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障害・決着

 クラウディアの手刀を左手で防ぎ、右から迫る銃器には同じく銃器で対応する。続く足刀を躱し、後退の構えを取ると容赦なく発砲。

「っと」

 タイミングを合わせ、うまく身を翻してその弾丸を避ける。追撃はなく、そのまま彼女と距離を取り、息をつく。

 一撃一撃が女性のものとは思えないほど重く感じる。

できるなら受けるより躱したいのだが……それが難しいのは経験の差か。

「貴方もどこかでこの型を学んだことがおありで?そうでないなら貴方がここまで生きていることが甚だ疑問なのですが」

「まさか。見よう見まねで戦ってるだけだよ。さっきの霧さんとアンタの戦い、十分目に焼き付けたしさ」

「そんなこと、一般人にできるわけが……」

「ここに至ってまだそんなこと言ってんのか。ああ、俺はもう一般人じゃない。閉じたって見えるし塞いだって聞こえるし嗅がなくたって香るし入れなくたって解るし触れなくたって感じるしおまけに――」

はっと我に返る。クラウディアの方も俺の今の言葉を理解しかねるといった様子でいる。

――つまり、俺は感覚神経系に異常があるらしい。単に目がいいとか、耳がよく聞こえるとかそんな話ではなく、普通の人が五感に感じるよりもずっと小さな刺激で俺の目、耳、鼻、舌、皮膚はその信号を脳へ伝える。……といっても、鼻と舌の精度は未確認だが。

「――まあネタ晴らしが済んだところで仕切り直しとしようか。お姉さん、残弾は3、4発くらいじゃない?」

「……ええ、今装填されているのはあと4発で打ち止めです。一応予備の弾倉はありますが。そちらはまだ全弾残ってましたね。貴方には引き金が重すぎましたか」

「ああ、こんなもの持つこと自体初めてだからな。銃も鈍器にしかならないぜ。……最後に質問。お姉さんの銃は自前?」

 クラウディアはなんら意味のない俺の問いかけに眉をしかめつつも、頷いてみせた。

「少し古いものですが、ある人からいただいたものです。そこらの量産品とは並べてみないでほしいですね。これが何か?」

「……いや別に。ただ――かっこいいなって思ったからさ」

 言い切ると同時に俺はクラウディアの方へ駆け出した。銃を持つ相手に対してはただの自殺行為にしか見えないだろう。

 クラウディアは躊躇なく俺に狙いを定め、引き金を引いた。

 1発目。右肩をめがけて迫る弾丸を、俺は走ったまま体勢を左にずらし回避に成功する。いや、成功させるといった方が正しいか。動体視力も多少は強化されているが体の方がまだついてこれてない。

 続けて、2発目。俺が弾を避ける動作を見て次は左足を狙ってきた。先の回避行動で体勢は左に偏ったまま。走ったままの回避は不可と判断した俺は半ば転がるように横へ飛ぶ。しかし着地と同時に3発目が左肩を掠めた。

「っつ!」

 痛みに思わず顔をしかめ――4発目の引き金に手がかかる音が聞こえた。

 回避はもう間に合わない。

 俺はクラウディアの方を見ないまま自分の銃の引き金を引いた。

 ちょうど俺とクラウディアの間の宙で金属音が響き、鉛の弾が2つ、屋上の床を転がる。

 4発すべてを凌いだ俺は肩を押さえながら立ち上がり、まだ弾の残る銃をクラウディアの方へ向ける。

「……どうよ。俺にも引き金が引けたぜ」

「弾を弾で撃ち落とすとは……そんな芸当、久しぶりに見ましたよ」

「さっき言った、見えなくても見えるってやつだ。あともう1つあるが五感じゃねえし……とりあえずその手の銃を捨――」

 足に激痛が走った。とても立ってはいられず、俺はその場に崩れ落ちる。

 素直に残弾数を教えるなんておかしいと思っていたが……やはりそうくるか。

「あまり、狡い大人の言うことを信じない方がいいですよ。弾はもう1発、残してました」

 そう言って銃をリロードし、俺の方へ近づいてくる。足を撃たれた俺は動くこともできず、ただ待つばかりだった。

 くっそ、さっき論ちゃんに殴られて無理矢理覚ました感覚がもう切れていたとは。普段使わないものは持続性なしってことかよ。

「ご安心を。命までは取りません。――四肢は潰させてもらいますが。あ、その前に」

 彼女は俺から銃を取り上げた。無駄な抵抗はさせませんってか。ああ、ようやく自分の障害を把握できたのにな。

「あの手の込んだ箱からどんな銃を取り出したかと思えばただの量産品じゃ――って、え?」

 量産品らしい銃を見て驚くクラウディア。まあそうだろう。


 俺が彼女の仲間の持っていた銃を使っていたのだから。


「はは、やっと気づいた?さっき危ない橋を渡ってでも確認してあげたのにさ。オリジナルを使うお姉さんにはパッと見ただけじゃ分からないよね。さあ、あのキレイな箱の中にあった本物は今どこにあるでしょうか」

 待っていたのはこの瞬間。痛い思いをしてまでつくったこのタイミングは逃せない!

「よっし、蹴り上げろ!」


「了!」

 俺の叫び声に呼応して、漣ちゃんが下から廃病院の屋上へ届くようにある物を蹴り上げる。

 宙を舞うそれは霧さんの使っていた護身用の小銃。

「成程、確かにまだ戦えるのは霧だけね。でも」

 クラウディアはいともたやすく落下物体を撃ち、再び下へ落とす。

「そんなに簡単に事をうまく運ばすとでも?」

 ガン=カタ戦じゃあ彼女の方が一枚上手であるはずなのに、なぜそれすら避けようとするのかね。

「いいのかお姉さん。霧さんの本領は狙撃なんだろ?じゃあ狙撃銃を先に始末しないとな」

 俺の言葉にクラウディアはハッとして振り向き、さっき俺が使った後置いたはずの狙撃銃の場所を確認する――がもうそこには何もない。

「……」

 クラウディアはすぐに俺の傍を離れ、狙撃から身を隠す場所を探そうとする。しかしここは廃病院の屋上のほぼ中心。倉庫やら貯水タンクは角に固まって位置している。そこから狙えばクラウディアは絶好の的というわけだ。

「……見つけたわ」

 2つ並んだ貯水タンクの間の隙間。そこから覗く狙撃銃の砲身を発見し、クラウディアは特攻を仕掛けた。特攻、といってもただまっすぐ突っ走るわけじゃない。タンクが邪魔をして角度的に狙撃銃で狙いをつけるのが難しいラインを走っている。

 おそらく、それは霧さんの狙撃能力の高さをよく知るから故の行動なんだろうが……。

「それは俺が論ちゃんに仕掛けさせたデコイだよ。その向こうに霧さんはいない」

 もう彼女に声が届く位置ではないが、それでも俺はそのまま続ける。

「下剋上って、いい感じだよね。下のものが上のものに勝つ――弱肉強食の世界ではなかなか見られたもんじゃない。だからさ、弟子が師匠に勝つっていう話、聞いただけで熱くなるんだ」

 クラウディアが狙撃銃は罠であると気付く前に、倉庫の陰から飛び出す霧さん。その手には論ちゃんに持たせたスタンガン。ただその形状は俺が知るゼロ距離で電気ショックを与えるものではなく、銃の形そのまま。つまり、電気ショックを放つことができるらしい。空気中で放電させるとなると高い電圧が必要になる。さすがのクラウディアも電撃には耐えられまい。

 霧の銃から出た光線がクラウディアに当たり、彼女の体が傾く――その前に俺の視界が大きく揺れた。

 同時に襲ってきた激しい頭痛に耐え切れず、頭を抱えて蹲った。

 いきなり能力(しょうがい)を酷使したせいだろう。俺の視界は元に戻り始め、聴覚も元に戻――


 気が遠のく。まるでコンピュータが強制終了されるみたいに。

 ダメだ、今ここで気を失うわけにはいかないんだ。

 異常聴覚を閉ざす寸前に、確かに聞こえた。こちらへ向かってくる車両の音が、いくつも。

 警告音を発し続ける俺の意思とは裏腹に、視界は黒くなり、やがて意識もそのまま闇に沈んだ。


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