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ブリーフ



 目の前に現れたのは美しき人族の少女だった。

 戦場には不釣り合いなその姿はまるでお伽噺に出てくる天使のようで……。


「そうか、迎えに来てくれたのか──」


 片腕を切り落とされ、出血も止まらない。戦場で深手を負ったエルフの兵士は最早正常な判断もできないまま、ただ霞んだ視線の先にいたその女性へ縋るように手を伸ばし……空を切る。


「【エクストラ・ヒール】」


 その優しい声に心を奪われながらゆっくり瞳を閉じ──


「あ、あれ?」


「大丈夫ですよ。もげてた腕もちゃんとなオロろろろろ」


「だ、大丈夫?理沙ちゃん?」


「う、うん。ごめん。私グロいの無理っぽい……」


 いつかの翔太のように胃の中の物をいってらっしゃい、と送迎する。耐性のない日本人には、本当にキツイのだ。


 ただ、当時の翔太と比べればまだマシな方だろう。

 理沙の場合、この体に転生したのは約半年前。それまでこの身体はリーシャとして、16年以上生きて来きたのだ。

 遺伝子レベルで組み込まれたその闘争本能は完全に失ってはいない。すぐには無理でも、理沙は比較的早くこの環境に適応できるはずだ。多分。


「うっわぁ、これなんだろう?ノロウイルス?いや、もやしか」


 聖女は吐瀉物と睨めっこ。

 キノはそんな彼女の背中を撫でながらやれやれと言った表情でため息を吐く。

 

「理沙立てるー?」


「すみません、キノ先輩。みんなのことはちゃんと私が守りますから!」


「任せたよー?理沙後輩!」


 サボるのに慕われたいキノ、歳上に甘えるのが得意な理沙。この2人は意外と相性がよかった。


 今回の理沙の役割は、戦闘系の上級職についていない者たちの守護。つまり盾役だ。


 キノのように上級職で戦闘系を選択していない者もいれば、そもそも上級職に届いていない者もいる。

 そんな者達の安全管理として回復、守護に特化した、聖女の理沙が抜擢された。


「では、できるだけ固まって行動しましょう。怪我をしたら直ぐに回復。深入りは避ける。それから──オロロロロ〜」


「だめだこりゃー」


 戦争に慣れるにはまだ時間のかかりそうな理沙であった。


 しかし、だからと言ってキノも戦闘に慣れているかと言えばそんなことは全くない。


 彼女は普段からあまり動かないので、当然盗賊や誘拐犯としての活動もしない。

 故に人を殺すのも今日が初めてである。

 更にはメイドというある意味翔太への永久就職の職業を選んだ彼女は当然戦闘職ではないため、他の家族達よりは戦力として劣る。


 メイドの職業に就いた事で、翔太の機嫌を損ねづらくなるという恩恵も獲得したが、戦場では何の役にも立たないだろう。


「いっちょやりますかー。お掃除の時間ですねー」


 キノは布団叩きをぷりぷりと振り回す。

 この布団叩きは魔道具の一種で火属性の魔法が構築できるように付与されている。


 キノがデタラメに振っている布団叩きから飛ぶ炎に引火すればたちまち命を奪う業火となる。


「私、意外と戦えてるんじゃないですかー?」


 そしてこのドヤ顔だ。


「キノちゃんさすが〜」


 普段は背まで届くほど伸びたキノの灰色の長髪で作られたお団子をポプポプ叩きながら、セレナは彼女を称賛する。

 

「貴女に褒められても嬉しくないですーだ!」


 今、キノが仕留めた敵は全て、罠師のセレナが作った落とし穴に嵌った敵である。キノはあくまで動けない敵を倒したまで。言ってしまえば半分以上がセレナの手柄と言える。


「謙遜しなくていいんだよ〜!キノちゃんすごーい」


 姦しく騒ぐ二人。

 その後ろでは理沙が、セレナの作った小さな穴に胃の中のモノを送迎していた。



──〇〇〇〇──



 また、本陣から少し離れたところでは、リシアが一人の男と対面していた。


「貴方は転生者って聞いたのだけど」


「如何にも。儂は元宇宙人の者じゃよ」


 見た目は20代くらいで筋肉質。

 プロレスラーのようなガタイのいい男だ。

 一人称が儂なのは恐らく彼が転生前、それなりに長生きしていたからではないだろうか。


「貴方は女神様によって転生させられたはず。どうしてきのこ派ではなくたけのこ派の味方をするの?」


「安直よ」


「安直?」


「そうじゃ。お主は恩人がそれを好いているからと、自らもそれに好意を持つことができるのか?」


「…………」


「儂は一度目に産まれた時からずぅーっとたけのこ派じゃよ!」


 言い終わると同時にその男は【縮地】で距離を詰めるとリシアの顔ほどある拳を胴体目掛けて思いっ切り振り抜いた。


「甘いっ!」


 喰らえば勇者といえど無事では済まない一撃。


 しかしリシアはその攻撃をしゃがんで躱すと、そのまま低姿勢のまま距離を詰め、喉元を狙って聖剣を突き出す。が、


 ──カキンッ


「嘘、通らない!?」


 聖剣の刃は見事に弾かれる。

 そして、一瞬硬直したリシアの隙を男は見逃さない。


「ウォラッ!」


 男はそのまま聖剣を掴むと、聖剣ごとリシアを近くの岩へ叩き付けた。


「っぐっ!」


 そこへの追撃。男はリシアに再び拳を振るう。


「がはっ……!」


 この男が女神にもらったスキルは2つ。

 【絶対防御】と【魔力自然回復】

 前者は魔力を身体に循環させている限り、あらゆる攻撃から身を守ることのできるスキル。後者は文字通り魔力を自然回復し続けるというものだ。


 相手の攻撃は一切効かず、更には自然回復によって永遠と魔力を補給し続けることができる。


 この2つの組み合わせにより、男はこの世界で勝てない事はあっても、負けた事は1度もなかった。


「死ぬがいい!」


 魔力を乗せた拳。

 男は完全にトドメを刺しにかかっていた。

 リシアはクレーターに嵌って動けない状態。


 万事休す。リシア本人でさえそう思った。


 しかし、ここで奇跡が起きる。

 

 ずっと知力を馬鹿にされてきた彼女の頭にある考えが閃いたのだ。


 男の拳が岩を貫き粉々に砕く。


「ほっほっほ。儂の勝ちみたいじゃの……何?何処へ消えた?」


 男は狼狽える。先程までは確かに敵は岩に張り付けになっていたはず。


 この一瞬で何処へ……?


 男は辺りを見渡すが、そこに先程までの少女の姿はどこにもない。


「クソっ。面倒くさい!」


 

 男の足元には、彼も見覚えのある白い布が一枚落ちていた。


 

ブックマークありがとうございます。

ついに90いきました!いえい

あと10でやっと中流作家だ!!!


評価の方もありがとうございます!

高評価とっても励みになります。


これからもよろしくお願いします!


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