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十二連世界の『最強』  作者: Red_stone
3章 前哨戦
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第11話 矛盾を体現するもの

「到着いたしました。此処が姫様の部屋です」


「そうか。下がっていいぞ」


姫様が仲間を裏切ったことはほとんど誰にも知られていない。

だから、この『水鏡』がここにいるのをプルートゥは嫌がるだろう。

私としてもうるさい外野がいると殺したくなるので、いないに越したことはない。


「それは――


「下がってくれませんか。そちらの方は私の仲間なのです。あなたが心配する気持ちはわかりますが、どうか私の顔を立ててください」

「...姫様。わかりました。しかしこちらのお嬢様はどうなりますか?」

「......」


「かまいません。リリスも仲間の一人なのですから」

「は。わかりました、失礼させていただきます」


やれやれ、リリスも返事くらいしてやればいいものを。

羽虫とてこれ見よがしに無視するほどつまらぬものではないと思うのだが、リリスは興味を持っていないようだ。


とにかく、これで邪魔者はいなくなった。

不服そうだったが、な。


「久しぶりだな、プルートゥ。魔王討伐のとき以来かな、会うのは。邪魔者はいなくなったから猫をかぶる必要はないぞ?」

「は、ならそうさせてもらうぜ。こっちも丁寧な言葉使いなんて虫唾が走るんだ。で、何のようだよ?アンタがわざわざ私の顔なんて見に来るわけねぇよな?」


いきなり砕けた口調になったか。

相変わらず裏表の落差が激しいやつだ。

しかし、こんなやつでも貸し借りに敏感なやつは信用できる。


「まず一つばかり警告をしてやろうか。これからこの宇宙は荒れる。嵐の中で重要なのは、上手く風をつかむことだ」

「ああ?どういうことだ?戦争でも起こるってのか」


ずいぶんと即物的なやつだ。

まあ仕方がない。

凡人でも理解できる様にしゃべってやるか。


「これから、この宇宙に異物が入ってくる。その異物達はこの宇宙に居場所を確保しようとするだろう。それが全ての生命の存在理由だからな、例外はない。しかし問題は、そいつらは元々この宇宙のものではないと言うことだ」

「は、お前が言いたいのは、おかしな化け物が発生するってことか?で、そいつらが暴れるとバッタバッタと人死にが出る、と。トンデモ話じゃねぇかよ」


大体はその解釈で問題はないな。

この態度だと、異物達の戦闘能力を甘く見ていそうだが、被害が出るのはこの国だ。

私には関係が無いので、放っておく。


「その通りだよ、プルートゥ。ただ君は私の言葉を忘れているようだね?」

「あん?要はその異物をぶっ殺しゃいい話じゃねぇか。」


短絡的な人間だな。

だから国土の2割を漆黒の領域に侵される羽目になる。

私は詳しい内情なんて知らないし、知る気も無いが。

もう少し考えることはできないのか?


「化け物は仲間にできるのだよ?人間でも化け物の味方のふりはできるさ。化け物と人間が永劫に分かり合うことができなくとも」

「ち、仲間にか。そいつは難しい話だ。貴族共がうるさくなるな。そのくせ、自分は何かしら隠してやがる。うざいったら、ねぇぜ。”あれ”から立ち直れたわけでもねぇのによ」


ふん。

愚かなことだ。

統治機構自体が腐敗していると、こんなものだ。

危機に対してまともな対応策が取れやしない。


「貴族、ね。そんな邪魔にしかならないものは、全員殺して才あるもので組織を新生させれば良いものを。愚鈍な者たちを上に立たせ続けるその思考が私には到底理解できない」

「てめえと違って、いろいろしがらみがあるんだよ。『最強』にゃわかんねぇ話かも知れんがな」


言われるまでもなく、そういうしがらみが無い大罪の国は異常だと気づいているよ。

しかし、だからこそ異常な私が共存できる。

普通と言う堕落には、いかなる価値も存在しないという私の価値観はそれこそ異常だ。


しがらみがなければ、情や親愛は希薄なものとなる。

誰も”誰か”を守ろうとしない、守ってくれない世界。

誰も頼ることのできない世界。


普通は普通であるからこそ、普通である。

そして堕落は普通であるからこそ望まれる。

その方が楽だからな。


ゆえに、私は普通ではない。

異常と言う名の特別な人間だ。


「人間と言うものは、大変なものだな」

「は。そりゃ、そうだろうよ。その日暮らしの不死者とは違うんだ」




昔の仲間、プルートゥに私は少し警告してやった。

だから、今度はプルートゥが私の頼みを聞く番だ。

貸しもあるしな。


「忠告はこれで終わりだ。今度は私の頼みを聞いてもらおう」

「け、やっぱり厄介ごとだったか。で、アンタのありがたいんだか、ありがたくないのかよくわからない忠告は受け取ったがよ。あんたの頼みを聞いて私にメリットはあんのかよ?」


頼みごとを聞くのだから、対価をよこせと言うのは当然だ。

しかし、それをこいつが言うか?


「とぼけるなよ。私達をまとめて生贄にして冥界の扉を開いたのは誰だ?忘れたとは言わせない」


あれは生贄と言うよりも鍵と言ったほうが正確だが、ここは書の記録に従おうか。

攻めて来た大軍の光人に対抗するため、冥界の扉を開いてその軍勢を冥界に叩き落した。

冥界の扉を開いたのはいいものの、閉じることができなかったのが漆黒の領域。

漆黒の領域の支配下では、現世でありながら冥界の掟に縛られる。

自らの意思を保てなかったものは亡者となる、狂った世界。

そこから生還できたのは、私達だけ。


私はプルートゥをにらみつけた。


「おお、怖い怖い。その借り分は体で払わなくてはならないのでしょうか。よよよ」


わざとらしく自分の体を抱きしめるプルートゥ。

わざとらしいとはいえ、こいつの容姿でこんなことをやられたら、普通の男なら襲い掛かっただろう。

しかし私がこいつに欲情するなどありえない。


「ほう。体で払うと言うのなら払わせてやってもいいぞ」

「へ?」


素で呆けているようだ。

普段ふざけることの無い私がこんなことを言うのが意外か。

しかし、私は何時いかなるときも大真面目だ。


「私達を冥界に叩き込んだ代償は、一生立ち上がれない程の破損をお前の体に与えてやれば十分かな」

「冗談です。冗談ですから、そんな本気の目でにらまないでください。聞きます。あなたの頼みごとなら、本気で何でも聞きますから」


ん?

こいつは本気で怖がっているな。

7割ほど脅しだったのだが。


「宝物庫にある”月黄泉の書”を読ませろ」

「さっき言ったとおり聞きはしたけど、そいつは難しいな。聞くって言っただけで、やるとはいってねぇぜ。”それ”は禁忌の書だ。口に出すのも忌まれるほどに。なぜそれを読みてぇのか聞いても、いいか?」


いけしゃあしゃあとそんなことを口にする。

国家が隠している危険物を、そう簡単に読ませるわけにはいかないだろう。

王族には王族の責任がある。


「これから必要なのだよ。禁じられた知識が、な。知っているだけでも呪われるほどの知識。それが今の私にとっては必要なのだよ」


しかし国家にとって危険と言えば、私とどちらが上かな?

そんなことは私にもわからんが、私が暴れると言う現実的な脅威を優先せざるを得ないだろう。

何が起こるのかは私にだって、わからないのだから。


「ち。何言ってるのかわけわかんねぇが、断れそうにねぇな。いいぜ、読んでけよ。どうせアンタが強気な手段に訴えれば、私達には打つ手がない。それをわかった上で、安全な場所から文句を言うデブもいやがる。あーあ。世の中ってのは理不尽だな」


本当だな。

この世界であっても、愚か者が多すぎる。

その愚か者共が人々を統治するなど虫唾が走る。


「感謝する。そして一つ助言だ。世の中が理不尽ならば、自分はそれに負けない唯一つのものを持て。そうすれば、世の理不尽に嘆いている暇など無くなる」


しかし理不尽なんてものは、自分が決めたことを守り通すと決めたら気にならなくなる。

本当に、それだけで精一杯になってしまうから。

この世界で自分の中で筋を通すことは、それほど無謀なことだ。


「は。そんなことができるのは生まれながらの強者だけだよ。宝物庫の場所は地下にあるぜ」


私みたいに、生まれる前からそれを決められている人間もいるしな、とプルートゥが付け加える。

王族というのは、それだけで人生を決められてしまうほどの楔だ。


誰しも私みたいに容易に決められるものでも、ましてや貫けるものでもないか。

私は己が定めた『最強』として、生きるというのが”それ”だ。

己が理想とする”最強”になるためにはどんな犠牲でも払ってやる。


「ありがとう、プルートゥ。私は君がこの滅びの時代を乗り越えられることを祈っているよ」

「感謝してるなら、いっちょ貴族共を皆殺しにしてくんねぇ?まあいいや。私もアンタの幸運を祈ってるよ」


それでも、他人の幸福を祈るくらいはいいだろう。

力にはなってやれなくとも。

そして、こいつは本心では貴族を皆殺しにして欲しいなどとは望んでいない。


「プルートゥ。死なないでね」


ん?

思えば、リリスの声を聞くのはこの国についてから初めてだな。

あまり感情はこもっていない。

それでも、リリスの感情表現としては上々だ。


ひらひらと手を振るプルートゥを後目に、私達はこの部屋から出た。




プルートゥが通達したのか、私達に突っかかってくるやつは居ない。

気分がいいときにそんなことをされたら殺してしまうな。


ここから先は語る必要が無いだろう。


何故なら、”月黄泉の書”を取り憑かれたかのように読んでいただけなのだから。

言い方がおかしいな。

実際取り憑かれてていたのだから、ように、とは不適切だ。

そう、私は、真実、呪われた知識に取り憑かれてしまった。


さて、大罪の国に帰るか。

この国ではまともに情報を得る当てはない。


これから滅びの予兆が現れてくるはずだ。





「ラクスリア。最近変わったことはあるか?」

「ずいぶんと唐突ですのね。一体何があったと言うのでしょう?」


今、私はラクスリアに話しかけている。

帰ったとき、図ったように家の前にいたのでそのまま話していると言うわけだ。


「これからこの宇宙に災厄の種がばら撒かれる。いや、もうばら撒かれている。何か心当たりは無いかな?」

「待ってくださいまし。貴方の言っていることはつまり、我らが大罪の国に危機が迫ると言うことですか?」


相変わらず理解が早くて助かる。

とは言っても、やることはいつもと変わりがない。


「その通りだよ。しかし、全ての国に平等にその可能性はあるさ。そうである以上、孤立しているこの国がとばっちりにあう可能性はそれほどでもない。君は今までどおり、情報収集を続けてくれればいい」

「そうですか。特別な警戒が必要ないというなら、そうしましょう。それで、災厄の種とはどのようなものなのです?」


特別な警戒なんて必要ないさ。

何故なら、それを突破できるものに私以外では太刀打ちできやしないから。

深入りして死なれるのは、情報源がなくなるという意味で困る。


「さあ、私も全てを知っているわけではないよ。君では敵いそうにないものばかりだから情報収集に徹してくれ」

「そうですか、私も命が惜しいですからね。気をつけましょう。で、変わったことと言いますと戒の国ですかね」


「戒の国?あの小さな国で何が起こった?確か、現在は心優しい王だかが統治しているはずだが。」

「ええ、その国です。民に慈悲を与えた心優しい王。公共事業に力を入れた結果、民は重労働で苦しみ、貴族は私腹を肥やしました。結果、貴族の勢力が王族の勢力を上回り、王は貴族の言いなりになってしまいました。ある時までは」


「ああ、開発資金が中抜きされてほとんど貴族のポケットに入ったというあれ。それでいて、公共事業そのものは行われたと言うのだから、民にとっては地獄だな。で、ある時?まさか、心優しい王に救いの手が差し伸べられたと言うのか。考えの足りない馬鹿に、ただ優しいと言う理由で救いが与えられたのか?」

「さあ、どうでしょうね。ですが、その救い主は貴族を上回る圧政を開始しましたよ。逆らうものには無慈悲なる死を。まるで我々のようです。我々は民に大きな負担を強いることはしませんが」


「はは。その救い主は独裁者だったわけか。で、その独裁者と愚か者の関係は?」

「夫婦です。あるときに妻が力を手に入れたようですね。ゴーレムタイプの魔道具、それも空間を操る能力を持っています。妻本人は魔道具を操れるような魔力を待っていなかったので不審に思っていましたが、貴方の言う災厄の種だったわけですね」


「くく。つまりは、妻に服従する夫か。どのような気持ちなのだろうな?今まで支配していたものが力を持って、今や自らが支配されるというのは。それとも優しいから、単に民のことをのんきに心配でもしているのかな。で、魔道具の映像はあるのか?」

「ありますわよ。どうやら、魔法に対する感知能力は高くはないようですわね。これです」


そう言って、空中に魔法でスクリーンを浮かべる。

画素はお世辞にもいいとは言えない。

人物の動きがわかる程度で、細かい動きはとてもではないがわからない。


そこに写ったのは、大きな目玉を従える女、そして大量の兵士だ。

もちろん大きな目玉が魔道具だ。


目を閉じている。


大量の兵士がいるが、あるラインを超えて進めないようだ。

ラインを超えようと、武器を叩きつけたりしている。

それでも目に見える変化は何もない。

どうやら徒労のようだな。


そして、目玉がまぶたを開く。


その瞬間、兵士が消えた。

清々しいほどまでにさっぱりとした消失だ。


効果範囲は4×4mの正方形くらいか。


まぶたを瞬きさせて、次々に兵士を消している。


土や草まで消しているが、空気を消している様子はないか。


完全な防御に、対象を消し去る防ぎ様の無い完璧な攻撃。


ああ、知っている。

知っているぞ。

知っているとも。


こいつは―


「PT404だ。対象を0.02秒で識別し、0.04秒で解析、0.16秒で消去する絶対攻撃。そして、空間を遮断することによりあらゆる攻撃を通さない絶対防御を持つ兵器。何故そんなものを操れたのかは知らんが、一国を支配するには十分すぎるほどの兵器だ」

「PT404?何故貴方がそんなことを知っているのです?まあ、貴方がおかしな知識を持っているのは今更です。しかし貴方のおっしゃるとおりの性能を持っている魔道具があるとすれば、誰であっても討伐できないではないですか」


『原初の書』に教えられた内容だ。

元々PT404はこの宇宙で動いていた存在ではない。


「そうでもない。元々のコンセプトはどうあがいていいか、わからないほどの敵と戦うためのシミュレーション用だ。攻守ともに絶対を再現するためにかなり無理をしている。だからこいつは決められた条件下でしか作動できず、センサーやAIの類は絶望的だ。私なら機能停止に追い込める」

「そうですか。では同じのが出てきたときは貴方にお任せすることにいたしましょう。では、他に何かおかしなことがありましたら貴方にご報告いたしますわ」


「ああ、そうしてくれ」

「承りましたわ。それではごきげんよう」


ラクスリアはそのまま去っていった。


さて、私にはPT404を討伐する義務はない。

アレが出現した戒の国は、この国に近いわけではない。

もっとも、大罪の国に近い国など存在しないが。


しかし、アレの存在はむやみに世間を騒がすだけだろう。


単なる演習用の的などに、宇宙どころか世界を変える力は無い。


女を喜ばす程度が精一杯だ。


ならば、私が壊してしまっても問題ないな?


他の宇宙で作られて、この宇宙に来たバグ存在がどれほどのものなのか、この身で体験させてもらうことにしよう。


「クリス!来い」

「きたよ。何?」


早いな。

今この瞬間までイラの家で放置していたのに。


「クリス、お前にやってもらうことができた。リリスにもやって欲しいことがある」

「なあに?」


こくり、とクリスは首をかしげる。


「ルシフェのお願いだったら何でも聞くよ」


リリスは微笑んで、私をうかがう。


くく、いい子達だ。


次は、大望の最強VSチート。

主人公はこれから、12連世界を守るために奔走しなくてはなりません。


ちなみに、プルートゥは婚約済み。

ヒロインではありません。


あなたは、粗野な女性が好きですか?


はっきり言って、恋愛対象としてはお断りです。

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