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8.繰り返されるおっさん


 おっさんの跡(あと)が無くなった部屋は、おっさんがここに生きて存在(そんざい)したことなんかまるで無かったかのようになっています。


 数週間(すうしゅうかん)もすると、「旅人」以外(いがい)はおっさんのことを忘れました。

 同じ学校に通(かよ)っていた人も、一緒に仕事をしていた人も、部屋を貸(か)していた人も、誰もおっさんのことを覚(おぼ)えていません。



 そんな中で「旅人」はおっさんを雇(やと)っていたおっさんを見つけました。

 そのおっさんは「競争」からはずれたおっさんではなく、「競争」で勝(か)ち残(のこ)っている「強いおっさん」です。


 「旅人」たちとは似ていないこの「強いおっさん」でしたが、おっさんと同じようにお酒を飲むと上機嫌(じょうきげん)になります。

 おかげであのおっさんのことを思い出してもらえました。


「ああ、そんな奴もいたな。

 顔はブサイクで話し方も下手(へた)くそで仕事の要領(ようりょう)も悪(わる)くて、

 怒鳴(どな)るとすぐに縮(ちぢ)こまって、それでもへらへらしているおかしな奴だった。

 会社(かいしゃ)の経営(けいえい)も厳(きび)しくなったからな。

 まっさきにあいつを追(お)い出してやったのさ。

 あれじゃあどこの会社(かいしゃ)でもやっていけないだろうな」


 笑ってそう話す「強いおっさん」の言葉を「旅人」は少し嫌(いや)な気分(きぶん)で聞いていました。

 けれど「旅人」はおっさんのことを覚(おぼ)えていたものがいて、ほんの少しですが、わずかばかり嬉(うれ)しくもありました。



 ところで、この話を「旅人」以外にも聞いていたものがいたのです。


 そのものはおっさんのことなど知りませんでしたが、「強いおっさん」のことを疎(うと)ましく思っていました。

 そしてこの話をたくさんのおっさんたちに言いふらしたのです。


 すると「強いおっさん」はたくさんのおっさんに責(せ)められはじめたのです。


 「強いおっさん」は強(つよ)かったので初(はじ)めは噂話(うわさばなし)など気にもしていなかったのですが、それがおっさんたちやおっさんの種から気に入られませんでした。


 さらに責めてくるおっさんが増えたました。


 「強いおっさん」の強(つよ)さがどんどんと剥(は)がされていきます。

 「強いおっさん」の強さは「競争」で勝(か)つだけの強さで、おっさん本人(ほんにん)は強くなかったのです。

 「強いおっさん」の強さにだけ関心があったおっさんたちはすぐに離(はな)れて、いなくなります。


 分厚(ぶあつ)かったメッキもあっという間になくなって、本来(ほんらい)のおっさんが表(あらわ)れただけでした。

 「強いおっさん」はもういなくなり、「競争」に負けたおっさんになりました。




 「旅人」は強かったおっさんに質問(しつもん)をします。


「顔の良し悪し(よしあし)はわからないけれど、

 話し方も上手(上手)で仕事の要領(ようりょう)も良くて、

 怒鳴(どな)られても平然(へいぜん)としていて、たくさんのおっさんの「競争」でも勝っていた。

 それならどこの会社(かいしゃ)でもやっていけるんじゃあないのかい。

 でも誰もあなたを必要(ひつよう)としなかったのは、どうしてだい?」


 しかし強かったおっさんは「旅人」の質問(しつもん)に答(こた)えられません。

 部屋の中でぶらぶらと、揺(ゆ)れているだけでした。




「最初(さいしょ)に居なくなってしまったおっさんは僕らに似ていた。

 けれどここは「競争」で負けたあのおっさんにも僕らにも生き辛(いきづらい)い星だ。

 「競争」で勝っている強いおっさんだって、たくさんのおっさんが動けばすぐに「競争」からはずされてしまう。

 おっさんたちはそんなあやふやな強さを得(え)るためだけに「競争」をさせられているんだ」


 この星には住めないとふんぎりをつけた「旅人」は、新たな星を探(さが)しに旅立(たびだ)ちました。


 今となっては遠(とお)く離(はな)れてしまった故郷の星を思えば、この長(なが)い旅も苦(く)ではありません。


「この広い宇宙(うちゅう)なら、必(かなら)ず僕らにも住みやすい星があるはずだ。

 ちょっとくらい不便(ふべん)でも、生まれた星よりも暮らしやすい星がきっとあるはずだ」


 「旅人」は自分たちの住みやすい星をいつまでも探し続けました。



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