最終話:To be continued 01
ライジングから時は流れ、3月中旬。
学校で卒業式が行われ、僕ら在校生は卒業生をお祝いした。
卒業式が終わると、格ゲー部の先輩達にお祝いを言うため部室に部員全員が集まった。
格ゲーで対戦したり、他のゲームで遊んだり、談笑していたり、もう学校で会うことがなくなる先輩達との最後の時間を過ごす。
僕は、最後に一本くらい勝ちたいという人達と連戦していた。
花を持たせたい気持ちがあるが、当然手を抜く様なことはしない。
せめてものハンデは、キャラをランダムで決めていることくらい。
連勝している僕だけでなく、一回も勝てない先輩達も、それをみている皆も楽しそうにしている。
改めて、ゲームって最高の発明だと思った。
「現内くん、ちょっとジュース買いに行こうぜ。少し休んだ方がいいんじゃないか?」
屋良さんにそう言われて、僕は一階の自販機までついていった。
イケメンで、さわやかで、社交性があって、でもどこかズレているところがある屋良さん。
この人気者の模範みたいな人が、僕の人生に一つ転機をくれた。
素直に憧れられる人が近くにいると、自然と影響を受ける。あの人はあんな風にやっていたなと思うと、自分もそうしてみたいと考える。
無意識にそうしていたら、いつの間にかちょっとだけましな自分になっていた気がする。
屋良さんは何もしていないと言いそうだけど、僕は本当にこの人にお世話になったと思っている。
卒業してしまうということもあり、ちょっと歩けば誰かに声をかけられている。
そんな屋良さんと、もう会える機会が限られると思うと寂しかった。
「あはは、そんな特別扱いするなよ」
つい感傷深くなってしまい、受け答えがいつもと違う僕を屋良さんは笑った。
「はは、すみません」
「ほんと、現内くんはなんか違うよなー」
屋良さんは自販機からコーヒーを取り出すと、僕に渡した。
「はい、おごり」
「えっ?」
「だいたいこれを飲んでいたろ?いいからいいから」
「ありがとうございます」
屋良さんは僕にくれたコーヒーと同じものを選んだ。
そして、部室とは違う方へ歩き始める。
「ちょいちょい」
僕は誘われるまま屋良さんについていく。
比較的人気の少ない所に来ると、屋良さんはコーヒーを開けて一口飲んだ。
「いやー、さっきはあぁ言ったけどさ、俺も現内くんと会えなくなるのはさびしいよ」
全然そんな感じではなかったが、こうして二人で話そうとしてくれているので、きっと本心なのだろう。
照れくさいが、気に入ってもらえているというのはうれしい。
「そうですね」
僕もコーヒーに口をつける。
「物言いはクールだね」
「しんみりしたくはないですから」
「やせ我慢ってこと?」
「たぶん」
二人で笑った。
「現内くんって変わったよね。いや、今の方が本当だったのかな?」
「そうですか?」
「うん、出会った時はすごいおどおどしていたけど、今はどもることもほとんど無いし、それにー…」
「それに?」
「なんて言うのかな、格ゲーに没頭しなくなった?あれ?今の方が真剣に取り組んでいるんだから、それだと表現がおかしいな」
屋良さんは首をかしげた。
「いえ、だぶんそれで合っています」
僕はゲームが好きで、特に格ゲーがお気に入りだった。
いつしか自分にはそれしかなくなり、自分の存在を肯定するためにすがりつく物になっていた。
でも、この世界に来て、格ゲーが純粋に楽しめるモノになった。
そして今は、自分がなりたい者になるための大切な要素になっている。
格ゲーが僕の生きる理由になっているのは変わらない。
けれどこの一年間で、生きる理由がそれだけじゃなくなった。
だから、屋良さんの言っている事は合っている。
「そう?まぁ現内くん自身が言うならそうなんでしょう」
屋良さんはまた笑った。
「変わったと言えば部活もそうだよな。現内くんが来てからかなり強くなったよね」
「そうですか?」
「ぷっ、またその反応かよ」
「しょうがないじゃないですか」
「はは、それもそうか。
冬の大会で決勝戦までいけたのは我が部…格ゲー部では初なんだ。
大会に出場したメンバーも、初めから突出して強かったわけじゃない。
ということは、単純に部全体のレベルが上がったってこと。
それに、引退してブランクがあるとはいえ、今日は現内くん以外にもほとんど勝てなかった」
「そういわれると…そうですね。部活の制限を除けば、僕も手加減なんてしていないですし」
「それだけ皆、ちゃんと練習しているってことだね。
でも楽しい雰囲気はそのまま。むしろ、今の方がいきいきしているかもしれない。
やっぱり僕が思った通り、うまいとか強いとかって楽しいんだよ。
だから練習にも身が入るってもんだ」
「なんか、先輩ってよりは指導者ですね」
「あれ、言わなかったっけ?俺、学校の先生目指しているんだぞ」
「えっ!?そうだったんですか」
初耳だったので驚いたが、屋良さんが教壇に立ち、生徒と笑いながら授業している光景が目に浮かんだ。
屋良さんが先生なら、僕みたいな奴を一人でも多く救えるかもしれない。
「似合わない?」
「いいえ、むしろ天職だと思います」
「やっぱり?あはは」
ちびちび飲んでいたコーヒーがなくなっていた。
屋良のも空になっていたようで、そろそろ戻るか?という雰囲気になる。
「部室に戻る前に、実は現内くんにプレゼントがある」
屋良さんはそう言って、ズボンの後ろポケットに手を入れた。




