第10話:導き手として
「それにしてもフユ先輩の猛攻、凄かったですね。ヘイタイアリ相手に正面から、ああも見事に切り結ぶなんて」
「まぁ結局は一発もまともに入れられなかったけどね。理想としてはイサナちゃんの手を煩わせることなく仕留めたいところだったけど。そう上手くはいかなかったよ」
「自分は戦闘に噛み込めて得るものも大きかったですし、加勢できて良かったと思っています。そも敵は人外の技量でした。アレに対応しきったフユ先輩の腕は尊敬しきりです」
なんの翳りもないキラキラとした目が、僕に向けられている。
あまりに純真な眼差しが眩しい。
女子高生が武技を主題に、こうも盛り上がるものなのか。
僕に気を遣ってヨイショしている風でもないし。妹とは興味の方向性がだいぶ違うなぁ。
「イサナちゃんの拳打や蹴りだって鋭く強力だったさ。勝利の決め手になったからね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、自分の技はまだまだ未熟。まがりなりにも通じたのは、フユ先輩が敵の意識を自身へ集中させ、こちら側に対して大きな隙を誘発してくれたからです」
「その機会を逃さず攻撃できたのはキミの胆力だ。バケモノとの初戦闘で竦まず立ち向かった。それが既に価値あることだよ」
「いえその、無理を言ってお世話になっている身で、先輩の足を引っ張るわけにもいかないですし。でも気概を認められるのは、嬉しいものですね。たはは」
イサナは照れ臭そうに笑いながら頬を掻いた。
傍からそれと分かるほど顔が紅潮している様子を見るに、褒められることへ慣れていないのかもしれない。
親族の借金問題もある。複雑な家庭環境で育ってきたのだろうか。
結晶ハンターを止めさせたいなら評価などせず、メタメタにこき下ろして意欲をへし折る方がいい。でも彼女の頑張りを無視して、挫折させるための嘘を叩きつけるのは気が引ける。
この笑顔を無下に曇らせるのは、ちょっとね。
上の妹と末の妹にも『よろしく面倒をみてあげて』と頼まれてるから余計に。
「あの、フユ先輩はどんな剣士の下で学ばれたんですか? さぞや御高名な達人かと思われますが」
「う~ん、特定の誰かに師事したことはないんだよね。基本的に単独専門だから。ヘイタイアリと戦う中で傷付いたり失敗したりしながら、有効な手段を自分のものにしてきただけだよ。独学というか我流というか」
「身一つの実戦で、ひたすら戦闘技術を磨き昇華してきたと!?」
質問に答えた途端、イサナが驚愕の表情を作った。
信じられないものを見る目で、口元を戦慄かせている。
結晶ハンターの単独行が珍しいのは確かだ。普通は3人から5人程度のチームで動く。
仲間がいれば多方面のリスクが軽減されるし、役割分担が出来て生存能力も上がる。上手く連携が取れれば個人よりも強い力が発揮可能で、作業効率も高まるなど利点は多い。
反面、足並みが乱れた時の瓦解は酷いものになってしまう。一つの不備がチーム全体を絡め取り、絶望的な状況へ転がしてしまうパターンもある。また仕事の間隔や期間も全員のコンディションと擦り合わせなければならない。綿密な事前準備は必須となり、一仕事ごとの初動にはどうしたって制約がかかる。
なにより致命的なのが利益の分散だ。
チームで得た儲けは頭数で等分に割られるのが常道。対して単独なら、まるっと総取り。やっぱりこの差は大きい。
育ち盛りの妹を二人も養っている身としては、ここが最重要ポイントになる。
それに個人勢なら自分の状態一つで仕事量を気楽に調節できるしね。
安全と秤にかけることじゃないとは、同業者から100万回は言われてるけど。
「えっと、それじゃ、今までどれぐらいの期間、一人でハンター活動をしてきたんですか?」
「そうだなぁ、だいたい12歳頃からだから、かれこれ13年になるね」
「12歳からソロハンター……その中を五体満足で生き抜いてきた。まさしく本物の戦士。誰の真似でもない生粋の闘者だ。誇張ではなくルナさんの言ったとおりでした。実地で練り上げられたからこその強さ、あの異様な手並み、常人を凌駕した剣捌きにも納得ですよ」
イサナはなにやら考え込み始めてしまった。
顎に手を当てブツブツと呟いているけど、よくは聞き取れない。
僕の戦い方が自己流で落胆させたかな。
プロの格闘家に鍛えられた下地を持つ彼女からすれば、無形の闘法が邪道に映っても仕方ないか。
「あっ、すみません。ルナさんにお兄さんを紹介してもらって正解でした。これからもフユ先輩から色々と学ばせてください」
「それはいいけど。ただ、さっきも言ったように僕は独りでやってきたからね。チーム戦とか複数人での行動指南は出来ないと思うよ」
「かまいません。寧ろ自分は一人でもやっていける強さや手段を求めています。なのでフユ先輩はお手本としてこれ以上なく理想的です」
「妹の友人を預かってる者としては、単独行動なんかせず、信頼できる仲間を作って働くことを推奨したいんだけど」
「フユ先輩がそれを言っても、正直説得力がありませんよね」
「だよねぇ。同じ立場だったら僕もそう指摘するもんなぁ」
不満があるわけじゃないのか、イサナは相棒枠の継続を願っている。
一度受け入れたことだし、彼女が望むなら無理に突っ撥ねるつもりはない。
そうとなれば僕の培ってきた技、生きていく術を可能な限り教えていこう。彼女が自身の手で目的を遂げられるように。




