救援の指名
──十年後。
賑やかな外とは違い、ここ王国ギルドのロビーでは深刻な空気が漂っていた。
今朝方、魔物討伐で遠征中のパーティー"蒼穹の剣"のメンバーの一人が重傷を負った状態でギルドに帰ってきたからだ。
蒼穹の剣の討伐内容は、畑荒らしをする魔物の討伐とその魔物の出処の消滅だった。
無事に依頼は完遂したものの、帰ろうと王都に向けて森を歩いていた時に背後から魔物に襲われたらしい。
常時気配察知を展開していたが引っかからず、今残りの二人が負傷しながらも応戦中との事。
それを聞いたギルドマスターのディスタルは、Aランク以上の冒険者を緊急招集し、会議を開いていた。
「その魔物はどんなのだった?」
「アンデットです…。物理攻撃が一切効かず、魔法で応戦しましたが私たちの魔力が先に尽きてしまって……」
だから今は、残りの二人が物理攻撃で対処しているが、それもいつまで持つか分からない。
蒼穹の剣は全員Sランク冒険者。そのSランク冒険者が重傷または負傷するほどの相手ということで、会議に参加しているAランク以上の冒険者たちからは不安の空気が消えない。
「・・・・サリナ、煤色の魔女に声をかけてくれ」
「煤色の魔女?」
「煤色の魔女って、確か幼くして王国最強になった・・・」
「このギルドでも最年少だろ?」
ディスタルの一言に、冒険者がざわつき始めた。
それもそうだ。煤色の魔女はアーシェの二つ名で、十年前、アーシェが描いた魔法陣を宮廷魔導師団長のイザベルが見ると「この才能は育てるべきだ」と国王に進言し、瞬く間にアーシェの噂は王都中に広まったのだ。
アーシェがギルドに登録したのは五年前。
十歳の誕生日に国王からの贈り物ということで、本来なら15歳から登録という規律だが特別に二つ名と冒険者登録をさせてもらった。
今はSSランクというギルドでも王国でも唯一の存在となっている。
「煤色の魔女様到着しました、!」
「緊急招集って言われたんだけど、何?」
「あれが、最年少にして王国最強の・・・・」
数十分後、ギルドに顔を出したアーシェは今までの経緯をディスタルから聞いてただ一言、「そう」と返事をした。
「頼む」と頭を下げるディスタルの横を通り過ぎて、椅子に座る蒼穹の剣のメンバーのイオナ・アジスタに「よく耐えた」と告げる。
それを聞いたイオナの目からは、安心と今までの我慢が溜まったであろう涙が溢れだした。
「場所は地図で確認済み。カイ」
「はい」
カイは持っていた荷物をアーシェに渡し、アーシェは受け取ったローブに袖を通して杖に付いている鈴を鳴らした。
そして、サリナを見て口を開いた。
「サリナ、これをえっと・・・」
「・・・イオナ!イオナ・アジスタ!」
「これをイオナさんに。残りの二人は向こうで治してくるから」
魔法陣の上に立つアーシェは、ポーチから小さな巾着袋を取り出してサリナに投げ渡した。
「あ、それ試作品だから帰り次第効果聞かせて」
その言葉を残して、アーシェは転移魔法でサバルの森に向かった。
「試作品渡すなんて、あいつらしいな」
「ですね」
アーシェが転移した後、どんな状況下でも変わらないアーシェの態度にクスッと笑うディスタルとサリナ。
イオナがサリナから小さな巾着袋を受け取り中身を確認すると、紙に包まれた飴玉が三個入っていた。
中に用紙が入っており、アーシェの字で"治癒魔法が付与されてる飴玉。舐めるもよし、噛むもよし。ただ絶対飲み込んではダメ"と書かれている。
おそらく、飲み込めば効果がないことだろうと思ったイオナは、飴玉を巾着袋からひとつ取りだして紙を剥いで口の中に放り込んだ。
イオナがカリッと飴玉を噛んだ瞬間、治癒を掛けられているかのように緑の光に包まれ、さっきまであった大怪我や小怪我が次々と消えていく。
その瞬間を見たディスタルやサリナ、冒険者たちはイオナの怪我が治ったことと飴玉の効果に歓喜の声を上げた。




