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小説概要に誤字があります。「家に居場所のなくても」→「家に居場所がなくても」――「人が見ていなくても、やるべきことをしっかりとやるのよ」、と言うのが母の口癖だった。
その言葉通り、母は誰に対しても何に対しても、しっかりと自分がやるべきことをやっていた。
男爵家の夫人としても仕事をこなしつつ、庭の手入れや家庭のことだって、しっかりとやっていた。
庭には色とりどりの花が咲き乱れ、母が世話をするだけで、急にどんな木々も生き生きとしだすのだった。
そして、そんな母が庭の苺から作ったジャムは、それはそれは優しい味で。
マリエッタは、母の味が大好きだった。
しかし、
「お父様、これはどういうことなのでしょうか」
マリエッタは愕然としていた。
目の前の屋敷の庭は、母が生きていたころとは全く違っていた。
あんなに素敵な空間が、ゴミの山と化していた。
「ああ」とマリエッタの父――セヴラン・ルメール男爵があっさりと言い放つ。
「場所を貸しているのだよ。新しい商売、というわけだ。幸いにも我が家の庭は、王都でも大きい。こんなに大きくても使わなければ意味がない。だから、貸してやっているのだ」
「……そんな!」
誰がどう見たって、ひどい光景だった。父は商売、と言っているが、体よくゴミを押し付けられただけではないのか。
あんなに暖かな空間が。あんなに心地よい空間が。
誰のものかわからない家具や、異臭のするガラクタで埋まっていた。
「お父様、もう新しい商売はやめると言ってくださったではないですか。それに、これではお母様が可哀そうで」
「今の母上は私よ、マリエッタ」ときつい声が飛んできた。
父の横にいるのは、マリエッタの義母――イザドラだった。
「亡き奥様には申し訳ないけど、せっかくお父様が商売を始めたのだから、応援するのが家族の務めよ」
「……でも、我が家の貯金も、もう尽きていて……このままでは……爵位返上も」
「だから、今こうして頑張っているんじゃないか」
セブランは大きく手を広げる。
「こうして事業が成功すれば、我が家もまた再び栄えることができる、というものだ」
でも、マリエッタは認められなかった。
母方から受け継いだこの屋敷は、この庭は、大事な思い出が詰まっていた。
母が流行り病で亡くなって、屋敷の侍女だったイザドラが義母になっても、誰も庭に興味がなくなっても、母の思い出を守ろうと、ずっと手入れを欠かしたことはない。
「それにな。実はいい話がお前に来ているんだ。本当は義妹のカサンドラに来ていたのだが、どうもカサンドラは行きたくない、と言っていてね」
イザドラもそれに続く。
「ルッツ伯爵から、我が家に手紙が届いたのよ。資金援助……をする代わりに、うちに来ないか、って」
「嫁げ、ということでしょうか。でも、お相手がカサンドラに手紙をお渡しになったのであれば、私が行くのは筋違いだと思いますが……」
マリエッタはなお言い募った。
「それは、お相手の方にも失礼に当たると思いますし」
たしかに、義妹のカサンドラは美しい。
いつもキラキラしていた。
マリエッタは自分の手を見た。
ガサガサな肌、あかぎれ。
正直、何度も手入れをしたいと思ったことがある。
でも、結局諦めた。
家計は火の車だし、現在お金がなく没落しかけているルメール男爵家にとっては、肌の手入れをすることすらはばかられる。
誰よりも家計を知っているマリエッタは、どうしても自分を後回しにしてしまいがちだった。
「大丈夫です。ルッツ伯の領地はここから遠いんでしょう? 一度も会ったことはないし、私の代わりに、お姉さまが行ってもバレませんって!」
両親の後ろで、可愛らしい義妹はにっこりと微笑む。
「それに、良くない噂ばっかり聞くんですよ。ルッツ伯って。『奴隷の子供を買って地下室で切り刻んでいる』とか」
「そうそう。そんな胡散臭い男に可愛いカサンドラをむざむざ渡す必要はない。なにせ、カサンドラには、もっと良い婚約がきっとあるはずだ」
だからマリエッタ、とセブランが続ける。
「お前が行きなさい。お前もいっぱしの貴族の令嬢なんだ。最悪、入れ替わりがバレたとしてもいったん婚約が成立し、初夜さえ終わらせてしまえば、こちらのものだ。相手の不義理だ、といって財産の分与だって狙えるかもしれない」
「あ〜、そうなったら、私、もっとドレスを買おうかしら」
「あらもう、カサンドラったら。あなたこの前も新しいドレス買ったでしょう」
楽しそうに話す三人。
でも、この中に自分は入っていない。
――ああ、なるほど。そういうことだったんだ。
やっとマリエッタは理解した。
最初から自分が家を出るのは決まっていたんだ。
「わかりました……」
でも、言わなきゃ。
これだけは言わなくては。
「……でも、庭をこんなにしては母が可哀そうです。お金が入ったらでいいので、少しだけでもいいので、庭を綺麗にしてあげて――」
パァン、という乾いた音が庭に鳴り響いた。
くださいませんか、という言葉は発することができなかった。
――マリエッタの頬がじんじんと痛む。
「お前もうるさいぞ。庭だのジャムだの金にならないことを、いつまでもいつまでも! お前の作るジャムは、ほとんど味がしないではないか。だいたい、家の掃除だの家計だのどうでもいい小さいことばかりに拘りおって!!」
ぶたれて倒れるマリエッタを、助けるでもなくクスクス笑う義妹と義母。
倒れた先には、大量のゴミに押しつぶされた、苺。
――まるで、今の自分みたい。
マリエッタは力無く笑った。
初の企画もので、楽しみです!
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