救援の刹那
転移の光が消えると同時に、冷たい風がアーシェの杖の鈴を撫でた。
辺りを見回すと王都の方向に向かって血痕が地面に残っていた。
おそらく、イオナの血液だろう。
顔を戻して前を向くと、視線の先には二人の男の姿が見える。
イオナのパーティーメンバーだと、アーシェはすぐに理解した。
血を流しながらも剣を構えて立つ金髪の男と、膝をついてもう動けなさそうな男。
その二人の前には、イオナの情報通りのアンデットが余裕そうに立っている。
「カイ、ヴァルを呼んで」
「かしこまりました」
アーシェの指令でカイはポケットから竜笛を出し、空に向かって吹いた。
その直後、風で木が大きく揺れて上空には大型の竜が大きな羽を羽ばたかせながらゆっくりと着陸した。
「お呼びですかい?お嬢」
「カイは二人をこっちに避難。ヴァルは怪我人二人とカイが乗ったら上空へ」
「「はい / 了解っす」」
「じゃあ、始めよっか」
アーシェがフッと笑うと同時にカイは二人の元へ走っていった。
使い魔のヴァルは、カイが乗りやすい体勢かつすぐ飛べるように体勢を整えた。
アーシェが杖の鈴を鳴らすと、目の前に複雑な魔法陣が浮かび上がった。
カイが二人を連れてこちらに走ってくるのを確認したアーシェは、静かに呟く。
「灰の理、刹那に裁け───」
アーシェが唱え終わると同時にヴァルの背中に乗ったカイたち三人は、上空へと避難。
男たちが相手にしていたアンデットは、鎖と光に包まれて灰となって宙に舞った。
アーシェの合図でゆっくりと着陸したヴァル。
カイは両腕に二人を抱えてヴァルの背中から降りた。
「はい、これ食べて」
「これは?」
アーシェはギルド受付嬢のサリナに預けたものと同じ巾着袋をポーチから取り出して、男たちに差し出した。
男たちは不思議な目で見ながらも、渡された飴を口に放り込んだ。
すると、男たちのさっきまでの傷が嘘のように消え始めた。
アーシェは顔には出さないが、十分な効果を目の前にして内心大変満足している。
「イオナさんは無事だよ。ユリウス殿下」
「ユリウスでいいと昔から言ってるだろ?」
他人行儀なアーシェに、ユリウスは優しく笑った。
十年前、アーシェが王都に来て初めてできた友人がユリウスなのだ。
未だ身分を気にしているのか、アーシェは中々ユリウスのことを呼び捨てで呼ばない。
それでもユリウスは、いつも優しくアーシェに接する。
「君はもう、グレイヴェイルの人間じゃないんだから」
「そんなことよりアーシェ様、先程私が走り始めたと同時に魔法陣展開しましたよね?」
「そうだけど」
「早く片付けたいのは分かりますが、いつものタイミングにしてください。危うく死にかけるところだったんですから」
さっきの状況についてカイはアーシェに注意するが、アーシェは顔色一つ変えない。
それどころか、「カイなら間に合うって知ってるから」と、まっすぐカイの目を見て伝えた。
初めて父や自分と会った時とは思えないほど喋るようになったと、ユリウスは微笑ましく二人のやり取りを眺めていた。
相変わらずの淡白さではあるが、その背中は十年前よりもずっと頼もしく見えた。




