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WooTober異世界に立つ  作者: 石の森は近所です
サラエルド編
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第17話、魔族

 店主のくぐもった声が店内に広がる。

 店主の忠告を無視してドアに触れた瞬間――バチッ、と手は何かに弾かれた。

 何を言っているのか理解できないだろう。俺にも良くわからない。でも、扉に手を触れると濁流の中に手を突っ込んだように落とされるのだ。


「無駄だよ。ケガする前に諦めな」


「おい、婆。これは何のマネだ!」


「そこの冒険者も動くんじゃないよ。何もあたしは捕って食おうって言ってる訳じゃないんだ。あんたらはさっきこの坊やが言った事を与太話だと思ったようだが、あたしからすれば実に三百年待った客が舞い込んだ事になる」


「はぁ、三百年ぶりの客だぁ、おい、婆、何を言ってやがる」


 雲行きが怪しくなってきた事もあり、俺はこの場から逃げ出す選択をする。しかし、何度やっても、扉に手を掛けた瞬間にたたき落とされた。


「そこの坊やも観念しな。まぁ、気持ちは分からなくもないがね。まぁ、紅茶くらいは出そうじゃないか。隣の部屋へおいで」


「おい婆、俺の話は終わっちゃいねぇぞ!」


「坊やを連れてきてくれたんだ。あんたらにも聞く権利くらいはあるさぁね」


 店主はカーテンを捲り奥の部屋へ入っていく。キグナスに視線で先に行けと合図され、俺も後に続いた。この場から逃げ出したい心境だが、物理的に出られないものは仕方がない。意味深な言葉の意味にも興味はあるしな。

 カーテンを捲り中に足を踏み入れると、空気が一瞬だけ変わった気がする。

 微弱な変化に戸惑い足を止めた。


「驚かなくて良いよ。この部屋は邪気を通さない結界が張ってある」


「はぁ、今感じた違和感が結界だって?」


 キグナスが呆けた声をあげる。結界を張れるって事は、この店主も魔法師で間違いない。一体何者だ。この店主。帽子を取らないとよく分かんねぇな。


「それじゃ、さっき扉に掛かってたのも?」


「あぁ。隣の部屋はここより強力な結界を施した。坊やには聞きたい事が山ほどあるからねぇ」


 窺うような視線を向けながら、店主はテーブルを挟んで奥の椅子に座った。

 俺たち三人は手で指し示された通りに、店主の向かいに腰掛ける。

 腰掛けてこの部屋の異様さに気づかされる。店主の背後の棚には、すり鉢や、フラスコ、さまざまな草が置いてあった。この空間だけ清涼感に似た空気を感じる。もしかしたらあの草の中にハーブも混ざっているのかもしれないな。

 そんな事を考えていると、キグナスが口を開いた。


「さっきの話はどういう事だ」


 キグナスが問いかけるが、店主はキグナスではなく、俺に視線を向けた。


「そうさねぇ。そっちの話より坊や、よく聞きな。慈愛の女神様の名はチョコナリーナ様だ。オチョクリーナと呼んだのは、あたしが知る限り――魔族だけだよ。坊やはどこでそんな名前を吹き込まれたんだい」


 WooTobeに騙されたのか。いや、それはない気もするけどな。

 そもそも、名前を偽る必要性を感じない。もしかして、運営のシャレとか?

 それだと、かなり寒いダジャレだな。

 でもそう考えると、なぜ魔法は発動したのかって事にならねぇか。


「えっと、チョコナリーナ様ですか。でも、魔法は発動しましたよ。なんで?」


「今、聞いているのはあたしだよ。坊やが異世界から迷い込んだ話は本当だろう。その上で、誰からその名を吹き込まれたのかを聞いているんだ」


 こっちの質問は無視かよ。


 三角帽子の下からのぞく瞳が俺に突き刺さる。やべぇ。この人、目が据わってるよ。ここでいい加減に返答したら、ここから出られないかも……。

 ウソは許さない。真実のみを話せと言われてる気分だ。


 リスナーも変な名前だって言ってたな。やっぱりウソかよ。でも、店主の言った事が本当なら、運営の中に魔族が居るって事にならねぇか。

 それよりもだ、この世界の住人に動画配信とか、ポイント交換とか説明して分かるのかねぇ。分かる分からねぇじゃないな。

 妙案が浮かばなかった俺は、日本で大衆に娯楽を提供する伝道師だと話す。その見返りにポイントを取得し、稼いだポイントで魔法を取得したと説明してみた。


「タケ、おめぇの言ってることが全く理解できねぇのは、俺がバカなのか。それとも、おめぇの言う世界が飛躍してやがるのか。どっちだ?」


 キグナスには相変わらず分かってはもらえない。

 それは日本で暮らしていて、株や為替の仕組みを説明しても理解できないのと一緒だろう。実際に試してみないとその効果はわからないものだ。


 だが、この店主は違った。


「ふむ。なるほど……興味深いねぇ。坊やはこちらの世界の演劇場の役者で、客に演技を見せる対価として魔法を教わったって事か。あたしに言わせれば、迷い人が持つ膨大なマナがあって、教養さえ身につければいくらでも魔法を覚えられると思うがね」


 俺の拙い説明をこの店主はかみ砕いた。

 キグナスとアリシアは難しい顔で店主の話に聞き入っている。


「だが、あたしが聞きたいのはそれじゃない。その大元だ。あんたに魔法詠唱を教えたのは誰かと言うことさね。その理由はさっき話したね」


「えっと、魔族が女神様を呼ぶ呼称だからですか……」


 何だか話がおかしな方向に向かいだしたぞ。そう思いながらも、もう後戻りはできない。俺は店主の唇が歪んだのを見つめながら返事を待った。

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