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『79Tragedies, Lord Perish talks/ペリッシュ卿の語る、79の悲劇』(初版)
サタンを襲った魔術書には多くの魔術と、それらに関わる悲話が綴られている。魔法がもたらした悲劇、悲劇の末に生まれた魔法。その全てが陰鬱だとは決して言えないが、その全てに一切の救いはない。その重みに耐えられない者には魔術――特に呪術と呼ばれる分野の才能はないと言われている。
その説に従うなら、悪魔族の長であるサタンにも呪術の才能はないということになる。あまりにも重い一撃にサタンは前のめりに倒れ、書物の山の最中でワンバウンドし、地に伏せった。その頭頂部からは、装丁の金具で切ったのであろう、血飛沫を舞い散らせながら。
サタンに痛恨の一撃を見舞ったその書から、今は一節だけ紹介しておこう。
”ジャスティはその一撃で勝利を確信した。
自分のこれまでの人生で最高の一撃であることは疑いようがないと思われた。
だが結論から言えば彼は、さらなる高みを目指すべきであった。
――それが、彼の人生で最高の一撃となってしまったのだから。”
そもそも骸骨騎士はサタンをブ厚い本で殴り倒すことしか考えていなかった。それ、やってのけたらウケるんじゃね?と。ただそれだけを考え、そのことだけに全身全霊を傾け、後のことは何も考えていなかった。力の錫杖による突撃を鋼の防護壁で阻まれた瞬間などは、「ちゃ~んす!脳天ガラ空きじゃん!」としか考えられなかった。それほどの精神集中があったからこそ、その千載一遇の機会をきっちりと掴み取り、誰も想像だにしなかった一撃をサタンという強者に見舞うことができたのだ。自己課題、完遂である。
しかしそれでも彼はそこで満足してはいけなかった。どうせならばそのまま撲殺するくらいの意気込みで望むべきだったのだ。
この上ない達成感に酔いしれ、狂ったように高笑いをあげる骸骨騎士。その足首をサタンがひっ掴んで投げ飛ばす。痛恨の一撃とはいえ、所詮は38ダメージだ。カウントに入る間もないまま、サタンの反撃が始まった。宙を舞う骸骨騎士に追い打ちとばかりに放たれた二重の衝撃3連発が、その長身を捉える。2x3=6発の衝撃波の一つが頭蓋骨を直撃し、いとも簡単に胴体から吹き飛ばす。しかしそこは腐っても骸骨、首が落ちた程度ではそう簡単に死にはしない。それどころか、その衝撃を利用して空中で体勢を立て直した。リングの反対の端まで飛ばされたが、実質的なダメージはほぼない。着地を決めたその背後で頭蓋骨が乾いた音を立てて転がる。
「あっ?!」
「おっ!?」
残念ながら頭蓋骨の方は着地を決められず、リングの外へと転がり落ちていってしまった。
「場外!サタン選手の勝利です!」
!選手控え室
「決勝進出、おめでとうございます。サタンさん」
「おぉ、そなたから祝辞を貰うとは思わなかったぞ」
準決勝の後、クールダウンしていたサタンの元をUW-54Pが訪れた。
「勝ったとは言え、あれほど遊ばれてしまってはな。立つ瀬がないよ」
魔王城にいると忘れがちだが、サタンは悪魔族を束ねる男だ。事と次第によっては彼が魔王を務めていてもなんら不思議はないのだ。人脈など彼の方が魔王本人よりもふさわしい部分だって少なからずある。そんな抱えるものが多いサタンだから、彼は自分の立場や面子には人一倍気を遣う。要所要所でその実力を誇示しておかないと、悪魔族内部から”骸骨に付き従う男”と謗られもする。
「今頃、私は本で殴り倒されるような軟弱な輩だと方々で言われているのだろうな」
それどころか、悪魔族の長を殴り倒した武器は現時点で既にジストピアの全書店から一冊残らず姿を消していた。初版よりは明らかに攻撃力の劣る廉価版に至るまで一冊残らず、だ。風評とは恐ろしいものである。
「骸骨騎士がアレを選んだ時点で私に勝ちはなかったのだな」
「まだ、エクストラ・マッチという見せ場があるじゃないですか」
「それも陛……ミスターXにいいように遊ばれる気がしてならないよ」
サタンが自嘲気味に笑う。
「……それでは本気でやりあって骸骨騎士さんに負けた方が良かったですか?」
「そうは言わないさ」
骸骨騎士と本気でぶつかり合っても負けるとは思っていないが、しかしそこに大会ルールが加われば話は変わってくる。むしろ、逆転する。そしてそれは全くもって気持ちのいいものではない。
そもそも。いくら魔族がどいつもこいつもお祭り騒ぎのやんちゃ騒ぎが大好きだとは言っても。魔王の右腕と左腕が本気でぶつかり合っていいわけがないのだ。そう考えると――
「――譲って……もらったのか?やっぱり……」
思い当たった考えをUW-54Pの言葉が後押しする。
「骸骨騎士さんだって、やりたかったでしょうね。エクストラ・マッチ」
それは……そうだろう。お調子者で目立ちたがり屋で戦闘狂の彼が、陛下と仕合う機会をみすみす棒に振るだろうか?考えれば考えるほど、裏が見えてくる。仕組まれていた感が増しに増して一向に拭えない。
そうだ、そもそも組み合わせがおかしい。何故あの試合は事実上の決勝戦などと言わずに本当の決勝で当たるようになっていなかった?あんなふざけた試合が決勝で許されるはずがないからに他ならないではないか!
恐らく骸骨騎士は自分たちが不毛な争いを繰り広げることを良しとしなかったのだろう。ひょっとするとそれを良しとしなかったのは陛下かもしれないが、それはこの際どちらでもかまわない。事を穏便に済ますならどちらかが引かねばならない。それが、引くことが出来たのは、骸骨騎士しかいなかった。だから彼はしっかりと会場を沸かせた上で、精一杯の当て付けをして、舞台を降りたのではないか?
「……ならば。せいぜい骸骨騎士が悔しがるような試合をせねばなるまいな」
「そうですね。私も期待しています」
UW-54Pの光の膜が一際強く輝く。
「それはそうと、陛下から伝言です」
「あぁ。なんだ、やっぱり何か用事があって来たのだな」
「はい。そのままお伝えしますね。「今からちょっと特訓しに篭るから。代行よろしく~」メッセージは以上です」
もう本人なんじゃないかというくらいそっくりな声真似で更には本人さながらの軽い調子で魔王業務は委任された。
「特訓って、何のだ?!」
!無人の選手控え室
UW-54P「サタンさんほどのintがあっても……」
UW-54P「……あっさりと騙されるんですね」




