王サマ、それが一番堪えます……
!魔王城:玉座の間
「というような感じで……警備隊員の8割以上を吸い尽くしてしまって……」
「ヤリすぎだ!!警備隊の8割以上ってどんだけだよ!?」
サタンの供述に目玉が飛び出るほど驚く。もちろん、飛び出るような目玉は持ち合わせていないので、そこはあくまでも比喩表現だが、流石につっこまずにはいられなかった。
「三日三晩に及ぶ連戦だったから、出勤してきた隊員が順繰りに、って感じで。小娘にやられっぱなしでいられるか!って応援を呼ぶ奴がいたり……一部じゃ「今詰所に行けばGカップがタダでお相手してくれる」なんて話まで出回っていたみたいで……」
概ね間違ってはいないんだろうけど。そんな噂話に乗せられた輩はタダより高いものはないと学んだことだろう。
サタンが話している間に正座に戻ったさっきゅんがおずおずと上目遣いで見上げてくる。
「……まぁ、サタンの名誉のためだったってことか。悪気があったわけじゃないだろうし、反省もしてるみたいだから今回は大目に見てやるよ」
正座を算盤責めにレベルアップしてもコイツのことだ、喜ぶだけとゆーオチは見え見えだ。首に提げた「反省中」のプラカードも最初はふざけているのかと思ったけど、本気でふざけているならプラカードなんて使わないはずだ。「ヤりすぎました。ゴメンなさい」とか、あるいはもっと直接的な猥語が肌に直接書き込まれていただろう。そんなの、確実に小夜曲行きである。
欲を言えば。俺の名誉のためにも激昂して欲しいところではあった。俺が蔑まれている話を直接聞いているようではなかったが、それでもやっぱり、少し寂しい。
「サタンももっと早くに止めに入れよな」
一応魔王代行という立場にある以上、軽々には動けなかったのかもしれないが、それでもサタンは止めなければならなかった。サタンの名誉のために大立ち回りを演じてみせたさっきゅんを当のサタンが止めに行けばそれはそれで余計にややこしい話になったかもしれないが。
「あぁ……なんかもう、沙汰を下すのも、何もかもが面倒くなってきた……さっさと軍勢出して終わりにしよう……」
!魔王城:正門前
「安息を求める者たちよ
静穏よりもっとも遠き同胞よ
今こそ集いて曙光を拒め
――――誰そ彼の呼ぶ声」
祟られた杖から溢れた魔力が荒野に巨大な魔方陣を描いてゆく。
骸骨の軍勢は死霊王の支配下にある骸骨たちの総称であり、言ってみれば俺の私兵団。誰そ彼の呼ぶ声はその全軍を招集する専用召喚魔法だ。そうこうしているうちに魔法陣からは続々と骸骨が溢れ出してくる。
祟られた杖を一日のうちに二度も振るう羽目になってげんなりしている横で、さっきゅん(正座)が目を輝かせていた。
「こっち見んな。涎垂らすな」
軍勢の個々の戦闘能力は総じて低い。警備兵と渡り合えるだけの力を有しているのはその極々一部でしかない。大半は豹の伝令官にさえ敵わないだろう。骸骨と言うと不死のイメージを持たれるかもしれないが、依代を破壊されれば大抵は戦闘不能に陥る。骨を砕かれてもそれを再構築して骸骨として活動できるほどの力を持つ者は軍勢にも二人しかいない。極一部の特例を除いて、そのほとんどが存外に脆い存在なのだ。
その代わり、軍勢の規模は魔王城警備隊の比ではない。戦士、射手、魔法使いに吟遊詩人……非戦闘職の者の方が多いが、その職種は多岐に渡る。そもそも彼らの元の姿からして、人、獣、魚、悪魔、竜と、流石に天使や神はないが、そちら方面を除くあらゆる種族から集って来ている。果てて、朽ちて、迷った末に、死霊王の下へと辿り着いた、全ての命と骨のある者たちのなれの果ての寄り合い、それが骸骨の軍勢なのだ。
「……俺、有休取ってるんッスけど?」
「軍勢にゃそんなもんねぇよ」
軍勢の筆頭戦力、骸骨騎士が不平を口に出していたが、当然却下。大ボスのくせに有休なんか取ってんじゃねぇよ。
そして眼前ではスカル・バロルが吠えていた。お声がかかったのがよっぽど嬉しかったらしい。鬱陶しいことこの上ないが、あれでも貴重な戦力だ。
「んじゃ後の細かいことは骸骨騎士に任せた。俺はもう、当面働かない」
骸骨騎士「これじゃぁ俺、平常営業と変わらないッス……トホホ」
さっきゅん「……あたしが慰めてあげよっか?」
サタン「自重しろ」
骸骨騎士「ところで今回の騒動でさっきゅんとほとんどの警備隊員たちとの間では格付けが済んだって思っていいんッスかね?」
さっきゅん「格はともかく、レベルはあがったよー。王サマには報告しそびれちゃったけど、新しい技も覚えたし。この新技はすっごいよ~!」
骸骨騎士.。o0(あ、コレ絶対ロクでもない技だ……)




