表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/329

通過儀礼




「はいはい、ストーップ!!兄ちゃん。待てよ」


 そう言ってモヒカン頭のごっついおっさんが絡んできた。

 驚いているうちに更に2人の冒険者が俺を囲む。



 ちっ……すっかり忘れてた。

 そうだ……冒険者ギルドに来たらこれだったじゃねぇか。



 幾百もの異世界もの小説を 網羅してきた俺に有るまじき失態だ。いっその事、死んでしまいたい。……なんていうと、じゃあ死ねよなんて暴言が飛んできそうで怖いが、失念していた自分を責めたい。

 まあ過ぎてしまったものは仕方ないので、今回は許してやるが。よかったな俺。



 ただこのイベントはデメリットだけではない。このイベントで大体その異世界の質がわかると言っても過言ではないのだから。


 まぁ、通過儀礼として受け入れよう。


 デメリットだけでないと言ってもデメリットの方が多いのは確かなのだが。


 俺はこうやって絡んでくる冒険者に負けた主人公を今までに見たことがない。

 だからこそ、記念すべき1人目になりそうで怖いわけでして。

 俺、こんなごつい奴に殴られたら一発で失神するぜ?



 ま、まぁ、いい。とりあえず腹をくくれ。

 この後の展開は読めてるぶん俺の方が有利だ。

 普通は俺のパートナーであるリシアとペトラにセクハラ発言をした後、2人にボコされるという流れだ。

 ならば俺はそのシナリオに向けて駒を進めればいい。


「兄ちゃん、えらいべっぴんさん連れてるじゃねぇか。お前の女か?」


 ベタだ。あまりにもベタな展開過ぎてむしろ涙が零れそうになる。このモヒカンの両サイドでニヤニヤ笑ってる奴らも何故か愛おしく感じてきた。


 モヒカンをモブAとするならば、ヒョロい奴がモブB、デブがモブCと言ったところか。


「オラ、兄貴が話してんだ! さっさと答えろよ!」


 そう威嚇してきたのはモブBだ。

 血のついたナイフをぺろぺろしてる。

 あいつ自分の舌を切ってるんじゃないだろうな?


「……」


 いや、よく見て見たらケチャップのついた串を舐めてるだけだった。良かった。安心した。


 まさかこの世界にはケチャップまでもが普及しているのか?

 どんだけ日本人に好き勝手改造されてんだよ。マヨネーズで儲けるイベントももう終わってるってのか?


「おい! さっさと答えるんダナ! アニキの機嫌が良いうちにさっさとするんダナ!」


 そう催促してきたのはモブCだ。

 お腹にでっかいニキビがある。


 いや、あれは腫瘍か?病気じゃないだろうな?


「……」


 いや、よく見たらただのデベソだった。良かった。安心した。


「ああ、俺のパートナー達だ」


 俺はモブ達に対する動揺を隠しながらシナリオを進行させていく。

 

 モヒカンも俺も目指すゴールは違えど、道程は同じ。

 ならば共に最高の作品(茶番)を作り上げようじゃないか!


「ほう、パートナーか。いいねぇ。俺達もそのパートナーに加えてくれよ。ゲヘヘヘ。泣いて喜ぶほど、気持ちよくしてやっからよ」



「へ?」


 何故かよくわからないがその言葉に違和感を感じる。



 待て、このおっさん今なんて言った?



 俺達もそのパートナーに加えてくれよ?



 俺はそのセリフを頭の中で反芻する。

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……




 俺は自分で出した結論に青ざめながらリシアの方を見る。

  母に縋る赤子のように、俺の出した答えが間違いであると願うように。



「あのね、翔太……その、痔には気をつけなよ?」



 うがががががが。



 おっさん共は縄とナイフを弄びながら俺に近づいてくる。

 おいおい、こいつらまじやん。

 たったしゅけてぇ。


「おじさん、ごめんね。ペトラたちは今忙しいの」


 俺が萎れたポテトみたいにへにゃっていると咄嗟の判断でペトラが前に出てくれた。

 ありがとう。流石は魔王様だ。



「はっ、お前たち初心者冒険者だろ?  俺がせっかく教育してやるって言ってんだから、お前たちは大人しくしてればいいんだよ」


 このままでは俺が1番にくっころさんになる気がしたのでひとまずバトンタッチだ。レベル1の俺にできることなんて悲鳴を上げることくらいである。


「スケさんカクさんやっておしまいなさい!」


 俺は猛スピードでリシアとペトラの後ろに下がると2人の背中を押した。この速さばかりは並の冒険者の様子にも劣らなかった自信がある。


 リシアは俺を睨んだ後ため息まじりに、仕方ないんだから、と呟くと渋々前に出てくれた。


「この男が欲しければ私に勝ってからにしなさいー」


 演技力0の迫真のセリフだった。



──〇〇〇〇──


 結局、リシアの戦闘は目で追える速さではなかったため、割愛だ。

 気がついた頃にはみんな地に伏せていたのにリシアが動いたようには、見えなかった。



 流石は勇者だ。癇癪さえ起こさなければその見た目も相まって相当エレガントな女性になれると思う。

 そう。ペトラにいじめられて癇癪さえ起こさなければ。


「慰謝料だ、慰謝料! さっさと有り金全部置いていきな」


 俺は近くにあった椅子に座ると魔王と勇者を盾にしてふんぞり返る。


「ちっ……ほらよ!」


 そう言って俺の足元に投げられたのは多いのか少ないのかよく分からないけれど、とりあえず金の詰まった袋。


 ちなみに虎の威を借る者の付属スキル、絶賛発動中である。


「おい、おっさん。待てよ」


 立ち上がるなりそそくさと退場しようとするモヒカンたちに威圧するように声をかける。


 俺は家から持ってきたカバンをガサゴソと弄り、母に貰った1つのお守りを取り出す。


「おいおい、なんだよこの金はよぉ。これが目に入らねぇってのか?」


「そ、それは、おまもりこ〇ん!?」


「そうだ。おまも〇りこばんだ。お前が支払う金額は2倍だ。さっさと持ってこい!このクソ共が!!!」


 俺は生まれて初めて、歳上を怒鳴りつけた。





初めてブックマーク貰えました!

先を楽しみにしてくださっている方がいるってだけで心救われます。

これからも何卒よろしくお願いします!


このお話に出てくるモブの短編物語もあるので、別作品となりますが、時間があれば、ぜひそちらもお読みください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あまりにもコメディがすぎる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ