第13話:換金窓口と生きた伝説
多くの人間が出入りし行き交う室内を、イサナは興味深そうに見回していた。
特に目立ったところがない一般人らしい姿もあれば、見るからにカタギとは思えない厳つい風貌もあり、アラビアンな薄着のお姉さんが笑い、パンクファッションで決めた御仁やら、半裸のゴリマッチョ、時代錯誤な中世騎士、ペストマスクと血まみれの白衣でうろつく医者?がいたり、迷彩服とヘルメットで武装する軍人めいた格好もちらほら。
日常とは一線を画す怪しげな人員の見本市、そんな光景が広がっている。
「ここが企業の結晶換金窓口ですか。なんというか個性的な人々が集まっていますね」
「だいたい8割ぐらいは結晶ハンター、僕達の同業者だよ」
濃すぎる面々に圧倒された様子で、イサナの口から感嘆の吐息が漏れた。
しかしジャージ姿の女子高生は彼女しかいない。奇妙奇抜な物珍しさではどっこいだ。
色んなタイプが混在している関係上、イサナもこの空間に馴染んでいる。
「換金以外にもミラ結晶やヘイタイアリの情報を交換したり、噂話や助っ人を集めたり、武装のメンテナンスを目的に来るハンターも多い」
「結晶ハンターの社交場というわけですか」
「まぁ、お金のために自分の命を顧みない物好き、ようは奇人変人が大半だからね。まともな会話の成立する人が、どの程度いるかは分からないな」
「あの、自分達もその一員ですよね?」
「あははは、そうだよ。世間から見れば、僕達も立派なアウトローさ」
「あまり笑えないですけど」
「おっとそうだ、僕から離れすぎないように付いてきて。素人丸出しでフラついてると、危ない人にすぐ誘拐されちゃうよ。倫理観のバグってる輩もチラホラいるから」
「え、えぇ? どこのスラムなんですか」
驚きと困惑を等分に浮かべながら、イサナは足早に隣へ並んだ。
それでも好奇心を隠せないらしく、周囲へキョロキョロと視線を這わせ、観察はやめない。
物珍しさに臆する気配のなき相棒を伴って、僕は室内奥部に設けられたカウンターを覗く。
「採掘済み結晶の査定を頼むよ」
「生きて帰ってきたかい、フユ」
中に一声かけると、筋骨逞しい女傑がぬるりと姿を現した。
ベリーショットの紫髪、精悍で傷だらけの顔、丸太のような四肢をスーツに収めた、2m近い中年女性。
その強烈なインパクトに対し、イサナは直利不動で姿勢を正す。
圧倒的な実力差を肌で感じ取ったらしい。
「紹介するよ、こちらは顔馴染みの受付さんで、マリアナ・マクウェガー女史。この子は見習いとして一緒に働き始めた、ウラベ・イサナちゃん」
「気楽な独り者を貫いてたフユが相方を作るなんてねぇ。アタシはマリアナだ、よろしくお嬢ちゃん」
「ウラベ・イサナです。よ、よろしくお願いします」
ガチガチに緊張しているイサナを見て、マリアナは豪快に破顔した。
大口を開けて、おかしそうに笑い声を上げる。
「こりゃまた随分と真面目そうなお嬢ちゃんが来たもんだ。結晶ハンター志望にしちゃ珍しい。だ~が、覚悟を固めたイイ顔してる。そこらのボンクラとは違うねぇ。気に入ったよ」
「マクウェガー女史は元結晶ハンターで、ベテランの大先輩なんだ。難攻不落級と呼ばれる強大なヘイタイアリを何体も倒してるうえ、街が数個買えるぐらい稼ぎを上げてる。生きた伝説であり、ハンタードリームの体現者さ。後進の育成にも熱心な人だから、困ったことがあったらイサナちゃんも相談してごらん」
「は、はい!」
「ま、腑抜けない程度で気楽にやんな」
「そうは言っても、貴女の圧を前にしてれば無理そうだけど」
僕が肩をすくめてみせると、マリアナは口の端を意地悪そうに吊り上げた。
彼女はこうやって毎回対面した新人に威圧をぶつけ、気概や胆力を測っている。
別に初心者を苛めているわけじゃない。意欲の薄い者に、早い段階で結晶ハンターを諦めさせるためだ。
人類に敵対的なヘイタイアリと戦う以上、強固な信念や我欲といった自分自身の核がなければ、へこたれず食らいついていくことなど不可能。明確な芯のない者は無駄に命を散らして終わる。
そうした犠牲者を未然に減らすため、彼女なりの適性検査をしているらしい。
「あの、マリアナさん」
「ん~、なんだい」
「マリアナさんは、もう結晶ハンターを引退されてるんですか?」
イサナはおずおずとした調子で、しかし気圧されることなく質問を投げかけた。
逃げ出さず、角が立たないようやり過ごすでもなく、自分の言葉をマリアナに送る。
新人の反応に歴戦の女傑はピクリと片眉を動かし、愉快そうな笑みを作った。
力量さを感じ取りながらも怯んで潰れず、意思を掲げて押す姿勢に好感を抱いたようだ。
「そりゃぁ、しこたま稼いだからね。富も名声も望むだけ手に入れた後、なにしようかと思ってたら、企業がスカウトしてきたんだよ。だから受けて、今は受付をやってるのさ」
「自分も、いつか全てをやり遂げ、満足しながら辞められる時がくるでしょうか?」
「お嬢ちゃん次第だね。それに勝負は時の運もある。人生なんて想定通りにいかないことの方が多いもんだよ。だからこそ岩に齧り付き、泥水を啜ってでも這い進み、諦めず生き抜く不屈さが大事なのさ。図太さを忘れず、経験を重ねて、己を鍛え続けな。そうして欲しい物を力尽くでもぎ取っていけばいい。アタシはそう生きてきた」
「はい、ありがとうございます!」
依然として緊張に強張りながらも、イサナは前向きにしっかりと返事をした。
顔も視線もマリアナから逸らさない。
成人前の女の子ながら、並々ならぬ心の強さだ。
何があっても自分の道は譲らず踏む、そんな熱量を感じさせる。




