表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十二連世界の『最強』  作者: Red_stone
4章 滅び行く世界
41/57

第38話 『アポカリプス・デリート』

生贄たちを引き連れて『アポカリス・デライト』の前まで来た。

コレはただ増えるだけだから、見ている分には危険はない。

触れたら消されるがな。


「突入する。マレフィとリリスは後ろで待機、何かあれば魔法を叩き込め。有志諸君は私について来い、呪術をかけておく」


【えるあえいです・れたはえぴしおん】



突入。

呪術により現実の抵抗を無効化する。

心得もない人間に呪術なんてものをかけたら半日足らずで精神が崩壊するが、それほど時間は必要ない。


征く。

全てが紅く染まった中を踏破する。

アポカリス・デライトによる防衛反応はない。

そもそも中に入った異物の除去という発想がない。

発想する発想すらない。

ルーチンワークを繰り返す機械でしかないのだ。



「始める」


ただそれだけを宣言し、詠唱に移る。

生贄たちはそれぞれ思い思いのことをしている。


一人は虚空を睨み付け

一人は地面を踏みにじり

一人は目を閉じ

一人は祈りを捧げる



【えいりあいん、てりすたらめんと、らびゅりぎゅれん、いやとはうすと、れいんすらいと、..........


詠唱と同時に黒い染みが生贄たちに浮かぶ。

体に浮かび上がったわけでない。

それがどこかを現す言葉はない。

あってはならない。

だが、間違いを知った上であえて言うなら空間の上に浮かび上がったと言えなくもない。


染みは増大し、他の染みと交わっていく。

染みは増大し、歪みとなり染みを喰らう。

歪みは増大し、奈落となり歪みを喰らう。

奈落は増大し、全てを”どこか”へと引き釣りこんでいく。

冥界の奥深くにある”どこか”。


そこには全てがあるが、何もない。

人の身では想像することすらできない禁忌。

その禁断の概念へ全てが引き釣り込まれていく。


恥ずかしながら、その地獄から助かるのは私だけ。

そこは虚数の大海、空間が七次元的にねじれ、擬似的に無限の荒野となる。

だが、導くものはある。

マレフィだ。

マレフィとは以前魂を繋げた。

その絆が私を導いてくれる。



さあ、奈落は”果て無き漆黒”となりて全てを飲み込む。

このままでは大地すら堕ちるが、問題はない。

生贄によって漆黒に指向性を与える。

そのために生贄は用意した。

冥界へ堕ちるのはアポカリス・デライトと私たちだけ。



生贄たちが先に冥界へと旅立っていく。

その瞬間、漆黒は急速に増大していく。

全ては”果て無き漆黒”へ。

これで、尾の世界もまた平穏を取り戻す。


私は一刻も早くマレフィの元へ帰らないとな――



何だ?


胸騒ぎがする。


まるで、シシュフォスを前にしたときのような。


何が起きているのだ?


ち、感覚器官が使えなくなってきている。

私もかなりの部分が冥界へと引き釣り込まれているようだ。

”狭間”はまずい。

冥界か現世か、はっきりしないことには感覚が狂う。

一部冥界で一部が現世など、戦えるような状態ではないぞ!?



かろうじて見える左眼に人影が写った。

人影だと!?

すでに生贄たちは冥界に堕ちたはず。

なら、アレはなんだ?

冥界に堕ちかけている中で、見間違いが起こるはずがない。

見逃しならともかく、それは絶対にありえん。

目を凝らしても、視界は暗くなっていくばかり。


まずい。

まずい。

まずすぎる!

私のこの状況では、手を動かすことすらできはしない。

完全に想定外だ。

まさか、まさか、”果て無き漆黒”の中で敵と相対するなんてことが――!


「こ...ん...に...ちは?」


ぎこちなくかけられた声。

まさか、アポカリス・デライト!?

知性を、いや――魂を獲得したというのか。


冥界で魂が育まれる。

それはありえないことではない。

もっとも現世と違って生まれ出でるものが健全であるはずはないが。

しかし、冥界で生まれたというのなら、それは【アポカリプス】の落とし子ということと同意。

ここで倒さなくてはならない。

なぜなら、【アポカリプス】は生けとし生けるもの全ての天敵なのだから。



いや、しかし!

この状況で何をすればよいというのだ!?

手も足も出ぬこの状況で――



「こんにちは?」


話しかける?

私も舐められたものだが、時間稼ぎにはなるか。

相容れないものと話しても、分かり合えることはないが。


「君は生まれたばかり、いや、進化したばかりか。会話することで知識を得よう、と。いや、何もかもが初めてでは、何もかも面白いことだろうな」

「うん、おもしろいよ。あなたはだあれ?」


ち、こんな馬鹿と会話することになろうとは。

こいつが自分の名前を自覚しないうちにとっとと話をそらしてしまおう。


「私はルシフェレスだ。お前は何をするために生まれた? お前は何をしたい?」

「うん、私の名前は『アポカリプス・デリート』だよ」


ち、話はそらせなかった。

というか無視された。

まともな会話を望んだこと自体が間違いだったか。


「ち、言いたいことがあるなら勝手に言ってろ」


こいつは名前を自覚した。

ごまかすことはもはや不可能。

取れる手段は1つ――!

精神を集中する。

”狭間”から抜け出たら、その瞬間に叩き込む。


「あなたは黒い物が好き? 私は嫌い、だって黒いんだもの」


貴様の好みなど知るか。

そうなんだ、とだけ返しておく。

癇癪を起こされても不快だ。


「あなたは温かいものが好き? 私は嫌い、だって気持ちが悪いんだもの」


「あなたは....


「あなたは...


......


全く呆れかえる。

この世全てのものが嫌いなのではないか。

それが【アポカリプス】だ。


茶番劇ももう終わり。


『神より堕ちし聖刻の――


「ていっ!」


爆音が響く。

爆発物ではない。

肉が殴打される、すさまじい音が体の内側から聞こえた。


殴られた。

肉どころか内臓までひしゃげる一撃。


「ごほっ...がっ」


呻き声しか出せない。

内臓まで破壊されてしまったら、動けるようになるまで3秒は必要。

追撃を防ぐ手段がない。


せめて力を抜いて、わずかでもダメージを減らそうとする。

が、攻撃は来ない。

疑問に思う間に首を動かせるようになった。


奴は私を不思議そうに見ている。

手加減、というのも違うか。


ときに、人は己とあまりに行動原理の違うものを狂人と呼ぶ。

そして、奴は人型を模している。

だとするなら、まさにアポカリプス・デリートこそは狂人と呼ぶに相応しい。

行動の予測が全くつかない。

私に都合のいいことも、悪いことも、どうでもいいことも訳のわからぬ理由で実行するだろう。

厄介な!


「散々あったチャンスを無駄にしたな、狂人。後悔などという感情は貴様にあるか知らんが、ここで死ね!」


『神より堕ちし聖刻の杭』


頭に当てる。

避ける様子すらないな。

この狂人が。

頭の再生には時間がかかるぞ。



な!

受け止めただと!?

頭で!!


この状況は――まずい。


『全領域抹消―オールデリート―』


ぐ、奴の攻撃により全てが消え去る。

水も大地も空気さえも。


だが――私は別!

『終焉』でかろうじて防御。

しかし、私の体の存在確率をわずかに消されて皮膚がキラキラと砕け始めた。

防御ではじり貧だ。

やはり、攻めるしかないな!


『終わる箱庭の加護』


動きを加速させる。

わずかな停止すら殺し尽くし、蹴りを拳を叩き込む。

相手の動きなど、止まって見える。


それでもなお迎撃は止めぬか。

狂人が何を考えているかは知らんが、そんな攻撃があたるものか。


チッ


かすった。

それだけなのに、衝撃が私を襲い吹き飛ばされた。


「なるほど。重い、ただそれだけのことか――」


からくりが分かれば簡単だ。

要するに、とてつもない質量を持っているのだ。

どう考えても私には100kgすらないが、アレは何百tもあるのだろう。

それだけの質量が詰められているならば、私の攻撃が効かないのも理解できる。

アポカリス・デライトからアポカリプス・デリートへ。

このときに地上を覆っていた全ての構成物質を人型大にまで圧縮した。

それなら、攻撃が効かなくともむしろ当然。


「しかし、それで私に勝てるとでも?」


次は全力で叩き込む。

アポカリプス・デリートの底は見えた。

もう、後先を考える必要はない。


『終焉する魔王の悲哀』


終焉の前には質量も体積も無意味!

が、体積の2割ほどが残る。

しぶとい。


とはいえ、生き残っても何をやるということもない。

ぐにゃぐにゃと捻って、伸びる。

相も変わらずよくわからない動きを。

死にそうになってまで、気色の悪い。

先程から完全に無視していたが、さすがに声は出せなくなったか。


む?


殺気を感じて、即座に飛びのく。

そこを超重量の腕が通り抜けていった。


回復、か。

早すぎる。


「なぜ、あなたは戦うのです?」


これは驚きだ。

一度殺されたことで知能が進化したか?


「世界を守るため以外に理由が必要か?」

「あなたは尾の世界の人間ではありません」


義理や人情というものがある。

まあ、役立ってもらおうという気持ちもないわけではないがな。


「確かに。だが私には責任がある。生贄の魂をここに沈めた責任が」

「責任? 失われたものへの追憶すらしない生者がそんなものを感じているとでも? 私にはとても信じられない」


この最悪な土地で永遠に苦しめられる彼らを思えば、これくらいのことは果たしておかなければ。

そして、追憶? 失われたもの? それはつまり、過去か。

...ふむ。


「...ああ、そうか。お前【アポカリプス】だな? まあいいさ、私には関係がない。けれど、お前の失言で分かった。『残骸』、それが貴様の能力だ。まさか【アポカリプス】が私と同じだったとはな」

「そのとおり、私こそ『残骸』。成り掛けの腐りかけではない。貴様のように脆弱な人間の意志を借りることなく存在する効果」


効果ね。これは能力でしかないというのに。

しかし、『残骸』は12の能力の中で最も規模の大きい能力。

それがゆえに覚醒した後では世界の中に入ることもできない。


「単に元の人格を取り込んだだけだろう? 能力を使うには人の意思が必要だ。もっとも、取り込んだと言えるほどには同一化しているようだが」

「そのとおりだ、人間よ。貴様と私では扱える効果の深度が違う。貴様の抵抗は無意味だ。問いに答えよ」


それで世界に拒絶されれば、意味がないだろうに。

確かに能力の浸食具合は圧倒的に私が低い。

けれど、端末を通して言われてもな。

本体がそこにいないのであれば、滑稽でしかない。


「『残骸』に必要な感情は失われたものへの追悼といったところかな? 今は追悼を忘れた人そのものを憎んでいるようだが。ああ、問いだったな。言葉というものは曖昧なものだ。誰もが納得する答えなど言語には出来ん。確かに追悼なんて忘れてしまったが、な」

「そうだ、貴様らは失われたものへの敬意が無さ過ぎる。そのような者が自分以外のことなど考慮すらするものか」


「しかし、責任は忘れていない。関係のないことを結びつけることはやめてもらいたいね。人を殺しても人助けはするし、人助けをしても人殺しはするさ。勝手に死んでいった者など私は知らない。だが、私の言に従って死んだ人間のことくらいは覚えている」

「嘘だ。貴様らに謙虚な心があるはずがない。消えていったものの恨みを最初に貴様が味わえ。次は尾の世界の人間。全ての生けとし生けるものを貴様らが忘れてきた過去にしてやろう」


「それは無理だ。残念だな、本体は能力と同化しているため現世には進入できない。やっと現世に行ける端末を手に入れたというわけか? しかし、ソレは私が此処で始末する」

「無理だ、効果への理解が及ばぬ貴様では」


『残骸』の端末を世界に混入させることは認められない。

ここに囚われた魂に誓って。


「それは、どうかな?」


私はニタリと笑う。

お前は冥界の果てに存在する元人間だが、私は奈落の果てを見てきた人間だ。


『すれとやはと、うぉるくはんと、えすかりてす...


「ま、待て! 貴様、それがどういうことか分かっているのか!? 永遠に魂を苛まれ続けるのだぞ!?」


理解不能といった様子で叫ぶ。

これは予想外だったか?

確かに、現世に存在する私が呪術など使えるはずがないものな――。

現世の法則に従えば、私はこの端末には勝てない。

なら、冥界の法則を使うまで。


貴様の手すら届かないところへ―

―もろともに堕ちてもらおうか!?


「何故! 尾の世界を救うためにそこまでする? 気でも振れたか!?」


応えることはできない。

今は延々と詠唱をしているのだから。


けれど、応えは既に言ってある。

責任があるのさ。

生贄の4人に対しての、私の責任が。

彼らにあそこまでやらせた以上、予想外の事態が起きましたでは格好がつかない。

何が起ころうと、この事態は私が終わらせる。

今この瞬間だけは、何があっても尾の世界を守ると誓った!


「馬鹿な、貴様ごときに。能力も何もわからぬ貴様に邪魔されようとは――」


驚愕に目を見開き、絶叫する。


「おのれえええええええェェェェェ!! 貴様!!! 『終焉』めぇぇぇぇぇぇ」


漆黒の風が全てを覆い尽くした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ