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Episode 9 覚悟の一声

Episode9 覚悟の一声






平和軍後方支援隊に入隊した人間の少年ウィル。


10歳というまだ幼い心に戦場に現実が容赦なく襲い掛かる。



しかし彼はどの新人よりも強い心で平和軍に居座った。



平和軍の味方までも巻き添えにして戦う、暴君グロストの噂を聞いたウィルは、ゴードスからグロストの話を聞き、その噂が真実であることを知った。


グロストのやり方を気に入らないゴードスだが、戦力の為に残しているから、自分の手ではグロストの心は変えられないという。


話の最中、破壊軍が再びやって来た。

その最中すれ違うウィルとグロスト。


グロストの背から感じた重い何かをなんとか取り除けないだろうか。



犠牲者を減らすにはまず軍の中から変えていかなければいけないのでは。

ウィルはそう思いながら再び戦場の後方支援隊へと、足を運ぶのだった。




「準備は怠るな」


「早くしろ!」


準備に大忙しの後方支援隊。

ウィルもレイリーに交じって一生懸命動いた。



「あの!あの2人は?」

ウィルはそのさなか、一緒に入った新人2人が見えないことに気が付いた。

ウィルは忙しいと分かっていても気がかりだったので、聞いた。


「ああ、彼らは軍を辞めた。今頃どこかで身を隠して暮らしているだろう。」


「…そうですか……」


前衛で働いていた3人はグロストの攻撃の巻き添えで死亡し、後方支援隊の2人も辞めてしまった。


結局残った新人はウィルただ1人となってしまった。


「来たぞ負傷者だ!」

「大丈夫か?今手当てする。」


また始まる。

血まみれの兵士が運ばれ、時には見捨てなくてはならない残酷な現場がまた始まる。


ウィルは覚悟を決めた。


(僕は一度に助けられるほど凄くない…!でも僕は僕の出来ることをやろう…!)




「ああ…ああああああ…」

「ぐっ…ゴホッ」



やはり破壊軍に斬られた者は回復が遅い。


何人も犠牲者が運ばれてくる。


「海側の支援隊はどうだ!?」


「はっ、ゴードス将軍のご健闘により間もなく鎮圧します。」

「よし、海側の戦が終わったらこっちに人を回せ!」

「了解です!」

レイリーの素早い始動により、後方支援隊はなんとか上手く回っている。


後方支援隊は2組に分かれている。

壁側と海側だ。


海からもやってくる破壊軍だ。

海側にも支援隊があっても不思議では無いだろう。


ただ向こう側はゴードスが守っている。彼の水魔法で犠牲者はほとんど出さずに勝利をもたらしている。



問題は壁側だ。ウィルも壁側だが、こちらは犠牲者が酷い。

破壊軍にやられた者だけではないからだ。


「黒焦げだ…これは即死だな…」

「うっ…酷い匂いだ。」


「またグロストの奴がやりやがったのか…!くそっ!ふざけやがってあいつ!!」


黒焦げの兵士や重度のやけどを背負った兵士が運ばれてくる。

彼らは全てグロストの戦いに巻き込まれた者だ。


距離を置こうとしても、グロストの攻撃範囲が広すぎる為、どうしても犠牲者は出てしまうのだ。


範囲を減らしたり、簡単な調整ならグロストでも可能だ。

だがそれをしない。

グロストにとって他の兵士などただの足手まといなのだから。



「…!」

ウィルは絶句した。


黒焦げの兵士たちを見て腹が立った。


(どうして…?僕らは味方なのに…信じられないよ!)

ウィルはグロストに戦い方がいかに残酷であるかを知った。


皆が軍としての1つの組織であり、本来ならば団結し合っていかねばならないというのに、どうしてこのようなことになっているのか。


「ウィル、余計なことは考えるな!今は自分の仕事をしろ!」

「…はい…!」


(何でなんだよ…どうして?)


ウィルは知りたかった。

どうしてこんなことになっているかを。


ウィルはここで覚悟を決めた。


(グロストに会ってみよう……)





「戦場で兵士が瀕死だ!誰か助けに行ってやってくれ!」

「はっ!」


後方支援隊の兵士たちが戦場に出る。

戦場で倒れ、助けられる余裕が無い場合、こうやって後方支援隊の兵士たちが戦場に出て救出を行うことは珍しくない。

まだ幼い10歳のウィルは出してすらもらえないが、自分もいつか命を捨てる覚悟で戦場に出なくてはならない。




「頑張って!」


「死ぬな!」


後方支援隊の残った兵士たちの励ましの言葉と必死に助けようとする声が飛び交う。

ウィルもベテラン兵士と共に治療に専念する。


時々、武器等を届けに戦場に赴く者も居た。


そしてそのまま帰ってこない…というパターンも珍しくは無い。



「もう少しだ!」

そろそろ戦いが終わるようだ。


その言葉を聴くとウィルは安心する。

だが油断はしてはいけない、ラストスパートにかけて負傷者は減ってくるが、壁側は例外だ。



そう、グロストが居る。


彼の雷は最後の最後まで犠牲者を出す。

壁側の後方支援隊には休む余裕は一切ないのだ。




「撤収ー撤収ー」


撤収の声があがった。

戦いは終わったようだ。

軽傷から重症まで、多くの怪我人が訪れる。

最後の占めだ。


そして亡くなった兵士の供養を済ませ、ウィルは再び本部の前に立った。


「……よし…!」


ウィルは本部の裏の森に入った。





森の中は木々が元々弱い陽の光を更に遮断していて薄暗い。

生き物の気配がまるでしない。


するのは雷が弾ける音だ。

(…この音…あの人の雷の音かな…?)


バチッ

パリッ




(聞くんだ…どうしてこんなことしてるのか…ちゃんと理由を知れば分かるはず…!)


通行の妨げをしただけで怪我を貰うぐらいの暴君だ。

下手をすれば殺されるかもしれない。

それでもウィルはどうしても聞きたかった。



(そんな強い力を持っておきながら…どうしてなんだ…?)




一歩また一歩、雷の音のする方に近づいていく。




ウィルは弱い人間だった。

破壊軍を前に何も出来ずに身内を失ったのだ。


1人になって、路頭に迷い、中央地帯から北東部まで、破壊軍に特に追われながらやってきた場所。


壁を抜ける直前に見た平和軍と破壊軍の戦い。


そこで戦っていた兵士たちと、その将軍、ゴードスを見ていたウィルは強さと守る心に憧れた。


ゴードスが先陣を切り、仲間を守りながら戦い、仲間たちは援護を精いっぱい行っていた。


そんな仲間を守り合う力に憧れていたウィル。



ウィルは最初は、破壊軍を倒せる強さを持つグロストを凄いと思った。

だが、その力の使い方…それがどうしても納得いかなかった。


憧れる強さを持ってるのにどうしてなのか。

どうしても知りたいと思った。



(僕に出来ないことを…彼は出来る…それなのに…納得いかないよ…)








木をかいくぐって出てきた先には、黄色い竜人の姿。


伸びた濃い赤髪が靡いている。

しかし…



「…!」





「ハッ…ハッ…グウウウッ……」

グロストは蹲っていた。

とても苦しそうだ。

身体から電気が漏れている。

あの音はこの音だったらしい。



(か、関係ないよ、声かけなきゃ…!)


ウィルは声をかけようとした。


だが…


(…あれ…?)


ウィルの足は震えていた。

汗を大量に掻き、心臓の鼓動が早くなる。




あんなに話をしようとしていたのに、いざその姿を見ると言葉が何も出ない。



グロストは激しく息を荒げたまま蹲っている。


「オオオッ…グウウッ……グゥゥ…」



雷が空へ舞う。

激しい衝撃波と共に雷が周囲や上空を待っている。


身体もあちこちが黒ずんでいている。

どこかで見たことのある黒だ。


(……破壊軍の灰…?)


強い闇の負エネルギーを帯びた黒い灰だ。


グロストの荒い呼吸に呼応するかのように黒ずみも肥大していっている。



「グ…アアアアア…」


(なんで…そんなに苦しがっているの…?)


ウィルの心は少しずつ動いていく。


そしてウィルは一歩前へ。


前へ。


踏み出した。


この時ウィルは話を聞くことなど忘れていた。



“助けなきゃ”






ウィルはそう思っていた。






しかしその気持ちとは裏腹に


チッ


「……!」


雷がウィルの顔をかすった。

かすった場所が黒ずむ。


グロストがウィルに向かって雷を放ったのだ。

真っ黒な雷だ。


(気づかれてた…!?)


「……ハァ…ハァ……何の用ダ…!ココカラ…去レ!!!」

グロストの大きな声でウィルは圧倒された。


鋭い目がウィルを見る。



「……」(怖い…!けど…!)








「あの「去レといウのが…聞こえなイのか…!」


「うわっ!」


ウィルの目の前に雷が落ちる。



「ガッ…!」

グロストは胸を抱えて倒れた。

ズシンと大きな身体が地面に倒れ、うつ伏せになりながらもウィルを睨み続ける。


「…早く…去レ…!」


「…」


苦しむグロストを見て、ウィルにはもう何かを問いただそうという気はすっかり消えていた。


(この竜人は…)

ウィルは威嚇するグロストに脅えずに、手を差し出した。







「君を助けたい」









その言葉をウィルはグロストに言った。


「……」

グロストは驚いた顔でウィルを見る。


ウィルの真っ直ぐな目にグロストは何も言えなかった。





「………去れ…」

グロストの汗が止まった。

身体から漏れていた雷も落ち着いたようだ。


「でも…!」

「…二度とここに来るな。」


グロストはウィルの厚意を受け止めなかった。



「…」

ウィルはグロストに背を向けて戻ろうとした。だが、そこで足を止めて、もう一度振り向いた。



「明日も来るよ。」

「……」


ウィルはそう言い、ひとまず帰っていった。




「…なんだったのだ……」






(僕は知らなかった)







“グロスト?あぁ、あのろくでなしか。あいつはな、俺たち普通の兵士の事ゴミ同然としか思ってないんだぜ。”



“グロストは恐ろしい奴だよ…どれほど深い憎しみを持てばああなるんだっていうぐらいだ”


“知ってるか?グロストは俺たちの中では破壊軍よりも酷い奴だって言われてるんだ”


“良いよな、力があって強い奴は。なんでもやりたいほうだぜ”



“あんな奴、平和軍にはいらないよ”






(色んな話を聞いてきたけど…)









グロストは強くなんてない


何かが彼を苦しめている


それをウィルは知ってしまった





誰かを助けるために平和軍に入った

けどそんな義務染みたことじゃない



ウィルは思った





(やっぱり僕は彼の力になりたい、今僕が一番救いたい人だ、理屈じゃない)


理由は分からない。

ただ、この時ウィルはグロストを助けたいと思った。



強いけど弱い。そんな彼の力になりたい。

ウィルの覚悟はあっという間に強固なものとなった。





その後、森の奥からはいつものように激しい雷が轟音として森の中をこだましていた…




Episode9 END





~雷竜~









「ハアアアアッ!!!」


力の制御はあの頃から変わらない。まだ4割程度しか出せないこの力。


ただ昔と変わったところはある。

それは









この心から湧き上がる心地よくて苦しい“闇”だ。




「殺してやる…破壊軍…!まだダ…まだ足りん…戦わせろ……もっと来い破壊軍…!!」




真っ黒に染まった雷を纏いながらグロストは狂ったような目で呟いた

「殺してやる殺してやる殺してやる……」


ボソボソボソと何度も同じことを呟きながら、グロストは黒い雷をまとう。









「軍に蔓延る雑魚共が…!俺の邪魔をすることは絶対に許さん…!破壊軍もろともまとめて葬り去ってやる…!」


グロストの身体をあちこち覆う黒い灰はグロストの心までも黒く、黒く染めていった…






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