カバとバカとロリ
「ちょっといいですか?」
俺の部屋でオリヴィアと小さなパーティーをした後、女子寮まで彼女を送った。
今はその帰り道だ。
俺たちは俺たちで、大分遅くまでパーティーをしていたというのにまだ外を彷徨いてる奴がいるのか。
「ん?」
あぁ、確かこの子が王子の新しい婚約者だったかな?
さっきオリヴィアから聞いた子の特徴とドンピシャにマッチしている。
この栗毛もぱっちりお目目も少し低めの身長も。その全てが主人公らしい。まさに乙女ゲームのメインヒロインって感じだな。
指図め、オリヴィアは悪役令嬢ってとこか?
「ごめん。俺、カバの世話があるから!」
嘘だ。この世界でカバなんて1回も見てない。
いるのかな?好きなんだよな、カバ。
「やっぱりあなたが……少しお時間貰います。着いてきて下さい」
なにがやっぱりなんだよ。
レナードの新しい婚約者は俺の手を掴んで引っ張ろうとする。
「待って下さい!王子様の婚約者とあろう方が他の男性の体に触れるのはあまりよろしくないかと」
「いえ、まだ正式には婚約してませんよ」
あ、そうなんだ。
というか、元が平民だからかな?あまり高貴さを感じない。いや、平民だからこそ、本来は俺なんかにこんな態度を取るのは問題のはずなんだが……まさか、王子様の婚約候補になったからって、調子に乗ってるとか?
うわぁ、虎の威を借るとか最低だわー。
俺は手を離した後ずんずんと外廊下を進んでいく彼女の後を3歩ほど後ろをついて行く。
時々掛けてくる言葉に適当に合図地を打ちながら歩くが、最早俺にはこいつの話を聞く気はなくなっていた。
敵とまで言うつもりもないけれど、やっぱり印象はよくないし、こいつも多分NっTRの固有スキルを持ってるに違いない。ついでに虎の威を借る者の称号を持ってるはずだ。間違いないね。
しばらくして彼女が階段を上っていくタイミングで、俺はそのまま隣の道を進んで行った。
ぜひみんなにもごく自然な流れで人を巻くには階段が1番最適だと覚えておいて欲しい。
結局、その日あの子が訪れることはなかった。
──翌日。つまり、魔術大会当日の朝。
「ひどいじゃないですか!昨日あっちこっち探したんですよ!」
「いやぁ、トイレ行きたくなっちゃってさ」
俺の言い訳にジト目を向けてくるも多少怒りが治まったのか少し大人しくなった。
「開会式の後、訓練所に待合せましょう」
自分の言いたいことだけを言って帰っていくリーシャ。
よくわかんないけど、事情があるみたいだし、一応会っておくか。
──〇〇〇〇──
「ちゃんと来てくれたんですね」
「お前が金貨3枚くれるって言うから」
「言ってません!」
「あっそ。で?なんの用だ?俺カバの……」
「その話はいいです!」
例えバレるような嘘何度も繰り返せばそのうち真実味を帯びるようになる。これ、自論です。
「まず、ひとつ私から告白することがあります」
「断る!俺、おっぱい大きい子がいい」
「そっちじゃないですよ!どこのラブコメですか!」
この子はツッコミ担当か〜。って……え?
今この子ラブコメって言わなかったか?
この世界って確かカタカナ言葉はあんまり普及してないはずじゃ……
「私、元日本人の転生者です」
「おー!まじか!俺以外の日本人初めてみた!」
実際俺が今住んでるのも日本人が作った家だけれども、こうやって日本人と話す機会は何ヶ月ぶりとかだ。
「あの、私とオリヴィア様を助けてもらえませんか?」
「助ける?」
あまりにも想定外の言葉に俺は目を丸くする。
よく分からない。何から?なんのために?
しかし、彼女の目は本気で、唯ならぬ覚悟を感じる。
「私、この世界を乙女ゲームの中だと思ってたんです。だからレナード様に好かれようと必死だったんですけど、他の日本人がいるという事はもしかしたら違うんじゃないかな?と思いまして」
「まぁ、確かに俺の人生は乙女ゲームって世界観じゃないな」
「ですよね。だったら私がここにいる理由はありません。レナード様と婚約する必要もありません」
「ん?でも、あいつ王子だろ?人生勝ち組じゃねぇか?俺だったら美人な王女様に求婚されたら嬉しいけどな」
「無理です。確かに見た目は悪くないですけど、中身ゴミクズじゃないですか。私、今かなり怒ってますから」
「際ですか……」
王子に選ばれた側のヒロインが王子を嫌ってるって結構新しい展開ではないだろうか?
リーシャはずいっと顔を近づけて俺の瞳を覗き込む。
確かに怒ってるな。
……あれ、もしかして俺に怒ってる?レナードじゃなくて?
「と、とりあえず要件はわかった。けど、お前は何に怒ってんだ?」
「オリヴィア様の事ですよ!あんな素敵な人、他にいますか?私は見た事ないです。クラスメイトを守るために戦うところとか、かっこよすぎでした!なのにあのクソ王子はあろう事か、オリヴィア様を──」
俺は彼女の肩を掴んで顔を遠ざける。
どうやら、リーシャは俺と同じ考えらしい。
「乗った。まぁ、何とかしてやるよ」
こいつも日本人ならチート持ちということだ。
保護するという名目でお持ち帰りします。
「それじゃあな、リーシャ」
「あ、あの!」
「ん?まだなんかあんのか?」
「私はリーシャじゃなくて理沙です。三鷹理沙」
あぁ、日本の名前か。
「俺は翔太。春野翔太だ。誘拐犯をやっている」
「やっぱり……」
「やっぱり?やっぱりってなんだよ!」
「貴方からはロリコンの臭いがします」
「嘘だ!俺は年上のお姉さんが好きだぞ!」
「では、小さい子は好きではないと?」
「ロリめっちゃすこ」
「ちょっと身の危険を感じてきました」
「あ?別にお前はそんな歳でもないだろう」
「いえ、転生する前は中二でした。というか、ロリコンの由来であるロリータさんも14歳ですからね。私と同い年ですよ?」
「へぇ、ロリって小学生とかの事だと思ってた」
「まぁ、ロリコンも和製英語ですし、その日本人の中でもロリ=小学生みたいなところがありますしね。いちいち間違いを論う必要もないかと。わかってても雰囲気をふんいきと言わず、ふいんきと言うようなものでしょう」
「ははぁ。ちょっと感心したわ。お前頭良さそうだな」
「いえ、それほどではありませんよ」
「けど、一応これだけは弁明しておきたいんだけど、別に幼女に対する性愛は一切ないからな」
「そうなんですか?」
「言っただろ?俺が好きなのは年上のお姉さんなんだ。歳下に欲情したりはしないんだ。それに──」
それに、小さな女の子を見て癒されない奴の方が珍しいと思う。ミリィのあのあどけない笑顔に何度心洗われた事だろう。
「あーあー、おっぱいが重いなぁ。誰か半分持ってくれないかなぁ」
「お呼びですか?お嬢様。ぜひともこの私めにお任せを」
「ワンパンじゃないですか!」
「き、貴様!オイラを騙したな!」
「それ死亡フラグですよ?」
「おいおい誰が死ぬって?」
「ははっ。リーシャ、そんなに楽しそうに話さないでくれよ。妬いちゃうじゃないか」
「「うっ」」
そんな言葉を掛けながらこの場に姿を現したのはこの国の王子レナードだ。
リーシャはその声を聞いて、露骨に嫌な顔をしたけれど、レナードからは死角になっているため見えていない。
なるほど、確かに死亡フラグってあるみたいだ。
「そ、そいじゃあ、ワシは失礼しやすぜ」
関わっても面倒事にしかならない。
俺は早々に退場しようと歩みを進める。
「~~~~~」
そして俺はふっと苦笑いをした。
俺がレナードの横を通り過ぎた時、理沙に聴こえない小さな声で、『次はない』と呟いたからだ。
俺は振り返らない。
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悪役令嬢編、少し長引きそうなので終わるまでは毎日更新します!
次章は世界樹編です!




