勘違い系主人公
おっさんとのいざこざの後、俺たちは予定通り森へと来ていた。
言わずもがな、俺の使い魔のためである。
魔物をテイムする方法は大まかに2つ。
ボコった後に従わせるか友好的に従わせるか。
魔物と人間、種族を超えた友好はそんな直ぐにできるものでもないため、前者の手段の方が多いそうだ。
魔物は本能的に力の強い者に従うってのは、この世界でも同じらしいな。 異世界の定番設定だ。
でもそれで言うこときいてくれんのかなぁ。
「ぱっと出会ってぱっとテイムしたいなら、殴って従わせるほうが楽だと思うけど?」
「でも、せっかく一緒に戦うんだったら、そんな物騒な関係は嫌じゃないか?」
「甘ちゃんね」
甘い……か。
そこに関しては認めざるを得ないな。よく考えたらゲームでモンスターをゲットするときもHP削ってからだし、なんなら毒漬けにしたり痺れさせたり眠らせたり、瀕死ギリギリまで追い込んだりしてきた。
異世界なんて、考えた方によったらゲームの世界に迷い込んだようなものなのかもしれない。
この世界にはこの世界のルールがあるのだ。
そう考えれば、意外と割り切れそうな気もする。
RPGの世界に迷い込んでしまったと思えば……あれ、なんかワクワクしてきたぞ?
俺が甘いってのも今更だ。そんな戯言を通用させるための今日でもあるんだ。
よし、絶対強そうな奴テイムしてやる! 虫以外のね。
そんなことを意気込みつつしばらく歩いてたところで、魔物を発見する。
「しょーた! いた! 見える? あれ! スライムだよ!」
どうやらペトラも気づいたようだ。
木にへばりついた透明のゼリー状のものがぷるぷる震えている。
「翔太、スライムはかなりステータスが低い。それでも初心者の死亡事故率ではスライムが断トツなの。気を引き締めて」
「な、なるほど。これは……核を壊すと倒せるタイプのスライムか?」
「そう。魔法は通りが悪いから刃物で仕留める方が楽かな。ちなみに、スライムの一番厄介な攻撃は張り付き。顔に張り付かれて窒息する冒険者が後を絶たないの。核ごと体内に侵入されたら死んだと思った方がいい」
なんか、スライムが一気に怖くなってきた。
「口を閉じてれば大丈夫。核ごと侵入できる穴なんて人間にはそう多くない。だから、あのね、翔太……その、痔には気をつけなよ?」
「わわわわわわわわかってぃゃっ!」
リシアの話によると、体内に入ってしまった核を取り出すために腸を掻っ捌いた冒険者を見たことがあるらしい。
麻酔のない状況でそんな事をするのも怖いし、それをちゃんと蘇生できる回復魔法やポーションもすげぇよな。
「しょーた!気をつけてね!」
そう言って自身のお尻をぺちぺちと叩くペトラ。
なんか今日、俺の結〇アナめちゃくちゃ狙われてる気がする。
ともあれ、戦闘だ。ここから先は命の奪い合いだ。
俺は腰の刀を抜くと両手で構える。木刀とも竹刀とも違う重量感。
「さて、行くか」
初手、俺の攻撃は鞘による突きだ。核を狙って一直線に剣を突き出す。
スライムは恐らく防御力が高くない。
故に敵の取れる行動はひとつだけ、回避だ。
そこを本命の剣撃で切り伏せればいい。
そこまで瞬時に考え、俺は左手で鞘を素早く突き出した。
──瞬間、バヒュンとスライムが爆ぜる。
「おぉー! お見事! 流石はしょーた!」
あれ? これで終わりなのか?
「なんか、思ったより弱かった」
俺のイメージだと、チートスキルを手に入れられなかった主人公は一生懸命スライムをつついて撃退するって感じだったんだけどな。
あれ? 俺もしかして知らないうちに勘違い系主人公にジョブチェンジしちゃってた?
俺、チート能力なしでも最強でしたパターン?
そう言えば昨日剣術スキルのレベル7は凄いってリシアも言ってたし!
「まぁ、スライムなんて5歳ぐらいの子供が飴玉のお小遣い稼ぎに狩るような雑魚だからね」
「ならなんで戦う前あんなに脅したんだよ!!!」
なるほど、俺が強かったんじゃなくて敵が弱かったのか。ぬか喜びしてしまったぜ。
「慎重になる事は悪いことじゃないでしょ? 油断して死ぬよりはマシだもん」
「そうだな……」
彼女なりの気遣いだったみたいだ。
「ごめん、ありがとう」
どうやら俺がジョブチェンジしたのは勘違い系最強主人公ではなく、勘違い系雑魚モブ野郎だったみたいだ。
ほら、あれ。異世界学園ものとかで、俺TUEEEEって思い込んで威張り散らしてたら転校して来た主人公にぼこされる奴。
後ろに2人の付き人がいる辺も完璧に一致してる。
まぁ、俺の場合はその2人の方が強いんだけどね。
それとも実際は弱いくせに自分を強いと思い込んでるって点では勘違い主人公であっても間違いではないのか?
「ん。それはそうと、レベルは上がったんじゃない?」
「ああ、上がったと思うぞ!変なBGMの後に女の人がレベル6になりましたって」
「おお!凄いね!一気に5個もあがっちゃったんだ!」
「多分経験値は貯まっていたんだと思う。戦闘職の人は魔物を倒さないとレベルは上がらないけど日常生活で貯めた経験値と努力値はそのまま体内に宿されてたんだろうね」
なるほど、それがレベル5つぶんか。
「リシア、努力値ってのはなんだ?」
「努力値というのはレベルに関係なく手に入る力のこと。毎日スライムと戦うレベル10と何もしないレベル20じゃ、前者の方がステータスが高くなるのは努力値のおかげなの。ちなみに、努力値で上がったステータスは転職しても引き継げるっ仕組みだよ」
「つまり、ペトラにキャリーしてもらってレベルだけ上げても、ステータスはそんなに上がらないってことか?」
「まぁ、そんなとこ」
なるほど、よく出来た仕組みだ。
なら、なおのことチャチャッとスキルを獲得して、剣士として修行しないとな。
「よし、次行こう」
具体的に視野が広がった俺は意気揚々と森の奥へと進んで行くのだった。




