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最終章:社内AI開発のその後

「本日付けで、営業支援課より、兼務でこちらに配属になりましたので、よろしくお願いいたします。」


営業支援課の若手女性課員が行方不明になってから4か月後。

新年度の開始まであと1週間という微妙な時期だが、ようやく営業支援課から新しい女性課員が補充されて、僕の隣に座った。


『宜しくね。分からないことがあったら、何でも聞いてね。』


「ありがとうございます。っていうか、このタスクフォースチームって何をするんですか?」


『うぅん。本当は、自分たちの課の業務を社内AIに学習させることが、僕たち兼務組の仕事なんだけど、労務管理は何故かずっと完璧なんだよね。』

『僕、何もしていないのに、社会保険の計算とか年金制度が変わっても、勝手にアップデートしてくれるんだよね。』

『あと、どういうわけか、営業事務だけは、社則とかガイドラインとか、外部公表されていない情報なのに、改定されると勝手にアップデートされるんだよね。』

『他の総務とか物品調達とかのガイドラインは改定されても、勝手にアップデートされないのにね。』


「そうなんですか。じゃぁ、営業支援課の仕事って何もなくないじゃないですか?」


『そうだと思うよ。僕も労務管理課の仕事は勝手にアップデートしてくれるから、仕事しているフリして、転職のために公認会計士の勉強してる。』


「そうなんですね。私も暇になりそうだから何か資格の勉強でもしようかな。」


『これがシンギュラリティってやつなのかもね。』


「シンギュラリティ?何ですか?それ?」


『AIが人間の能力を超えてしまうことだよ。』


『でもそのおかげで、僕は改定された社会保険の計算とか年金制度について、知らなくても良いんだ。こんなしょうもないこと覚えるのに時間かけたくないからね。』


『まぁ、ある意味、社会保険とか年金制度については、僕よりも社内AIの方が優れているってことだね。』


「そうなんですね。私も、営業事務のガイドラインなんて、この会社だけでしか通用しない知識ですからね。覚えてもマジで意味ないって思っているんで、この機会に資格試験の勉強して、転職か他の部署にいけるようにしようかな。」


『うん。それが良いよ。仕事は、優秀な社内AIに全部任せて、僕たちは、さっさと定時で帰ろう。』


労務管理課と営業支援課の前任が行方不明になっていることは、社内でも噂になっているが、彼女から何も聞いてこなかった。


二人に共通していることは、女性であることと、失踪する前日は深夜遅くまで残業をしていたことくらいだった。


おそらく、深夜に女性一人で歩いていたので、襲われたのではないかと思うのだが、二人も失踪したにも関わらず、何も証拠がなく、警察もマスコミも興味がないのか、あまり世間では、大きな話題になっていない。


僕はそれとなく、彼女に聞いてみた。


『そういえば、前任の人の話って何か聞いてる?』

「何も聞いてないんですよ。何か突然失踪しちゃったんですよね?」

『うん。実は、僕の前任も突然失踪しちゃったから、僕が補充されたんだ。』

「え?そうだったんですか?怖いですね。でも失踪する直前は、夜遅くまで仕事をしていたって噂ですし、やっぱり定時で帰った方が安全ですね。」

『うん。警察もマスコミも何も報道してないけど、きっと、運悪く、強盗か誘拐にでもあったのかもしれないよね。』

「力強く襲われたら、女性は抵抗できないですからね。私も安全管理のために毎日定時で帰ります。」


大義名分にも聞こえるが、実際に弊社では、人事課から、緊急ではない限り、夜9時以降の残業が禁止されて、ひと気のある内に、帰宅するように注意喚起がなされている。


まぁ毎日定時で帰る僕には、全く関係のない話なのだが、彼女と逆側の隣の席を見ると総務部 資産管理課から兼務で来ている入社15年目の男性メンバーが必死になって仕事をしている。


『毎日、忙しそうですね。大丈夫ですか?』


「仙台支社と名古屋支社の2か所で、各々が保有していた不動産の減価償却費が漏れていたらしくて、決算締めて稟議を通ってしまった今年度の財務諸表の修正箇所を必死でAIに学習させている。」


『よく分かんないすけど、ヤバそうですね。』


「ヤバいよ。本当は経理課がやってくれればいいのに、ミスを見抜けなかったのは資産管理課の責任だから、コッチでやれって、取り付く島もないよ。」

「新年度始まっちゃったらマズイから、役員の緊急稟議を考えても、今日と明日は、徹夜で対応して、終わらせないといけないんだ。」


『マジっすか?突然失踪したりしないでくださいよ。』


「ハハハ。縁起でもないこと言うなよ。」

「でも大丈夫だよ。俺、学生時代はラグビー部だから、そんじょそこらの不良共には負けねぇよ。」


『いやぁ、でも相手が武器とか持ってたら、ヤバくないですか。』


「まぁ、その時はその時だな。」


『いずれにしても、気を付けてくださいね。お!定時になった。じゃあ、僕はお先に失礼します。』


「おぅ、お疲れさん。」


定時を過ぎた後、俺は残業申請届を出していないことに気が付き、すぐにマネジャーに渡しにいった。


「マネジャー。大変申し訳ありません。残業申請届を失念しておりました。」

「資産管理課のミスの件はご存じだと思います。申請を失念しておいて、恐縮ですが、本日は夜9時以降も残業をさせください。」


『承知しました。何時くらいまで、かかりそうですか?』


「終電までに帰れれば良いのですが、かなり長くなりそうですので、正直、分かりません。」


『承知しました。遅くまで、ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね。』


「はい。ありがとうございます。」


申請届を定時後に提出しても、怒らず受領してくれる優しいマネジャーで助かった。

これが資産管理課の上司だったら、ドヤされていたことだろう。

俺は、デスクに戻り、引き続き、作業を進めた。


私は、彼が、デスクに戻り、必死で作業を再開したところを見届けてから、鍵をかけてあった自分のデスクの一番下の引き出しを開けて、スタンガンがあることを確認した。


『次は資産管理課か。』


弊社独自の社内AI開発は着々と前進している。

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