お熱いですな
──その日、我が家のエルフが全員倒れた。
我が家のエルフは9人。
その全員が謎の高熱にうなされているのだ。
「エレナ、大丈夫か?」
しかし、ペトラにも協力してもらい、回復魔法を掛けてはいるものの病状が良くなる気配はない。熱以外に目立った症状はないものの、症状はひどく、とても起き上がれる状態ではない。
「ご主人様……世界樹が……」
世界樹?
『女神様!』
『え、ええ、今見て来たわ……。状況は最悪……。神族がドワーフを率いて世界樹の伐採を企んでいるみたい』
神族……ドワーフ……。ドワーフなら前に戦場で見た事がある。けど、神族ってのは一体?
『下級の神は下界で暮らしているの。そのうちの一人が今回の首謀者なのだけれど、世界樹を切り倒そうとしている。目的自体はわからないわ。でも、もしあれを失うとすれば、この世のエルフは間違いなく絶滅するでしょうね」
「絶滅って……みんな死ぬってことですか!」
感情的になった事を俺は即座に後悔する。
声に出してしまったせいで、家族が皆、不安そうにこちらを向いたからだ。
『それじゃあ、この高熱ってのも……』
『いえ、これは世界樹からの危険信号みたいな物よ。ここに居る子達はみんな魔力が高過ぎて影響を受けているけれど直に熱も下がるわ』
『そうですか……』
俺は安堵のため息を吐く。
ただ、今の話が本当ならば、一刻でも早くドワーフ共を止めなければならない。
さもなければ、ここに居る家族達を失うことになる。
『今は他のエルフ達が戦争の準備をしているわ。最大限持ち堪えても後1週間といったところね』
女神様の話によると、世界樹の木の幹は東京都の面積と同じくらいあるらしく、滅多なことじゃ折れない。
だからと言って悠長に構える事はできない。
このままでは1週間以内に、家族が死ぬ。
「全員、緊急会議だ」
俺は今し方女神様から得た情報をみんなに流す。
今エルフの国ではドワーフとの戦争が起こっていること。これを放置すればエルフは1人残らず死に絶えること。
「──ということだ。もうしばらくすれば、アイツら達の熱も下がるだろう」
全員が険しい顔のまま、状況分析に勤しんでいる。
「主よ。出発はいつなさるのですか?」
出発?
「私は今すぐにでも出れます。エレナさん達が死んでしまうかも知れないなんて、耐えられません!」
「私もです!一刻も早く準備して世界樹の元へ向かいましょう」
「お前達も着いてきてくれるのか?」
「当然ですよ!こういう時の為の力じゃないですか!」
「キノ……お前……」
まさか、彼女の口からそんな言葉がでてくるとは思いもしなかった。
「惚れ直しました?」
「ああ」
助けるのは当たり前、彼女らはそう思っている。そう思ってくれていたのだ。
俺はそのまま辺りを見回すと誰もが同じ決意に充ちた目で俺を見ていた。
今こうして声を上げてくれた子の中にはキノを始めとした人族や魔族の子達もいる。
彼女達は種族の壁を越えて、家族として向き合ってくれていたのだ。
そうか……もう俺の独りよがりじゃなかったんだ。
それを知ることができて嬉しくないわけがなかった。
俺はキュッと心臓を締め付ける何かに心地良さを感じながらも、真剣な顔で告げる。
「準備が出来次第出発する!日が沈むころを目安にしておいてくれ!」
「「「はい!」」」
戦おう。得る為ではない。守るために為に。
──〇〇〇〇──
夜にはエルフの子たちもだいぶ熱が下がったようで、普通に準備を進めていた。
「リシア、とりあえずエルフの国まで頼めるか?」
「ごめん。転移魔法は1回でも訪れた事がないとダメなの」
「マジか!ペトラは?」
「ペトラも亜人族の国には行ったことないかなー」
「あの、私が送りますので、お気になさらず」
「体調は大丈夫なのか?」
どうやらアンジーさんが転移魔法を取得しているらしい。
俺でさえ覚えてないというのに……。
いや、今はそんなことどうでもいい。
「問題ありません。ひとまず、私の地元に送らせて頂きます」
「そうか、それじゃ頼むよ。みんな!出発だ!」
俺たちは手際よく魔法袋に入ると、そのままエルフの国に転移した。
──〇〇〇〇──
そこは自然に囲まれた地。
緑豊かな木々の中に、木造の建築物が並んでいる。
月明かりはほとんど届かないものの、キラキラと光るホタルのような虫や淡い街灯が辺りを照らす。
「頭は隠しとけよ、人族ってバレたら厄介な事になるからな」
獣人族はこの街にもちょくちょくいるようで、特に問題は無い。ただ、俺やリシア達人族やペトラ達魔族が招待を悟られるのは少々まずいのだ。
「「「はっ」」」
全員が自前のマスクや仮面を装着する。
俺はクハクが変化したスヌードで顔の下半分を隠す。
口元だけのガスマスクも、美女が付けるだけでとてもよく映えるらしい。
キノはま〇もっこりみたいな目のアイマスクを付けているのだが……それどうやって周りを見てるんだ?
ちなみにリシアは伊達メガネ、ペトラはオペラ座の怪人みたいな仮面だ。
「まずは情報を集めるか。1時間後に、ここに集合でいいか?」
「「「御意」」」
「散開せよ!」
家の外では気を引き締めるために、俺をリーダーとして組織立って行動するように決まっている。
こういうのって何度やっても興奮する。ワクワクとドキドキが治まらないよね。
「男なら誰でも憧れちゃうよなぁ……」
俺の指示でしゅぱぱぱぱぱーと忍者のように解散して行くみんなの後ろ姿を眺め俺は感傷に浸る。
その場に残ったのは俺とアンジーさんだけ。
アンジーさんは俺の左斜め後ろで跪いている。
「主様、私に着いて頂きだいのですが……」
「良いけど、宛はある?」
「はい。一応両親に紹介をと思いまして」
「 うわっ、びっくりした!」
急に立ち上がるものだから、うっかり素が出てしまった。主に有るまじきミスだ。
両親に紹介ってどういうことだ?
それってもしかして、俺を正式な主人として……
「あ、違います!違いますよ!あわよくば結婚を狙ってるとかそういう訳ではありません。決してそんなのではありません。ただ、今後こっちでも動きやすいようにと思いまして。実は私の家、そこそこ力のある家ですので……」
嘘をつくな!リシアとアンジーさんが、婚期を逃した的な相談をエレナにしていることろはよく見かけるぞ?
「なるほど。俺たち人族だもんな」
多分彼女も100歳を過ぎて少し焦っているのだと思う。
けど、とりあえずここは鈍感風主人公でいく。
「はい。それで、主は年上派ですか?年下派ですか?」
え、その話まだ続くの?
「俺は一応年上だけど……」
姉さんがトラウマになっているからか、尻に敷かれるのは苦手だけど。
「いいいい、いくつまでですか!100歳差のエルフにも可能性はありますか?」
目が怖い、目が怖い、目が怖い!
顔が近い、顔が近い、顔が近い!
「ん? んん。まぁ、問題ないかな〜」
アンジーさん、見た目だけなら20代だし、寧ろ大人の色気が出ているぶんとても魅力的な大人の女って感じなんだよね。自分の祖母より歳上って考えるとまぁ、思うところもあるのだけれど。
「あ、ありがとうございます。とってもありがとうございます。ではもう一度転移するので、こちらの袋に……」
「ああ」
とってもありがとうございますって言葉、なんかジワジワくる。ちょっと気に入ったかも。
そんな事を考えながら、俺はそのまま魔法袋に入って到着を待つ。
俺もそろそろ転移魔法覚えないとなぁ……。
こうして俺は昼間とは見違えるほど元気な年上のお姉さんにお持ち帰りされるのであった。
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今回は家族たちも活躍するので、是非お楽しみに〜




