手紙
買い物から帰って来た俺たちは各々部屋の整備に取り掛かった。
俺はペトラが東の共和国で買ってきたタンスなどの家具を設置し、ペトラはその家具に服や小道具を詰める。リシアはその間夕飯の準備だ。
買ってきた棚のうち2つには異空間収納のスキルを付与してもらい冷蔵庫もどきと無限衣装ダンスを作った。
家具が少なくて済むから部屋はそこまで広くなくていいし何とかなりそうだな。
ちなみにベッドは買わなかった。
部屋が狭いというのもあったが、2人がすっかり床暖に取り込まれてしまったというのが大きいだろう。
気づけば2人ともうっとり顔で絨毯を撫でている。
寺谷愛美さんは絨毯の上に敷布団を敷いて寝ていたけれど、2人はその敷布団でさえ要らないという。
絨毯の上に直接寝転がり毛布をかけるスタイルだそうだ。
寝起きで身体痛くなったりしないのかな?
リシアはともかくペトラは元王様だろうに……
俺の想像もつかないようなでっけーふかふかベッドで寝てたんだろうな。
……いや、そういやペトラって寝たことなかったんだったか?
俺とペトラがあれこれ作業をしていると上の階から声が届いた。
「ご飯できたよー」
階をつなぐ扉さえ開いていれば意外と音の通りがいいみたいだ。
俺とペトラは作業を終え、階段を登ると地下一階の机の上には野菜をメインとした料理の数々が並んでいた。
「美味そう!」
野菜炒め、サラダ、クラムチャウダーっぽいやつ、とどれも美味しそうなものばかりだ。
「リシア! 肉がない! 野菜しかない!」
ペトラの指摘で俺もはっとする。
確かにこの料理の数々には肉が全く入っていないのだ。
「私はベジタリアンなの!」
腰に手を当て無い胸を張るリシア。
シャツ1枚だと余計わかりやすいな。
確かにリシアがベジタリアンなのは以前聞いてるけど、俺たちには関係ない話ですよね。
「結局の話、狩られる側は勇者だったって話かしら? ねえ、草食動物?」
「おい、ペトラ口調! 全く、挑発すんじゃねぇよ。飯の時ぐらい楽しい話しようぜ! ステーキだったら俺が直ぐに焼いてきてやるから」
俺は先程買ってきた肉をペトラの出してくれた火で炙り塩コショウみたいな臭いのする粉と唐辛子みたいな粉を軽く振りかける。
ペトラの機嫌が悪くなるぐらいだったら俺が働いた方がマシだ。
料理が冷めるから先に食べてていいと言ったのだけれど、2人は律儀にも俺を待ってくれた。
俺はペトラと自分の席にステーキを置き席に着く。
「それじゃあ、いただきまーす!」
「「いただきまーす」」
ちなみにいただきますはこっちの世界でも普及していた。これも宇宙人の影響らしいけれど。
「明日っからどうするか」
「とりあえずは翔太のレベル上げじゃない?」
「そうだな、俺も弱いままじゃ何もできないし」
「しょーたが戦闘の余波で死なない程度までレベルを上げてから、ダンジョン攻略に行こう!」
「おお! ダンジョンか! 異世界っぽい!」
この世界にはダンジョンマスターという称号を持った魔族が何人かいるらしい。
彼らは世界各地にダンジョンを構え、挑みに来る人族を返り討ちにして生計を立てているそうだ。
当面の方針が決まった俺は雑談を交えながら青々しい夕飯に手をつけるのだった。
リシアには感想を伝え忘れていたけれどちゃんと美味しかった。苦味が消えていて食べやすい味付けとなっていて野菜嫌いな俺でも残さず食べることができた。
一方ペトラはかなり渋っていた。緑黄色野菜は彼女にはきつかったようだ。結局残したぶんはリシアが食べていたのだけれど、ステーキを食べる時のペトラの顔はそれはもう幸せそうだったので、いい夕食にはなっただろう。
ちなみに、ちなみにちなみにリシアはサラダに調味料を加えない派だった。
どんな派だよ……
──〇〇〇〇──
2人が地下三階で寝静まった頃、俺は地下一階の机で書き物をしていた。
日本にいる家族、それから友への手紙だ。
家族への手紙にはこれまでの事を1割、愚痴を9割書いた。お父さんの会社が御倒産したせいで大変な目にあったということをずらずらーっと書き連ねたのだ。
しかして、最後にはハッキリと書いた。俺はもう自分の意思では日本に帰る気はないと。
俺はこの世界で目標ができた。これは元の世界では得られなかったものだ。だから俺はこの世界で得た目標のために生きたいと綴ったのだった。
日本での唯一の友、伊織への手紙には主に謝罪だ。
不登校だった俺が、2年生になったら学校に行くという約束が守れなかったからだ。
伊織が俺の話を信じてくれるかはわからないけれど、それでも今の俺のことを聞いて欲しくて、下手くそながらも多くを綴った。
「これじゃ長過ぎて読んでもらえねぇかもな」
俺は家族用の手紙にペトラが作ってくれた宝石の数々を付属し、伊織の手紙には宝石とポーションを1つ付属して送った。
ちゃんと届くといいな。
『大丈夫よ! 私が責任持って届けるから』
女神様が言うのなら間違いないだろう。
女神様の職業は超級職の召喚士らしい。
異世界に転生させたりといった能力は、このおかげ。
やっぱり神様だけあって凄いんだなぁ。
俺は女神様が教えてくれた魔法陣を展開して手紙を郵送した。
「ありがとうございます」
俺はもう振り返らない。
空には三日月が登っていた。




