旅立ちの夜
冬が明ける頃、とある日の真夜中に一匹の老いた猫の側で今日も青年は布団に包まって眠る。
雲一つない空、三日月が白い光を放っている静かな夜。青年の側で眠っていた猫はその目を開いた。
そしてゆっくりと立ち上がると力を振り絞って窓へ飛び乗り、白く光る三日月を見つめた。
あなた、私をとても愛してくれたわよね。
私もよ、あなたを愛しているわ
途端、猫の姿が青白い光に包まれたかと思うと、その中から齢18くらいの黒いワンピースを着た一人の少女が現れた。
白い肌に大きな目、赤い唇の美しい少女だ。
だが、普通の少女ではない。長く白い髪に金色の瞳。耳の先は猫のようにとんがっている。
少女はゆっくりと青年に近づいていく。静かに寝息を立てる青年は相変わらず眠ったままだ。
そんな彼を見て、少女はにっこりと微笑んだ。
私、一人でいくのはとても怖いの。
でもあなたがいたらきっと大丈夫な気がする。
あなたが私を守ってくれるでしょう?
少女は青年の被っている布団を剥ぎ取ると、その細い首を白い手で覆う。そして再び微笑んだ。
だから、愛しいミホシ様。
一緒に逝きましょう?
そう言って少女が手に力を込めようとした時。
小さい声で唸りながら、青年が寝返りを打った。そして閉じていた瞳を半分だけ開いて寝ぼけ眼のまま、驚いて目を見張る少女を見上げる。
ミホシ様は驚いて起き上がるに違いない。
少女は焦った。何しろ、真夜中に見知らぬ少女が自分の首を締めようとしていたらどうだろう?
おそらく本人にとっては恐怖に違いない。悲鳴を上げて逃げていく。少女はそう思った。
だが、少女を見た青年は微笑んでいた。
「あれ?起きたの?今日も一段と可愛いね、ユキ」
青年の首に添えられた少女の手の上に青年は自分の手を添えると、そのまま再び瞳を閉じて寝息を立て始めた。
少女は唖然としていた。だが直後、少女の大きな瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
ああ、なんだ。
あなたはどんな私でも分かってくれるのね。
気づいてくれるのね。
バカだわ、私ったら。
少女は溢れる涙を両手で拭うと、今度はそっと、すやすやと眠る青年の頬に手を添えた。青年の温かいぬくもりが伝わってくる。
少女は微笑んだ。
愛しているわ、ミホシ様。
私を拾ってくれてありがとう。
私、幸せだったわ。
必ず生まれ変わってあなたに会いにくるから。
どうか、私を見つけてね。
少女は最後に大きな涙を流すと、再び白い光に包まれた。そして光が消えた時にはもう、少女の姿は無く、代わりにすやすやと眠る青年の横に息絶えた老いた猫が横たわっていた。
その猫の閉じられた瞳には小さな雫が浮かんでいた。
あと1話投稿予定です、少しお待ち下さい。




