第12話 絶対兵器の欠陥
さて、防御、攻撃共に完全な絶対兵器を倒すと私は言った。
しかし倒すとは言ったものの、戒の国は転移符の範囲外だ。
何と言っても戒の国は大国ではないので、その為の魔法陣を作成する金がない。
転移魔法はとても繊細なので、魔方陣を作成するにも莫大な金がかかれば、維持費用もかかる。
だから、弱小国ではそれを構築することができない。
しかし、その利益は膨大だ。
正直、貿易はそれで成り立っている側面もある。
ゆえに私は歩いていくしかないと言うわけだ。
そういうわけで、今リリスを抱えながら疾走している。
クリスは別の方法で向かわせている。
そうしないと、到着時間がずれる。
リリスは幼稚園児並みの身長なので、抱えて走るのは楽だ。
幼稚園児並みの身長でここまで妖艶な雰囲気を持つのもどうなんだろうね?
人のものではない美しさが、リリスを人間ではないものと主張する。
それが倒錯的で、邪悪な可憐さを演出する。
まあ、私にとってはかさばらなくて良いと思うだけだけど。
それに時速100kmほどの速度を出していると言うのに、不満すら言わない。
それどころか、うれしそうだ。
普段人形のように控えめで、感情を顔に出さないのに。
しかしそのおかげで。
この速度なら、今日中に着く。
しかし、戒の国の王宮にいてくれれば手間が省けるが、逃げ出していると面倒だな。
PT404は魔力を一切使用していない。
故に、見つけるのは至難の業だ。
―あの馬鹿そうな王女は隠れるなど思いつかないだろうが。
やっと着いた。
とはいえ、一日はかからなかったが。
さあ、遠くに見えるのが戒の国の王宮。
弱小国では、森を切り開くどころか森周辺の警護さえできない。
この世界では、たった一人の戦力によって壊滅させられた国は枚挙に暇が無いというのに。
だから、せめて壁くらいは作るなんて、涙ぐましい努力だな。
ぼろぼろで城壁ですらない土壁は、とても脆そうだ。
憐憫を誘うよ。
とはいえ、この距離から王女をピンポイントに狙うのは難しい。
私の魔眼でも、物質の透視はできないから。
なら、王都に踏み込み殴り込みをかけるか。
移動中を狙われる可能性もある。
が、不意打ちで殺されるのはありえない。
この私なら、な。
「リリス、ここで待っていろ。私は少し」
ここでにやりと笑う。
「?」
リリスはこくりと首を傾ける。
PT404は最強である私にとってすら遊び相手には過ぎるほどの相手だ。
この邂逅で相手を殺す気はない。
殺せるとも思わない。
だからこそ
「楽しんでくる」
ニタリ、と笑みが浮かんでくる。
あの攻撃を喰らったら、私でも死を免れる術はない。
ああ、楽しみだ。
「いってらっしゃい」
まるで心配していない顔で、私を送り出してくれる。
まるで、幼さ故に邪悪な女神のようだ。
どおん、といういささか気の抜ける音が響く。
土壁を殴って、崩壊させた音だ。
思った通り脆かった。
とはいえ、ここら辺の低くもなく、高くもないレベルのモンスターを防ぐのには十分な壁だった。
これで、この王都の住民はモンスターの襲撃に怯えなくてはならなくなったわけだ。
その始まりを告げる音が、あんなに軽い音だとは悲しいものだ。
どれほどの数が来ても、PT404なら瞬殺できるけどな。
それをする意思があるかは怪しいが。
悲鳴が聞こえる。
いきなり壁が崩されたのならそれも当然。
しかし、私に向かってくるものは居ないな。
少し楽しみにしていただけあって残念だ。
気骨のある者は居ないようだ。
悠々と町を歩いていく。
人々は私から少しでも離れようと逃げていく。
しかし、悲鳴の中を歩くのは気分があまりよくない。
そう思った瞬間、悲鳴が消えていく。
ばたばたと人が倒れている。
気になって見てみると、息はしている。
どうやら、少し魔力を開放してしまったようだ。
私のせいだが死んでないなら、いいか。
「随分と私の国民に酷いことをしてくれるのね?私、あなたに何かしたかしら?」
戒の国の王女、セロレア・シーオドアが上空にてPT404に、目玉に乗っていた。
傲慢そのものの表情で私を見下ろす。
「何かした、だと?あまねくこの世界の存在全ては、互いに影響を及ぼし合っているのだよ。存在しているのに、影響を与えない”もの”が在るなどとは傲慢だよ」
私は、私を見下ろすセロレアを睨み付ける。
見下ろされるのは気に喰わない。
それが調子付いた顔をしているのならなおさら。
「案外ロマンチストなのですね、『最強』は。ですが、現実的な問題として、あなたすら超える力を持つ私は影響を与えることはあっても、与えられることはない。そう、”元”最強、あなたですら!」
私に指したその指、握りつぶしてやろうか。
おっと、いけない。
逸り過ぎるのは、格好がつかない。
「いささか君は興奮しすぎているようだね。君の玩具の能力を過剰評価しすぎるのは、見苦しいよ」
嘲った直後に飛び退く。
見苦しい、と言った瞬間に仕掛けてきた。
思ったとおり、PT404の攻撃をかわすのは容易い。
まぶたが動いた直後から0.1秒後までにその場所を離れていれば、何も問題はない。
「私が見苦しいですって!?ふざけたことを。死ね。虫けらみたいに、あっけなく死んでしまえ!」
連続して、空間消去攻撃が行われる。
そのことごとくを回避する。
ははは。
先ほど自信満々に、私に影響は与えられないとか言っておきながら―
私の言葉に影響されて怒るとは、本当に見苦しい。
「死なないさ。君程度の攻撃では死なない。さて、普通の人間であるところの君はどのくらいの攻撃なら死ぬのかな?」
爆音が響く。
爆薬を使ったわけではない。
ただ、槍を投げただけだ。
音速の壁を突き破る速度で。
空間遮断による結界に叩きつけたため、槍のほうが崩壊した。
砕け切って、鉄くずになった。
これではもう再利用できないな。
「ひぃ!.........あ。うふふ。あっはっはっはははははは!あなたの攻撃は通じない。私の絶対の防御は敗れないのよ!」
槍に一瞬恐怖を浮かべるセロレア。
音速の壁を突き破った音は、一般人レベルになら恐怖を抱かせる。
直後、完全に防ぎきれたのを見てまたもや調子に乗り始める。
さて、今日は遊ぶだけの予定だ。
もう少し遊んでみようか。
「ふむ。この程度では破壊できないか。なら、私の必殺技を受けてみないかね?」
普通なら、私の必殺技を受けてみてくださいとお願いする人間も、その願いを聞き届ける人間もいないだろう。
しかし、この調子に乗りまくった馬鹿女は別だ。
「へぇ。あなたの必殺技?いいわ、受けてあげる。私は無敵だってこと、証明してあげるわ。何時だって来なさい!」
やっぱり、受けた。
馬鹿だな、こいつ。
『ブラック・アウト』
冥界では、『創世』が創った結界世界すら砕いた技だ。
今回はドーピングなしで、ほとんど自身にダメージを与えられないような力しか出さないが。
というか、冥界でなければ世界を砕くなんて、ありえない真似はできない。
私の可視化するほどの滅びの魔力を見てビビるセロレア。
やはり、こいつはこの程度か。
私の技の威力を、予想することもできない。
この程度で、空間遮断結界を貫くことなどできないのに。
激突させる。
1ミリたりとも壁の向こうに達することなく止められてしまった。
止められた攻撃力は私の腕を砕く。
想定済みだ。
「ぐ....。しかし、これで........今日はこれくらいで退散することにしよう」
結界を蹴って、全開のスピードで逃げる。
私の魔眼を持ってすれば、後方を振り返ることもなく後ろを見るのはたやすい。
「な.....!?逃げるのか?ま、待て。待ちなさい!」
誰が止まるか。
「待て。待てと言っているでしょう!ファントム、やれ」
PT404がまぶたを開く。
地面を蹴り飛ばして距離を稼ぐ。
有効射程から外れた。
後ろの地面が削られたのが見える。
さて、追ってくるかな?
壁があった場所を抜けて、森へと入る。
セロレアはこのまま私を見逃してくれるような人間でもないだろう。
追ってくるはずだ。
私は森の中を走り続ける。
いくら魔道具が速く動けようとも、上に乗っている人間はただの人間。
人間を無理やり速く動かせば、潰れてしまう。
だからこそ、アレが出せる限界の速度は私から見ればひどく鈍い。
だから、私は空間消去攻撃を避けたとき以外は、トップスピードでは走っていない。
相手が追いつける程度に速度を落として走っている。
バキバキと音が聞こえる。
木々が折られる音だ。
いくら気配がわからなくても、こうも音を立てていれば位置の推測は容易。
というか、乱暴に木々を掻き分けて相手を追うなんて、女のやることではないな。
戦闘の素人でも、やらないような愚行だ。
肌がズタズタになるぞ?
ま、やり方はどうあれ、ちゃんと追いかけてくれている。
さて、そんなにまでして追いかけてきてくれた御礼に、少しばかり驚かせてやろうじゃないか。
「追い付いた!いい加減くたばれ、この死に損ないが。やれ、ファントム!」
よし、この位置だ。
誘導は完了した。
セロレアは私の姿を肉眼で捉えて興奮している。
私以外が目に入らないほどに。
だから、こんなことができる。
セロレアは私を有効射程範囲に捕らえようと、トップスピードで迫る。
目は血走っており、服もぼろぼろ。
まるで夜叉だ。
慎みや可憐さの欠片もない。
人形のようなリリスとは大違いだ。
醜いね。
そして、卑小だ。
迫るセロレアの首の前方に、ナイフが差し出された。
差し出したのはクリス。
これが私の作戦。
頭に血が上ったセロレアが、目の端に写るナイフに気づくはずがない。
そして絶対防御は、あくまで空間を切り離して結界とするもの。
自分に向かってくる、ある程度速い攻撃を完全防御するものなのだ。
ゆえに自分から突っ込む分には、発動自体が不可能。
絶対防御を破るには、矛盾しているようだが防御をさせなければ良いのだ。
差し出されたナイフのに気づかず、突っ込むセロレア。
ナイフに、セロレアの首が迫ってゆく。
そのまま、セロレアの首はナイフに触れ――
―キィン―
―弾かれた。
な!?
馬鹿な。
PT404が空間遮断以外の防御機能を持っているはずがない。
いや、今のは防御魔法か?
セロレアに魔法の心得などあるわけがない。
何が起こった?
む。
セロレアは胸から下げた砕けたペンダントを見ている?
そうか、そういうことだったか。
つまり、アレに防御魔法が込められていたのか。
魔法が込められたペンダントなんて、弱小国の王女が乗っていて良いものではないのだがな。
特に防御魔法入りは価値が高く、目玉が飛び出るくらいの値段だったはずだ。
国を傾かせるような値段でも、効果は一度限りであるし。
この私ですら持ってないほどの高価な物を持っているなんて、想定すらしていなかった。
いや、他のものにお金を使ったせいだけど。
しかし、油断していた。
アレで仕留められると思っていた。
まさか、クリスが失敗するならともかく、私の作戦が失敗するとは。
ま、いいか。
どうせ、クリスが失敗してもおかしくないと思って本命の作戦は用意してある。
自分の失敗は、自分で処理して見せよう。
とりあえず、居ても邪魔なクリスを蹴り飛ばし、戦線から離脱させる。
「さあ、君の絶対防御を破る手段は見せた。尻尾を巻いて逃げるなら今のうちだよ」
クリスを蹴り飛ばしても何も思うこともなく、セロレアに視線を向ける。
我ながら、鬼だな。
「いい加減なことを!お前の作戦は全て私には通じなかった。私をどうにかするなんざ、誰にもできないんだよ」
セロレアも気にしていない。
わざわざクリスを守る気なんてさらさらなかったが、これは好都合。
クリスなんて眼中にないようだ。
いい具合に挑発に引っかかってくれた。
しかし、実はこいつ臆病だな。
激昂しやすいが、頭に血が上りきる前に歯止めがかかっている。
上っても、すぐ冷める。
厄介だが、それなら精神力を削り切ればいいだけのこと。
この林の中にお前を引き入れた。
その時点で、私の勝利は確定した。
「その兵器の欠陥は3つある」
「何だと!?きゃ」
言い終わった瞬間に、飛び出す。
相手の絶対防御で攻撃は通らない。
ある速度以上で術者に向かってくるものは全て、結界で遮断するからだ。
だが、そうと分かれば足場にできる。
結界の上に着地して、木々の間を跳ね飛ぶ。
さらに、特殊な発声法を用いて林の中に声を反響させる。
これで、相手は私の位置を特定できない。
「第一の弱点、それは君自身の反応速度の鈍さ!」
「うるさい。とっとと消えろォ!」
PT404自身の反応速度は反射的な防御にしか活かせない。
例えPT404が光速に対応していようと、動かすセロレアは1秒単位でしか対応できない。
つまり、そこまで速く動かなくとも、直線軌道で動かなければ空間消去攻撃は避けれる。
機関銃と同じで、適当に動くだけで当たらなくなるのだ。
「第2の弱点、それは自身を覆う結界を維持し続けられないこと!」
「ぐ。それがわかったからどうだというのよ!?」
今度は金切り声を上げた。
さすがにこれは致命的だと気づいたか。
結界で自身を覆った場合、センサーは使えない。
頼れるのは術者自身の目だけになるが、私のスピードの前には何の役にも立たない。
舞い散る木の葉で視界も悪い。
結界の中に閉じこもるというのも、ありえない。
そもそも、結界の中に閉じこもるくらいなら、私を追いかけて林の中にまで来ない。
「第3の弱点、それは君にわかるのは”速さ”、そして”形”くらいということさ」
「何を!?」
私はセロレアの前で足を止める。
木の葉が舞う。
その中で彼女が頼れるのは、先ほど言った”速さ”と”形”を識別するソナーのみだ。
コウモリが使うような超音波センサーといえば、わかりやすいかな。
もちろん音ほど遅い媒介物を使ってるわけがないだろうけど。
だから気付かない。
落ちてくる木の葉に、宝玉を混ぜておいたことを。
そして、私が動きを止めれば何をしたのか探らないわけにはいかない。
それが結界を解く行為だとしても。
そんなわけで、宝玉はセロレアの頭に乗り、爆発した。
呆気ない最後だった。
まあ、課題はどうやって防御させないか、だ。
だから騙し討ちになるのも仕方ない。
........何かが起こったことすらわからない様子で死んでいったのは、少し笑えるが。
そうそう、少し種明かしをしておこうか。
わざわざ私が、やつの弱点を叫んだのは警戒させるためだ。
馬鹿なお願いをしたのも、クリスによる暗殺も、木を飛び跳ねたのも、全ては最後に立ち止ったとき結界を解除させるためだった。
あれだけ種を仕込んでおけば、疑心暗鬼になって結界の閉じこもっているわけにはいくまい。
己の力を過信していたし、な。
用事を終えて帰ろうと思った私は、統の世界にいた。
最強VS絶対兵器をお送りいたしました。
ちなみに、セロレアは何も考えていませんでした。
そういう教育を受けていないので、戦術とかは全く知りません。
戦術を考えるということすら、しませんでした。




