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手首より少し上の場所から、赤い血をしたたらせ、女性は俺に「驚かせてごめんね」とか「びっくりさせちゃったね」とか笑っていう。
俺らなら、そんな事をやられたら怒るし、痛いだろうに眉を下げて謝る人間に、おもわず毒気が抜かれた。
『人間なんてみんな、俺や仲間を苦しめるヤな奴のはずだろ? なのに…、なんで俺が悪いみたいに感じるんだよ…』
『みんなが同じ訳ないだろう? 君は本当に、仕方がないなぁ』
そんな呆れた視線と考えが、紫雫から伝わってきた。
しばらくいなくなってた女性は、怪我の手当てをしてきたらしい。
紫雫は、お腹がいっぱいになるまで食べたのか、怪我の手当から帰ってきたばかりの、俺らに餌をくれた人の肩で寛いでいる。
あいつの爪尖ってるけど、痛くないのか? ついどうでもいい事に気を取られてしまう。
「君…、人懐っこいカラスくんだね。元気になるまで、家にいていいからね。うーん、名前ないと不便よね…。家にいる間は影山くんって呼ぼう。そんな感じするし…。キツネくんはー…」
女性は考える素振りをする。
「そうだな…。赤毛っぽいし、紅と書いて紅って名前はどうかな? 私の紅葉って名前の一文字からとって! 短い間でしょうけど宜しくね!」
ウキウキした表情で、紅葉という女性は言う。
『俺とそいつには、暁と紫雫って、立派な名前が!』
そう反論したかったけど、正体を明かす訳にもいかないので、「コーン」と小さく反論した。
影山くんと名付けられた紫雫は、『あだ名なんて初めてつけられた!』と満更でもない様子だった。
「私ね、あの扉の向こうでカフェを開いてるの。でも動物飼うとうるさい人いるから、お店開けてる時は、ここか裏庭でおとなしく遊んでてね。だからみんなには君たちの事は内緒ね? だけど今日はお休みだから、自由にしていて良いからね?」
いたずらっぽく微笑う紅葉さんに、俺は少し笑ってしまいそうになった。
『しばらくここにいてもいいみたいだね。もう少し人間の事知ってから、ここを出ていこう?』
そう俺に伝えてくる、紫雫に、俺は人間の事を知らなさ過ぎるのは、否めないと思いコクリと頷いた。
そうして、気軽に過ごしていた僕らの正体は唐突にバレてしまった。
裏庭の畑に足りなくなった野菜を採りにきた紅葉さんに、俺らが変身する瞬間を見られたのだ。
ご飯をくれ、時間がある夜にはブラッシングしてくれたり撫でてくれる。
こんな日々も悪くないな。そんな風に思い出した頃、唐突に妖だという真実がバレたのだ。
先に延せたらと思い始めた、別れの時期が、来てしまったのだと覚悟を決める俺達だった。




