なるほど、それでまーくんは
!特設会場
「レディース&ジェントルメェェーン!!お待たせ致しました!遂に!本大会事実上の決勝戦とも噂される注目のカードです!先ずはこの人、悪魔族の中の悪魔!数知れぬ魔術を巧みに操り、先程はバロル選手と凄惨な死闘を演じてみせました。サタン選手ーっ!」
歓声に沸く観客席に手を振って応えるサタン。その傍らには3つの光球が浮いている。恐らく相手の速攻に備えての支援魔法を待機させているのだろう。ちゃっかりさんだ。
「そして対するは「どうせ真面目にやる気は無いだろうし、試合数は少なくていいんじゃね?」と実行委員会もぶっちゃけちゃった!武芸全般、武器の扱いなら爪楊枝からICBMまでなんでもござれ!……で、ICBMって何だ?!骸骨騎士選手ーっ!」
豹の解説者が指し示した選手入場口から骸骨騎士が、現れなかった。
「えっ?あれっ?骸骨騎士選手ーっ?」
返事がない。ただの――
「ハーッハッハッハー!!」
ただの目立ちたがりのようだ。高笑いは観客席の上の組合わせ表の更に上から高らかと響いた。なにやら長物を振り回した挙句、よく分からないポーズを決めた後、リングへと飛び降りた。その出で立ちに会場中の人間があっけに取られる。
萌黄に深緑のラインの入ったとんがり帽子。
煌びやかな金刺繍の縁取りの漆黒の法衣。
先端に宝玉を咥え込んだ金属質の錫杖。
近接戦闘のエキスパートは何故か魔術師スタイルでキメていた。
「……いろいろと突っ込みたいところが多々あるんだが何をさておいてもまずは一つだけ確認したい。骸骨騎士、それ、漆黒の法衣だよな?」
「Yes!」
「陛下から借りたのか?」
「Yes!Yes!Yes!!」
「陛下ぁぁぁーっ!なんてことをーーっ!?」
漆黒の法衣――レアリティ:LE。物理防御、並。魔法防御、激高。各種属性防御、最高。
魔法攻撃に対して鉄壁の防御性能を誇る逸品だ。厳密に言えば無属性魔法や物理特性を備えた魔法、打ち砕く一撃とか隕石衝突とかは結構通っちゃうし、転移魔法や状態異常魔法には防御効果自体が無い。それでも多くの魔法攻撃をシャットアウトするその防具は、サタンを始めとして魔職では俺に太刀打ち出来ない一つの大きな、割りと根本的な理由である。それを今、骸骨騎士が着用している。
「それでまーくんは今日はその服だったのね。何のコスプレかと思った」
りゅーやんはなるほど得心がいったという顔だ。
確かに漆黒の法衣以外の衣装に腕を通すのはどれだけ振りか知れない。それにしたってコスプレって……
なお、現在の装備は王者の短外套以下、王者シリーズのコーディネート。普段着の王者の宝冠も本来このシリーズのものだ。
「問題は魔術師スタイルが先か、漆黒の法衣が先か……やっぱ前者なんだろうなぁ……」
ズバリ正解である。正確には「ロード~。面白いコト思いついたんで漆黒の法衣貸してほしいッス」だった。
リングの上では前哨戦が始まっていた。前哨戦と言えば聞こえはいいがその実はサタンによる一方的な突っ込み&ダメ出しだった。
「魔法も使えないのになんで魔術師スタイルなのだ?」
「これまでにない戦闘スタイルを追及した結果ッス」
「いや、世の中には棒術とか普通にあるから。そしてその力の錫杖なんだが、int依存武器だからお前が装備してもほとんど攻撃力が無いぞ?」
「耐久値で選んでいるからその辺の細かいところはまぁ、どうでも」
たとえ武器自体の威力が低くても扱う者次第でそれは十分立派な凶器となる。爪楊枝やぴこぴこハンマーならいざ知らず、それなりのサイズと硬さを具えた得物で、しかも扱うのはあの骸骨騎士だ。その力の錫杖が決して軽視できないものであることはサタンも十二分に理解していたが、それでも思わずにはいられなかった。
「完全に舐めてるだろう?」
「そういうわけでもないッスけど……まぁ、漆黒の法衣の分のハンデだとでも思ってもらったら」
「……後悔しても知らんぞ?」
「しないッスよ?」
骸骨騎士が不敵に笑う。
「やってみるか?」
「望むところッス」
かくして。戦いの火蓋は切って落とされた。
開幕早々、サタンは待機させていた支援魔法の一つを解き放つ。
鋼鉄の双腕――自身の身体に鋼の如き物理防御を付与する支援魔法鋼鉄の身体、その調整版だ。効果範囲を両腕に限定したことで防御効果はかなり薄くなっているが、逆に機動力の犠牲を最小限に抑えている。その機動力を活かせば防御だけでなく、攻撃にも回ることができ、本家よりも使い勝手は数段上だ。まずは攻防一体の一手をその身に下したサタンに対して骸骨騎士は、まさかまさかの――
「……封ぜられしものよ!その役目を全うせんと、長き時の果てまで耐え忍ぶものたちよ!」
「詠唱だと!?」
攻撃魔法を持たないはずの骸骨騎士が呪文を唱えていた。それも、ありとあらゆるの魔法の知識を持つサタンが見たことも聞いたこともないパターンだった。未知のものへの恐怖でフリーズするサタン。その前後左右と上方、全方位から計5つの魔法陣が取り囲む。
「……積年の恨みを今ここに解き放つがいい!雪崩れ込む報復っ!!」
輝いた薄紫色の魔法陣から大量の書物が溢れ出し、瞬く間にサタンを呑み込んだ。
雪崩れ込む報復――それは多くの賢者たちを葬り去ってきた厄災。蓄積した知識は活かされることも無くただただ積み上げ続けられると、遠からず限界に達し、崩壊し、その主を襲うのだ。あぁ、なんたる悲劇!
「た、ただの転送魔法ではないかーーっ!!」
奈落の烙印を宿して、サタンの怒りに火が着いた。怒気が書物を吹き飛ばす。その多くはサタンの肌に纏わりついた炎により燃え上がっていた。
書物の山から抜け出したサタンはすぐさま反応する。
「っ?!鋼の防護壁っ!!」
サタンが急遽展開した防護壁に力の錫杖が突き立てられた。が、貫通特性に対して特に抵抗のある鋼の防護壁との衝突の結果砕け散ったのは力の錫杖の宝玉の方だった。転送された書物が足の踏み場もないほどに広がり、骸骨騎士の突進力を僅かながらに奪っていなければ防護壁展開は間に合っていなかったかもしれない。
どれほどの攻撃力を有していたかは結局謎のまま、ただの棒切れと化した力の錫杖を捨てて別の武器を手に取り、振り下ろした。それをサタンは眼で捉え、認識してはいたが、反応できなかった。
コイツ、そこまでやるか――
そこまで徹底するのか――
骸骨騎士の徹底っぷりは脱帽もので、賞賛ものだった。
呆気にとられたサタンはその凶悪な鈍器による一撃をまともに食らってしまった。
痛恨の一撃!!
骸骨騎士が振り下ろした豪奢な装丁の魔術書がサタンの脳天を直撃!!
38のダメージ!!
ロード「なんだ、ただの転送魔法による物量任せの攻撃か。ちょっとときめいてしまった自分が恥ずかしい」
豹の解説者「でも日々戦い方を研鑽する骸骨騎士さんのことですから、ひょっとしてひょっとするのか!?って、期待してしまいますよね。かく言う私も恥ずかしながら思わず息を呑んで見守ってしまいました」




