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こずるい



 男は足元に落ちた白い布を拾い上げた。


「何故こんなところに……」


 ソレは戦場には場違い過ぎる布。

 かつてこの男が地球にいた頃、幾度となくしてお世話になってきたソレを男は懐かしそうに見つめた。


「白ブリーフか……。儂も世話になったのう」


 男はこの世界にはないゴムの感触を楽しみながらヒラヒラとソレを弄ぶ。


「ん?」


 しかし男はこのタイミングであることに気が付いた。

 この布、一見何の変哲もない白ブリーフなのだが、よく見ると本来足を出すための穴がふさがっているのだ。


「どういう事だ?これはただの白ブリーフではないのか?」


 疑問を持った男は白ブリーフの中を覗こうとして──


「【ホーリー・フラッシュ】」


 突如、辺り一面を眩い光が包む。


「うっ、ぁぁぁぁっ!」


 いくら強靭な肉体を持って今としても、目くらましには耐えられなかったようで、男は顔を抑え蹲る。


 リシアは勢いよく魔法袋から飛び出すと、聖剣に魔力を流して斬りつける。


「やっぱり通らないのね──なら、通るまで切り続けるまで!」


 リシアは更に剣撃を加速させる。

 常人には到底不可能なその攻撃の数々は一種の芸術のようにも見える。


 しかし、それでも刃は通らない。


 しばらくして、視界を回復させた男は身を翻してリシアに向き直った。


「残念じゃったの。次は儂の番じゃ」


 男はリシアに接近して拳を振るう。


 戦闘における技術はリシアの方が遥かに上であっても、それに対応するだけのスキルが男にはある。


 ──このままじゃ埒が明かない!


 リシアは拳を防ぐのではなく、受け流すようにして躱し男から距離をとる。

 歯を食いしばるようにして男を睨み、呟く。


 翔太に教わったあの技を使うべきか……??と。


 いや、迷う暇なんてない。今すぐケリをつけよう。


「【ホーリー・フラッシュ】」



「クソっ。目がっ目がァァァァ」


 リシアは魔法を発動すると再び視界を奪う。

 そのまま距離を保ち、光属性魔法の詠唱を始める。


「聖なる光よ。我が願いを力に変え──」


 そして、のたうち回る男が視界を回復する直前まで引き延ばした魔法を放つ。

 

 「【オメガスラッシュ】!!!」


 剣に纏わる光が激しさを増しやがてひとつの大剣が生まれる。


 これが聖剣の本来の姿。翔太の持つアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉と同様、身の丈ほどあるその剣をリシアは男に向けて振り下ろす。


 力の奔流に呑まれ、辺りは一瞬にして焦土と化す。

 大きく空いたクレーターの上で──無傷の男がそこに立っていた。


「なっ!?」


 これには流石のリシアも驚いた。魔王のペトラにさえ深手を負わせたはずの攻撃が、この男には全くの無傷だったのだから。


「もうお終いか?」


 男は挑発気味に笑う。

 

「流石の儂も少しばかりヒヤヒヤしたぞ」


 リシアにとって、今のは正しく本気の一撃である。

 それを男も理解していた。

 

 故に男は笑う。こいつにも負けはしない、と。


「【ホーリー・フラッシュ】」


 リシアは再び視界を奪う。


「ああっ!クソっ!」


 本日3度目。男は目を焼くほどの光を受け地に踞る。


 そんな男をリシアは斬り続けた。



「【ホーリー・フラッシュ】」


「【ホーリー・フラッシュ】」


「【ホーリー・フラッシュ】」


「【ホーリー・フラッシュ】」


「【ホーリー・フラッシュ】」


 ──────


 ────


 ──


 幾度となく続く目潰し。

 

 何度弾かれようとも止むことのないリシアの剣撃はやがて夜を斬り、雨を斬る。


 しかし、それに気が付かないほど、彼女はひたすら男の身体に刃を打ち付けた。


 そして──パリンっ!


 何かが弾けるような音が鳴った。


 リシアは直感する。


「今だ!」


 何故か上手く魔力を練ることが出来なかったが、気にしない。


 リシアは腕力だけで剣を振り抜き、男の首を刈り取った。


 敵感知スキルに反応はない。


 ──よし。やっとだ。


 ここは戦場。リシアはその男に何か思うこともなく、味方に合流するよう、踵を返す。


「やっぱり努力で越えられない壁なんてないんだ」


 真実は、アイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉の【吸魔】により魔力が吸収され、男が魔力を扱えず、【絶対防御】が発動できなかっただけ。


 しかし、リシアにはそれを知る術はない。


 「みんなに合流しなくちゃ!」


 リシアが駆け出しの1歩目を踏みしめた時、背後で大きな爆音がした。


 雨の音を一瞬で無に返したその音は地をも鳴らす。


 ただの、落雷。そのはずだった。


 しかし、今のリシアにとっては、その落雷があまりにも不穏に思えた。


 かつてないほどの焦燥感。

 仲間に合流するのが、当初の作戦。


 しかし、何故か落雷のした方へ向かわなくてはならない気がする。


「……っ!確かあっちにいるのって!」


 翔太だ。


 それに思い至った瞬間、リシアは考えることを捨て、一心不乱に駆け出した。

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