第12話:ミラ結晶を採掘せよ
「よーし、ミラ結晶のハント開始だ。イサナちゃんは、まず見てて」
「了解しました」
運んできた背嚢を地面に下ろすと、イサナは興味深そうに覗き込んできた。
「爆発物で解体ですか?」
「それだと折角の結晶が木端微塵に吹き飛んじゃうね」
「自分達の武装で直接殴る蹴る?」
「加減は利くけど時間がかかりすぎるし、疲れちゃうなぁ」
「まさか杭とハンマーでカンカン叩く?」
「正解に一番近いよ。人力じゃなく電動だけど」
イサナの見ている前で取り出したのは、携行用掘削機。
螺旋状の回転芯と動力部を内蔵した箱型本体、カートリッジタイプの充電バッテリーがセットになった最新モデルだ。
コンパクトながら耐久性抜群、個人で使えてしかも非常にパワーがある。キューブ技術による発展が生んだ結晶ハンターの頼れる味方さ。
「こいつを結晶の根本に押し付けてっと――」
本体に右手を入れて、内部に設けられたグリップを握る。
するとセーフティが解除されて先端の保護囲いが開閉し、格納されていたドリルが露出。
ドリル先端をミラ結晶の下部中心点に宛がい、グリップを押し込むと内圧に連動してエンジンが掛かる。
回転を始めたドリルは直結するシリンダーを小刻みにピストンさせて、掘りながら打ち込む二層衝撃でミラ結晶を抉っていく。
片手で扱えるけど大出力だ。回転芯がみるみる結晶内へと埋まっていき、接触点を基軸に罅割れが広がった。
ガリガリギャリギャリと激しい掘削音が辺りに響く。
近くにヘイタイアリが居ようものなら、すぐにでも集まってくるだろう。しかも興奮状態に陥って。
だから奴等を放置してミラ結晶のみ採取するのは現実的じゃない。
「凄い機械ですね。作業も想像よりずっと速い。その分、とても重そうですが」
「なにもしてないとキツイだろうけど、強化兵士の身体強度なら問題ないよ。もうワンサイズ小振りで、中出力の掘削機なら女の子でも振り回されることはないから」
「ネクサス用のドリルマシーン、女性用もあるんですね」
「元々最初に作られたのが女性用で、サイズアップタイプの男モデルは後からの量産仕様なんだ」
「そうなんですか? やはり女性の身体的ハンデを補う設計思想から?」
「ネクサス関連はそもそもが女性基準で全部始まってる。キューブ戦役時代に生まれた最初のネクサスが女性ばかりだったから、そこからの伝統だね。今は男女比の割合も半々ぐらいだと思うけど。当時の名残か、女性優先準拠がずっと続いてる感じ。男用は二の次三の次、周回遅れで別バージョンが出てくるみたいな」
「そういう歴史的背景が……」
イサナは意外そうな顔をして、僕の話に聞き入っていた。
学校の授業じゃ、現代ネクサス事情を細かには教えてないだろう。
表向きは男女平等、格差なんてありません。そう標榜している。
ただし現場レベルだと差異を如実に感じるという話だ。それも無理からぬこととは思う。
なにせ人類史上初、星外勢力との戦争と勝利が基盤にあるわけで。当時の気運をゲン担ぎのように引き継いで、半ば正道としてネクサス産業は発展した。今更変えようがないほどに定着し浸透している文化だからだ。
まぁ機器性能や制度の優劣が極端にあるわけじゃないから、僕は気にしてないけど。
「おっと、話し込んでる間に採掘も終わりそうだよ」
ミラ結晶に食い込んだドリルは内奥まで達し、生じる亀裂が全体へと伝播していた。
最後の一押しを潜らせた瞬間、ギチリという歪な音が鳴る。
掘削機を通して腕へ伝わっていた抵抗が不意に消え、巨大なミラ結晶は複数の欠片に割れて砕け落ちた。
拳大ほどの塊になった七色の結晶片が、バラバラに足元へ転がる。
役目を終えた掘削機のグリップから手を放せば、エンジン駆動が自動的に停止した。合わせてセーフティカバーがドリルを格納し、持ち運びに便利なケース状に戻ってくれる。
「さぁて、結晶の破片を拾い集めてリュックに詰めよう」
「特別な梱包は必要ないんですか? 剥き身のままだと傷付いたり」
「パワフリャーなドリルで削らないと割れないぐらいには頑丈だからね。多少の衝撃は問題にならないよ。だからこのまま回収しちゃうのさ」
「なるほどです」
「あとは企業の窓口に持っていけば、量や純度に応じて換金してもらえる。ちなみにお金になるのはミラ結晶だけで、ヘイタイアリの討伐数とか厄介さは計上されない」
「えっと、強力なヘイタイアリを倒したハンターが、高額報酬を受け取ったなど噂を聞くんですけど」
「ああそれはね、高純度なミラ結晶ほど強いヘイタイアリが寄ってくるからだ。そして強いヘイタイアリほどミラ結晶に執着する。だから高純度結晶を採るために、強個体を倒すのが必須になるのさ。すると強敵を倒した者が、高純度ミラ結晶を手に入れて、それが高値で買い取られるから」
「人々の口を渡っている間に省略変形して、強敵撃破が高額報酬という伝聞になったんですね」
「そういうこと。今回の敵は相当な手練れだったから、この結晶もきっと純度が高い。けっこうイイ値段になると思うな」
「ああ、それはちょっと……」
「楽しみだよね」
「はい。そのために、此処に居るので」
割れ砕けた結晶の破片を拾って掲げ、星空を透かしてみた。
分断されても変わらない七色を保つ塊、その直角面は内側で明光を屈折させ、星も夜闇も見通せない。
ふと視線を転じれば、イサナは一つの塊を両手で抱えるように持ち、まじまじと眺めている。
人生で初めてのミラ結晶採掘だ。しかも初戦でヘイタイアリにトドメを刺した。感慨深くもなるだろう。
自身の力で勝ち取った成果は、やっぱり重みが違うから。




