第34話 超巨大兵器AF
「マレフィ、銃というものを知っているか?」
「ああ、あの手のひらサイズの。非戦闘員でも雑魚戦闘員を殺せる武器と聞いたことがある。それがどうかしたのかの? そんなのあっても、使う機会がないと思うんじゃが」
雑魚戦闘員が100レベル未満というのなら、正解だ。
よほど良いところに当たらないと中々死んでくれないが。
これが100オーバーになってくると脳天を撃ち抜かなければ死なないし、私レベルだと脳天を撃ち抜かれても数秒で復活できる。
殴って弾き返せるしな。
そんなどう扱えばいいかわからない微妙な武器が銃だ。
「そう、当たりどころが良ければ農民でも騎士を殺せる。命中率なぞ、悲惨なものだがな。それもそのはず。なにせアレらは現文明が誕生する以前に作られた兵器だからだ。使うべき人間も使われる人間とは異なっているのだろう」
「ああ、それで数が少ないのか。そもそも廻の世界にあるものが大量に出回るわけがない。あそこには一攫千金を夢見る冒険者が赴く場所ではあるが、入ることすら一苦労じゃからな。あんなもん好事家の収集品にしかならぬと思っておったが、なるほど。そもそも現在の人間に対応しておらなんだという話か」
廻の世界には、いろいろな示唆があった。
以前の文明の中には魔力を使用しない文化があったようだ。
そこでは魔法の代わりに科学を使い、銃や爆発物を駆使して戦っていたと推測される。
その遺産というわけだ。
現在の世界にわずかに存在する銃は。
「もっとも、アレに搭載されているのはマレフィが知っているものの比ではないだろうがな」
「むしろアレがマレフィが知っているようなちっちゃな銃などを装備しておったら、拍子抜けも良いところじゃぞ」
確かに、アレにちっちゃな武器など似合わない。
アレが装備するのは手のひらサイズの武器ではなく、最低でも人間大の兵器。
そしておそらく。
「アレには880mmカノン砲が付いている。何機あるかは知らんがな。恐ろしいぞ」
「ルシフェがそこまで言うとは、の。帰らんか?」
それはありえない。
一度了承した以上、エルフとの約定は反故にしない。
話を持ってきたエルフを見ると、怖すぎて怖がり方がわからないようだ。
ポカンと口を半開きにして固まっている。
話を聞いていなくとも、一向に構わんが。
「帰らない。ついでに言うと、アレを怖がる必要がないという見方もある」
「は?」
多少うがった見方で、言葉遊びだが。
この会話も言葉遊びに過ぎない。
マレフィの反応を見て楽しんでるだけだから。
「アレの一撃は音速をはるかに超えている。私の反応速度すら超えるほどに。また、あの兵器なら数m離れた場所に着弾しても私が消し炭にされるには十分な威力を持っている。だから、怖がる前に死ねるさ」
「いや、たった今すっごく怖いんじゃが。とはいえ、そこまで恐れる必要はないんじゃろ。ルシフェはアレを撃墜するつもりなんじゃから」
どうやら私は絶対的に信頼されているようだ。
さっきまでプルプル震えていたのはふざけていただけのようだし。
けど、おかしいな?
「私の戦闘力ではアレに歯が立たない。それでも私は落ち着いている。何故呑気にしていられるのだと思う?」
「む? それはルシフェが強いからではないのか?」
厳密に言えば、全く違う。
私では射程範囲に入れば、その瞬間自覚する暇すらなく死ぬ。
それを恐れない理由は強いからではない。
ある意味正しくはあるが、少し違う。
恐怖よりも絶対的な感情、それは――
「絶望だ。絶望があるから、恐怖しない。そして、絶望こそがあらゆるものを終わらせる力となる」
「!? それは…『終焉』のことか?」
そうだ。
私には歯が立たなくとも、終焉の前では単なる砂の楼閣に過ぎない。
この世界が形作られる以前からある12の能力の内の1。
『ノア』より別たれた絶対の力の一欠片。
それを、少しは扱えるようになった。
「おかしなものだ。希望が絶望をかき消すと、物語では言う。けれど、希望は絶望を照らさなかった。いや、希望の光こそが絶望の闇を濃くするのだ」
「希望? それはマレフィのことか?」
希望、それはマレフィのこと。
絶望、それは私の弱さ。
私自身の力は矮小に過ぎる。
世界を守ると粋がっていたことが恥ずかしくなるほどに。
『終焉』は私の力ではない。
私こそが『終焉』の力の1断片なのだ。
「『終焉』は私の絶望を喰らうだけだ。私がわずかにその力を扱えるのは同化されかかっているからだ。主導権は私にない。確固とした意識が能力にはないというのが救いだがな」
「ルシフェ、それはお主がいなくなるということか?」
どうだろう?
言ったとおり、コレは私に同化しかかっている。
その先にどうなるのか、私は知らない。
そして、私の存在は終焉を前にしては小さすぎる。
「神様にでも祈ってみようか? この世界からいなくなりたくないって」
「イヤじゃ、置いてかないでくれ。マレフィの思いがせっかく通じたのに、そんなことって――」
終焉を支配することは不可能だ。
祈ることしかできない――そんな自分が嫌になる。
けど、ひとつ忘れてる。
泣いてすがるマレフィには忘れてることがある。
「置いてかないきはしない。 いなくなるときは一緒だ」
「あ…! そうじゃな。マレフィとルシフェはいつもいっしょ、じゃ」
涙が残る顔で、にこっと笑ってくれた。
あの時かけた呪いのせいで、終焉に私の魂が食い潰されたときは共にマレフィも息絶える。
絶対に置いて行きはしない。
「とはいえ、それも絶望だ。共にとはいえ、死ぬことには変わりない。死後、魂は根源と混じり合い自我をなくす。それが本当の意味での死。私たちが一緒に死んで――その先は存在しない」
「それは…。しかし、仕方のないことじゃ。全てはうつろいゆく。マレフィは一秒でも長くあなたのそばにいたい。それだけが願いじゃ」
一緒にいられる時間はひどく限られていて、いつ何かのはずみで奪われないとも限らない。
『通りすがり』と会ってしまったように。
これこそが光の“影”。
マレフィがいれば幸せを感じることができる。
一方で絶望せずにはいられない。
「絶望は絶望だ。変わることはない。だから、少しでも自分にできることをしようか? 共に」
「うん。1秒でも長くあなたのそばに寄り添うために」
マレフィに笑いかける。
きっと影があった。
マレフィに笑いかけられる。
わずかな陰りが見えた。
「「さて、まずはあのデカ物を始末しようか」」
「あの、具体的にはどうするのですか?」
さっきまで蚊帳の外のエルフが聞いてきた。
そういえば、コイツの名前を私は知らない。
まあ、いいか。
強くなさそうだし、偉くもなさそうだし。
なにより、マレフィとの見つめ合いを邪魔した無粋者の名前など聞いてやるものか。
「大丈夫だ。問題ない」
「それにしたって、どう移動するつもりじゃ? マレフィたちでも1ヶ月とか掛かりそうな距離じゃ」
エルフに冷たく答えてやると、マレフィが聞いてきた。
確かに、この世界ではマレフィの転移呪文は無理だし、リリスの長距離魔法でも届く訳がない。
なにせ数千kmの距離だ。
「言っただろう? 光が闇を濃く照らし出したと。今の私ならこんなこともできる」
『霊魂の扉』
わずかな黒点が出来る。
それがくるくると回り出して――世界を砕いてゆく。
狂クルくる狂と――回り、周り、廻り、回る。
たっぷりと数分の時間をかけて出来上がったのは、人間大の漆黒に塗られた空間の落とし穴。
「これは?」
「行くぞ」
マレフィのもっともな疑問に答えず、2人を抱えて穴に飛び込む。
もちろん、後の一人はリリスだ。
「ひゃあああああああああああああああああ!?」
「............!?」
出たのは、空中。
「くく、中々に速い。自由落下とはこれほどのものか、おもしろい」
この転移は見える場所にしか出れない。
ゆえに安全な転移を行おうと思えば、空中に出るしかない。
空中に出たら、後は落ちるしかない。
「落ち着け。この程度の高さなら落ちても死にはしない」
「それもそうじゃの」
けろりと混乱から立ち直る。
いや、ふざけていただけだな。
相変わらずふざけるのが好きだ。
そこが可愛らしいところでもあるけれど。
「さて、落ちるまで数秒といったところか。距離をとりすぎた感があるが、『AF-アームド・フォートレス-』上の着地は成功かな」
「で、爆炎しか見えぬのじゃが何故か聞いても?」
「ミサイルというやつだな。『終わる世界の揺り籠』で、視覚情報以外の外的要因以外は終わらせているから衝撃も熱もここまでは来ない」
「ほう。『終焉』か、とんでもない能力もあったものじゃ。...と」
着地する。
そのまま蹴り砕いて中に侵入する。
コントロールパネルか動力部でも見つけれられれば簡単なのだが。
「中心へ向かっていくぞ。この手の兵器は中心に大事な物があると相場が決まっている」
「うむ、了解じゃ。で、警備はどうなっておるのじゃ? この通路には仕掛けはありそうにないの」
確かに仕掛けも警備兵も見えない。
この分だと侵入者を阻む機構はないな。
巨大兵器による銃撃戦しか想定していないのだろう。
「ないんだろうさ。コレが作られた時代には圧倒的戦闘力を持つ個人が居なかったのだろうから、妥当ではある。そして、私たちも楽だ」
「警備が居ないと楽なのは同意するが、暇じゃ」
「なら、この巨大兵器についての考察でもする?」
「それは勘弁じゃ。あ、リリスの秘術で吹き飛ばすわけにはいかぬのか?」
「それは止めておいたほうが良い。私たちまで吹き飛ぶ危険性がある。『終わる世界の揺り籠』はそこまで使い勝手の良いものではないしな」
「そうかの。ま、気長にやろうかの」
「そうだな。急いでも仕方ない」
「で、中心部にはこっちであっているのかの?」
「さあ。私は適当に歩いているだけだから」
「適当か。さすがにルシフェでも道順までは分からんか」
「分からないよ」
「はぁ。ま、マレフィとしてはお主といっしょにいられるなら構わんがの」
「やっとコントロールパネルについたか」
「1日中歩いてやっと、か。どんだけ広いんじゃ」
山よりでかいんだ、当然だろう。
迷ったりもしたし。
「さて、入力機器はあるが人はいないな。自動操縦タイプには見えなかったが」
「しかしここまで人っ子一人居なかったぞ。これは、俗に言う幽霊船というものではないかの?」
そういう見方もある。
見る限り、自動操縦では最低限の警戒がやっとのようだ。
いきなり人員が消えて、機械は残った指示に従い続けているだけか。
「動くかどうか。パスワードが必要ならそれで終わりだが」
「ま、なんにしてもやって見なければ始まらん」
コンソールに手を伸ばす。
変なことをされても困るので、マレフィとリリスには触らせない。
「緊急モードか。一定時間以上操作を受けないまま起動を続けると、そこにいた人間に全権限を預けるモード。これで私はコイツを自由に動かせるというわけだ。至れり尽くせりもあったものだ」
「ほう。それはすごいではないか。で、横に書いてあるのは何じゃ?」
指示を飛ばしていく。
侵入者が機械を動かせるシステムがあるということは戦時中に建造された兵器ではないということか?
関係ないか、私が動かせればそれに越したことはない。
で、横に書いてあるものか――
「『AF―クシャスラ―』。それがこの兵器の名前だ。領土の全てを撃砕し燃やし尽くして、理想の王国建設のための地均しを課せられた天使の名だ」
「ほう。で、どうやって壊すんじゃ?」
「壊す必要はない。というより、壊すための時間が惜しい。何ヶ月かかるのかわからん。全機能を停止させて、入力装置を砕く」
「再利用される心配は?」
「砲弾ならできるが、手間がかかりすぎる。私なら絶対にやらん」
「なら、とっととやってくれ」
「今やっているところだ。しばし待て」
「はいはいっと」
「終わった」
「そうかの。なら」
『焼結・エターナルバーストサラマンダー』
「やるなら、前もって言って欲しかったな」
「なに、ルシフェならかわせるじゃろ」
「それもそうだな。これで、ひとまずは解決。だがコレを破壊できなかった以上は、エルフたちに説明しなければならないか。面倒だな」
「そうは言っても、一度引き受けた以上説明せんわけにはいかんじゃろ。傍目から見て一瞬止まっただけか、永遠に止まったままかはわからんのじゃから。このままオサラバはちと良心がとがめる」
「エルフやドワーフたちの技術は惜しい。不義理を働くわけにはいかないか」
「ぶちぶち言うよりもまず行動じゃろ? さ、行こう」
「そうは言っても、『霊魂の扉』が完成するまでは後十数秒ほどかかる。慣れない魔法だからな」
「ふむ、準備はしておったか。ちょいとグダグダになってしもうたが、エルフたちの前ではシャキっといこうかの」
AFの元ネタは知っている人は知っています。




