になる。
僕だって、やればできる。
体中にエネルギーが充満しているような気分だ。
今僕は満たされている。
もっといける。もっとやれる。
これが僕の…いや、僕の実力は、まだまだこんなものじゃない。
落ち着いてた心が今頃になって騒ぎ出す。
新しい世界への扉が開いたような、ワクワクした気分だった。
第22話 -完-




